漁獲され、窒息死した魚は絶命までに平均10分の激しい苦痛を味わっているとする研究結果

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 ちょっと読むのが辛いニュースかもしれないが、見過ごせない事実だ。新たな研究によると、漁業で捕獲された魚が死に至るまでに経験する「苦痛」の実態が明らかになった。

 漁獲された魚の多くは窒息によって死んでいるのだが、平均10分、最大22分間も激しい苦痛を感じているという。

 これは、アメリカ・デラウェア州の研究機関「ウェルフェア・フットプリント研究所」が主導し、欧米の複数の大学・研究センターと共同で行った最新の手法を使った調査により明らかになったものだ。

 魚の痛みは見えにくく軽視されがちだが、専門家たちは、より苦痛の少ない処理法への転換が急務だと訴えている。

 この研究は『Scientific Reports』(2025年6月5日付)に掲載された。

 魚はこの地球で暮らす人間にとってきわめて重要な食料源だ。世界全体では年間2.2兆匹の天然魚と1,710億匹の養殖魚が消費されている。

 私たちは生きるために毎秒7万5000匹の魚を処分しているということだ。

 こうした魚たちは最後の瞬間にどれほどの苦しみを味わっているのだろうか?

 この問いは、動物福祉への関心が高まりつつある今、ますます重要性を増している。

 また、持続可能性という点においても、環境に良い取り組みであっても、それが動物の福祉を犠牲にして成り立つものであれば正当化できないという考えも広がっている。

 そうした時代の要請を政策に反映させるには、どのような行為が動物たちにどう影響するのか、客観的に把握せねばならない。

 ところが、これまでのところ、動物の苦しみや幸福を客観的に定量化する方法はなかった。

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 そのために考案されたのが「ウェルフェア・フットプリント・フレームワーク(WFF)」と呼ばれる手法だ。

 WFFの考案者であるウラジミール・アロンソ博士は、「WFFは、動物福祉を科学的根拠に基づいて正確かつ公正に評価するための方法であり、限られた資源を最も効果的に活用する判断材料になります」と語っている。

 論文の説明によれば、WFFは、まず分析の範囲を定めるところから始まるという。

 次に、動物をとり巻く状況(扱い方・飼育環境・密度・空気や水の質など)と、それによって生じる生物学的な影響(けが・病気・不自由さなど)を一定の期間にわたって記録する。

 そのうえで、家畜や魚など言葉を持たない動物が経験する「痛み」や「苦しみ」、「安心できる状態」などを、科学的な根拠に基づいて時間として数値化し、動物の扱いや処理方法を評価するための共通基準として活用できるようにしている。

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 WFFによって評価した結果によると、窒息で死にゆくニジマスは、平均して約10分間の強い苦しみを味わっているという。

 ただしその長さは、魚の大きさや水温など状況によって異なり、2分で終わることもあれば、22分も続くこともある。

 私たちは生きるために魚を殺している。それは致し方ないことだろう。

 だがせめてもっと楽に死なせてやることはできないものか? 研究チームはその費用対効果も推定している。

 たとえば、電気ショックによって正しく”締める”なら、1ドル(約145円)あたりで中~高レベルの苦痛を60~1,200分防ぐことができる。

 パーカッシブ・スタンニング(頭部に打撃を加えて気絶させる方法)もまた、同様に高い苦痛緩和効果があるとされるが、こちらは漁業の現場で常に行うのは難しい可能性がある。

 また見落とされがちな点として、ぎゅうぎゅう詰めにされて運ばれるといった状況が、窒息以上に大きな苦痛を与えている可能性が高いことも指摘されている。

 私たちも生きていく以上、命をいただかなければならない。だが、そうして奪われる命の最後が、できるだけ安らかなものであるに越したことはないだろう。

 今回の研究は、動物の福祉に関する政策に一石を投じることになるかもしれない。

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 近畿大学農学部もまた、窒息死した魚についての記事を投稿している。

 船に揚げられた魚は、実はもがき苦しんで窒息死しているが、この方法が一般的なため、そのまま受け入れられているという。

 だがその結果、品質に様々な悪影響が出ているという。

 苦悶死した魚はアデノシン三リン酸(ATP)の消費が早く、死後硬直が速やかに起こりるという。これは魚が暴れることでATPが急速に消費されてしまうためだ。

 死後硬直が早く生じると外観の色つやが失われるのが早まり、大きな魚では魚体温が急激に上昇し、身が変色してしまうこともあるそうだ。

 鮮度低下の速い魚をできるだけ低温に保つため、船倉に氷を入れてそこへ魚を投入する方法もあるが、実際には死後硬直や歯ごたえなどにおいて苦悶死の場合と大差がなく、あまり良い方法とはいえないという。

References: New study quantifies fish slaughter pain and cost-effectiveness of welfare solutions / Suisanriyouken.sakura.ne.jp / Nature

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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