集会は拍手喝采なのに「トランプ離れ」が止まらない…支持率31%の大統領がプーチンに頼ってまで欲しいもの(プレジデントオンライン)
中間選挙を前に、トランプ大統領の支持率が31%と低迷している。ジャーナリストの山岡鉄秀さんは「トランプは中間選挙に勝つため、ロシアへの経済的圧力や中国への抑止力といった長期の国家戦略まで捻じ曲げようとしている。しかし、それらが短期の選挙戦術として効いているかは疑わしい」という――。
■ガソリン高騰批判への無茶苦茶な反論 「ロサンゼルスを壊滅させればいい。サンディエゴを壊滅させればいい」 "Let them take out Los Angeles. Let them take out San Diego." 2026年10月5日、ネブラスカ州の集会でドナルド・トランプ米大統領が放った言葉である。 米国大統領が、自国の都市を敵に破壊させればいいと言う。前後関係を確認すると、イラン戦争によるガソリン価格の上昇を批判する人々への、反語的な反論だと分かる。 「俺がイランを攻撃したことに文句を言うのか。ならば、イランの核ミサイルでロサンゼルスやサンディエゴが破壊されてもいいのか」 国家の安全のためなら、ガソリン高など小さな代償だというわけだ。 だが、イランが米本土に届く核ミサイルを実戦配備していたという証拠は確認されていない。トランプは、現に発生している戦争の経済的負担を、起きてもいない最悪の事態と比べて正当化している。これは政策説明ではない。聴衆の恐怖心に訴える政治的レトリックである。当然、カリフォルニア州の政治家たちは強く反発した。■「アメリカ湾」の次は「トランプ海」 最近のトランプは、こうした耳を疑う発言を次々と繰り返している。 トランプは2025年、メキシコ湾を「アメリカ湾(Gulf of America)」に改称する大統領令を発した。2026年8月には、米国とカナダが共有するオンタリオ湖を「アメリカ湖(Lake America)」に改める大統領令に署名した。カナダや国際社会がそれに従う義務はない。 それでも満足しなかったらしい。10月10日、テネシー州の集会では、大西洋か太平洋を「トランプ海(Trump Ocean)」と呼ぶ案まで口にした。冗談交じりとはいえ、現職大統領が自分の名を大洋に冠するという発想は尋常ではない。 10月5日のネブラスカ州での演説では、こんな発言も飛び出した。 「最近の芝刈り機を始動させるには、MIT(マサチューセッツ工科大学)で成績上位の学生でなければならない」 そして、複雑な仕組みは自分が撤廃したと胸を張り、芝刈り機を始動させるしぐさを披露した。会場は拍手と歓声に包まれた。 背景には農業機械の修理をめぐる規制緩和がある。だが、機械を修理する権利と、始動操作の複雑さは別の問題だ。そもそも今の芝刈り機には、ボタン一つで動く製品も珍しくない。一見、支離滅裂である。しかし、単なる混乱として片づけるべきではない。一連の言動を読み解く鍵がある。11月3日の米国中間選挙だ。
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■批判が強いイラン戦争では「二枚舌」 共和党が議会の勢力を維持できるかどうかは、残る任期の政権運営を大きく左右する。そのトランプにとって深刻な問題が、イラン戦争の長期化と、それに伴うエネルギー価格の上昇である。 10月8日に公表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査によれば、トランプの対イラン軍事行動への対応を支持する米国民は33%にとどまり、不支持は65%に達した。共和党支持層でも、支持は3月の69%から10月の63%に低下している。戦争への不満は、反トランプ派だけのものではない。 トランプは同じ10月8日、中間選挙が終わるまではイランへの新たな攻撃を行わないと表明した。ところがその直前、国防総省が中央軍に対し、イランへの大規模軍事作戦再開の準備を完了するよう指示していたと報じられている。 選挙前に戦線を広げて燃料価格を押し上げる事態は避けたい。だが、選挙後の軍事的選択肢は手放したくない。