【独占】生成AI勃興でリストラ敢行 巨額調達ダイニーが人材削減に踏み切った理由

 飲食店の業務効率化支援を手掛けるダイニー(東京・港)が2025年6月、人員削減に踏み切ったことがCNETの取材で明らかになった。退職勧奨の対象となったのは全社員の2割に当たるもようだ。  同社はPOS(販売時点管理)レジやモバイルオーダーシステム、顧客管理、従業員の勤怠管理など飲食店における一連の業務に特化したサービスを提供している。導入している飲食店は1万1000店舗で、「串カツ田中」や「塚田農場」といった飲食チェーンにおいても実績を持つ。  2024年9月には米Bessemer Venture Partners(ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ)、 シンガポールのHillhouse Investment Management(ヒルハウス・インベストメント・マネジメント)をリードインベスターとして海外VC(ベンチャーキャピタル)4社から総額74.6億円を調達。事業拡大に向けてアクセルを踏んでいた中で、突如リストラに踏み切ったのはなぜか。ダイニー創業者で代表取締役CEO(最高経営責任者)を務める山田真央氏に話を聞いた。 ーー巨額の資金調達から1年もたっていない中で、なぜリストラを進めているのでしょうか。  山田氏:生成AI(人工知能)の急速な進化により、これまで人手で担っていた業務の多くを自動化できるようになった今、当社としても今後の成長に備えて組織のあり方や生産性をこのタイミングで根本から見直すべきと判断したというのが理由です。出資を受けた海外VCから業務効率性を高めるよう指摘があったことも決断した背景にあります。  資金調達を発表した2024年9月時点では生成AIの持つ力こそ認識されてはいましたが、実際にすぐさま人の仕事を奪うとまでは考えられていませんでした。潮目が変わったのは昨年末から今年の前半にかけてです。2025年2月には米セールスフォースが1000人のエンジニアをレイオフ(一時解雇)に踏み切ったという報道がありました。世界中でこうした流れが起きている中で、ダイニーは世界基準に達していない。そう感じていました。  海外に目を向けるとプログラミング支援ツール「Cursor(カーソル)」、プログラミング不要でウェブサイトやウェブアプリを作れるスウェーデンの「Lovable(ラバブル)」といったサービスが数十人の従業員で数百億円の売り上げを実現しており、著しいスピードで成長を続けています。過去にもコミュニケーションツールの「Slack(スラック)」やECサイト構築ツールの「Shopify(ショピファイ)」が短期間で急成長を遂げましたが、カーソルやラバブルの成長スピードはそれをさらに超えています。  もちろん、事業構造が異なるため、我々が事業を展開している飲食業界をIT業界とそのまま比べることはできません。それでも、急速に生成AIが業務の中に入っていく中で、最適な組織をつくれているかと問われると、胸を張って答えられない自分がいました。  投資家から仮に指摘がなかったとしても、遅かれ早かれ2〜3年後にはこうした判断をしていたでしょう。ただ、やはりこのタイミングでこの判断を下すのは自分だけでは決断できなかったと思います。今と2〜3年後では同じ判断でも伴う痛みが大きく異なりますから。  私自身、まだ成長途上の経営者です。周りが見えなくなるくらい突っ走るところもあります。そのため、取るべきアクションを正しく取れないことも多々あります。そういう意味では今回、海外VCからの指摘は、グローバル視点でのガバナンスを効かせてもらったと思っています。 事業は計画通り順調に拡大、売り上げ規模は昨年比で2倍に ーー今回のリストラは経営不振が原因ではないのでしょうか?  山田氏:一部で経営不振に陥っているのではと噂されているのは認識していますが、事実ではありません。むしろ、売り上げ規模は昨年比で2倍に伸びています。ダイニーのサービスをご利用いただいている店舗数はこの1年で2000店舗から1万1000店舗まで拡大しています。資金調達時に描いていた成長戦略は計画通りに進んでおり、トップラインも順調に伸びています。 ーー具体的な人員削減計画について教えてください。  山田氏:2024年6月時点で社員は約100人程度で、2025年6月時点で社員は倍の200人程度まで増えていました。