その計算が透けて見える。■イランと手を組むロシアに頼る始末 そして、燃料価格を下げるためにトランプが頼った相手は、ロシアのプーチン大統領だった。 10月9日、トランプはプーチンとの協議を経て、ロシアが米国および世界市場に大量の軽油を供給すると発表した。直ちに30万トン以上、11月に50万トン、その後さらに100万トン。追加分を含めると、総量は最大480万トンを超える構想である。 ロシアはウクライナ侵攻を続けているだけでなく、イランとも軍事・外交面で協力している。そのロシアから燃料を調達するために、米国はロシア産燃料への制裁を部分的に緩和した。イランに軍事的圧力をかけながら、そのイランと手を組むロシアに経済的利益を与えているのである。 ロシアのエネルギー収入を絞り、ウクライナ侵攻の継戦能力を削ぐというこれまでの政策との整合性は、どうなるのか。
そもそも燃料価格を押し上げたのは、トランプ自身が進めるイラン戦争である。自ら生んだ問題を解決するために、別の国家戦略を後退させる。短期の対症療法が、次の問題を生む構造がここにある。
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■派手に出迎えた習近平から得たもの 同じ構図は、9月24日の米中首脳会談にも見える。 トランプは習近平国家主席を国賓として迎え、B-2爆撃機とF-22戦闘機による飛行、豪華な晩餐会で歓待した。中国を最大の戦略的競争相手と位置づける国としては、異例の厚遇である。 問題は、何を得たかだ。ホワイトハウスが公表した成果は、貿易・投資の政府間枠組みの具体化、関税や農産物をめぐる協議、フェンタニル関連物質の規制協力、そしてジャイアントパンダ2頭の貸与である。 その多くは従来の協議の延長線上にあり、中国企業による大型の新規投資が目玉として示されたわけでもない。ロイター通信によれば、習近平は企業経営者の代表団すら伴わずに訪米した。 演出は華やかだったが、中間選挙に向けた経済的成果としては乏しい。まして、中国の軍事的台頭にどう対処し、台湾海峡の安定をどう守るかという長期戦略は、歓迎行事では一歩も前進しない。外交の演出と国益を混同してはならない。■熱心な支持者は喜び、国民は離れていく では、トランプの奇妙な発言は、中間選挙の勝利に役立っているのか。 オンタリオ湖の改称について、ロイター/イプソスの世論調査では、賛成は14%にとどまり、反対は63%に達した。10月19日公表の最新支持率は31%と、在任中の過去最低を更新している。 熱心な支持者には受けても、一般国民の支持は得ていない。「トランプ海」も芝刈り機も同じだ。支持者が集まる集会の歓声は、世論の指標にはならない。 ここに、トランプの行動を分析するうえで決定的な区別がある。一貫性と合理性は違うのである。 中間選挙での勝利を最優先するという行動原理には、一貫性がある。だが、その行動が勝利につながるとは限らない。熱心なMAGA支持者を喜ばせることと、無党派層や穏健な共和党支持者を取り込むことは、まったく別の課題だからだ。目先の利益を追うことが、その目先の利益すら損なう。
これは政治に限った話ではない。米国の企業経営でも、同じ構造の失敗が繰り返されてきた。
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■非現実的な営業目標を設定した結果 その典型が、米大手銀行ウェルズ・ファーゴである。 同行は、既存顧客に複数の金融商品を販売する「クロスセル戦略」を重視し、営業成績の重要指標とした。現場には過大な営業目標が課された。その結果、顧客の同意を得ずに銀行口座やクレジットカード口座を開設する不正が、組織的に広がったのである。 2016年、米消費者金融保護局(CFPB)は同行に1億ドルの制裁金を科した。2020年には、米司法省と証券取引委員会などによる捜査・調査の解決に向け、同行は総額30億ドルを支払うことで合意した。司法省の公表資料によれば、銀行側は、非現実的な営業目標と経営陣からの圧力が不正を生んだことを認めている。 銀行の競争力を支えるのは、顧客の信用である。