今回の人員削減で退職勧奨を進めているのは30〜40人です。営業職は対象外で、エンジニアやコーポレート部門の人員が対象となっています。  6月末、共同創業者でCTO(最高技術責任者)を務める大友一樹と共に一人ずつ対象者となった人たちと話をしました。 ーー人員削減の対象となった人たちの反応はいかがでしたか?  山田氏:覚悟していた人もいましたし、驚いていた人もいました。一番きつかったのは心配してくれた人がいたことでした。  「社長が一番つらい状況にいると思います。大丈夫ですか?」  こう言わせてしまったふがいなさ、無力感。もっとうまく経営ができていたらと涙が出ました。スタートアップは大企業と比べて当然リスクがあります。人生をかけ、リスクを取ってダイニーで働くことを決めてくれた人たちに対して、心底申し訳ない気持ちになりました。  環境の変化に対して感度高く反応していれば、もう少し異なる採用計画を描いていたかもしれません。自分自身にとって反省しかありません。二度とこのようなことはしたくないというのが正直な気持ちです。今回の事態は自分の未熟さが招いた結果です。  今回はAIの急速な勃興が起点となりましたが、この先の未来、何が起きるかは誰にも分かりません。もしかしたら同じようなつらい決断をしなくてはいけない状況もあるでしょう。ただ、どんな形であれ、未曽有の事態が起きた際、即断、即決して即実行をやりきれる経営者であり続けたいと改めて思いました。 AIが中心、人間が補助する会社に生まれ変わる ーー今回のリストラを踏まえた上で、再びアクセルを踏むタイミングはいつなのでしょうか。  山田氏:セールスフォースが分かりやすい例ですが、エンジニア1000人をレイオフした後に営業1000人を雇用すると報じられています。飲食はコミュニケーションが求められる業界。営業はAIがどれだけ進歩したとしても必要な職種だと考えています。営業職の拡充については早いタイミングでアクセルを踏みたいと考えています。  ただ、営業の領域はAIによって効率化できる余地が無限にあると考えています。いま、私とCTOの大友で営業をいかに効率的なオペレーションに変えるか試行錯誤を進めており、一定の成果が見え始めています。ある程度効率化できたタイミングで、一気にアクセルを踏みたいと考えています。  一方、エンジニアについてはこれまでと同様の採用方針は採りません。厳選して非常に優秀な人を一部採用し、その人がAIを使い回しながら開発していく体制にしていきたいと考えています。  人間を中心に置いてAIに業務を補助してもらうのではなく、AIを中心に置いて人間が補助する形にしなければ本当に強い会社にはならないと思います。その価値観を全員が持つことができれば、生産性が極めて高い企業に生まれ変わると信じています。  AIはインターネット上にある情報しか参照できません。ChatGPTの最新版でも2024年6月までのデータまでしか学習していません。ということはそもそも最新の情報も持っていない。飲食店の現場の店員が何に困っていて、オペレーションがどれだけ複雑になっているかといった泥臭い情報はどう頑張ってもAIは入手できない。それこそ人と人が関係性を築いた上で手に入れられる、人間にしか得られない情報です。こうした情報をAIに学習させることによってアウトプットを最大化していく。そういう企業にしていければと考えています。 ーーもともとグローバル市場への展開を見据えて海外VCから資金調達しています。商機はありますか?  山田氏:特に東南アジア市場には商機があると考えています。現在、東南アジアでも徐々に人件費が上がってきていますが、まだシステムを導入するよりも人件費のほうが安い状態が続いています。基本的にシステムは人を代替するもの。現在、東南アジアに存在しているシステムは人件費にかかるコストよりも安くして販売しています。そのため、ビジネスとして回っているとは言いがたく、新たなプロダクト開発の費用も捻出できていません。  ただ、今後はこの状況も変わっていくでしょう。経済成長が著しく、いずれシステム費用と人件費が逆転するタイミングが必ず来ます。我々は日本ですでに優れたプロダクトを持っており、現地には多少マイナーチェンジして持って行くだけで済みます。ローカルのプレーヤーと戦っても勝てると思っています。

CNET Japan
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