数字を伸ばすことを優先した結果、その信用を傷つけ、巨額の制裁金を払うことになった。経営学でいう「短期主義(Short-termism)」、あるいは「経営近視眼(Managerial Myopia)」の典型だ。評価指標そのものが目的化し、指標が本来測るべき価値が犠牲になる。■国家トップの誤りはだれが償うのか 企業であれば、短期主義の代償は最終的にその企業自身が払う。国家は違う。大国が判断を誤れば、その影響は同盟国と国際社会全体に波及する。 選挙に勝たなければ政策は実現できない。トランプが中間選挙を重視するのは、政治家として当然だ。しかし、国家戦略は選挙のたびに向きを変えてよいものではない。ロシアへの経済的圧力、中国への抑止力、同盟国との信頼関係。いずれも何十年もかけて積み上げてきた戦略的資産である。それを選挙対策で消費すれば、再建には膨大な時間と費用がかかる。 しかも、短期の選挙戦術としても効いているかは疑わしい。ロシアと取引しても、燃料価格が十分に下がらなければ意味がない。習近平を華々しく歓待しても、有権者が実感できる成果がなければ票にはならない。地名を変えて支持者の喝采を浴びても、国民の多数が反対しているなら費用対効果は合わない。
長期の国家戦略を損ない、肝心の短期的利益すら取り逃がす。トランプが選んだ手段は、その危うさをはらんでいる。
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■トランプの言動はすべて計算されている? 日本にとって、これは対岸の火事ではない。 私たち日本人は、米国の大統領が不可解な行動を取ると、それを高度な外交戦略や交渉術として読み解こうとしがちだ。とりわけ「ディール」の達人を自任するトランプについては、あらゆる言動に計算が隠されていると考える人が少なくない。 だが、ある行動を動機で説明できることと、その行動が合理的であることは別問題だ。合理的な意図があっても、結果が合理的になるとは限らない。指導者の能力は、派手な演出や威勢のいい発言ではなく、実際に生み出した成果によって測られるべきである。■「それは違う」と指摘できるのが同盟国 そして、米国の判断の代償は同盟国が払うことになりかねない。米国が目先の経済的利益のために中国と妥協すれば、台湾の安全保障はどうなるか。国内の燃料価格を抑えるためにロシアへの圧力を緩めれば、ウクライナおよび欧州との関係はどうなるか。イラン戦争で米軍の資源が中東に拘束され続ければ、台湾や日本を含む西太平洋の抑止力はどうなるか。 日本は、米国の政策が常に長期戦略に基づいているという思い込みを捨てなければならない。米国の指導者が国内政治の都合で判断を誤る可能性を、自らの国家戦略に組み込む必要がある。 これは反米ではない。日米同盟が重要だからこそ、米国の判断を無条件に正しいと見なしてはならないのである。真に信頼される同盟国とは、自らの分析と判断に基づき、必要とあれば相手の誤りを指摘できる国だ。 トランプの奇妙な言動には、特定の目的に合致した、一定のパターンがあると思われる。しかし、それは合理性の証明ではない。短期の政治的利益のために長期の国家戦略が損なわれるなら、その代償は一度の選挙の勝敗をはるかに超える。 日本が直視すべきは、その現実である。----------山岡 鉄秀(やまおか・てつひで)ジャーナリスト、情報戦略アナリスト1965年、東京都生まれ。中央大学卒業後、モービル石油株式会社を経て、シドニー大学大学院、ニューサウスウェールズ大学大学院修士課程修了。2014年4月豪州ストラスフィールド市で中韓反日団体が仕掛ける慰安婦像公有地設置計画に遭遇。シドニーを中心とする在豪邦人の有志と反対活動を展開。オーストラリア人現地住民の協力を取りつけ、2015年8月阻止に成功。現在は日本で言論活動中。令和専攻塾塾頭。著書に『日本よ、もう謝るな!』(飛鳥新社)、『日本よ、情報戦はこう戦え!』『新・失敗の本質』(共に育鵬社)、『シン・鎖国論』(方丈社)、などがある。
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