科学者らが人工血管を使って培養肉を作成

サイエンス

血管のような役割を果たすチューブ状の組織を使い、これまでの培養肉より大きな培養肉を作ろうとする試みが行われました。この方法で長さ7cm×幅4cm×厚さ2.25cmの培養肉が完成したと報告されています。

Scalable tissue biofabrication via perfusable hollow fiber arrays for cultured meat applications: Trends in Biotechnology

https://www.cell.com/trends/biotechnology/fulltext/S0167-7799(25)00085-X

Winner, winner, lab-made dinner! Team grows nugget-sized chicken chunk https://www.nature.com/articles/d41586-025-01227-4

Scientists create the world's largest lab-grown chicken nugget, complete with artificial veins

https://www.nbcnews.com/news/world/lab-grown-chicken-nugget-artificial-veins-rcna201837 生体組織を培養して人工的に肉を作り上げるという研究は以前から行われてきましたが、ほとんどは「小さな肉片を培養し、食べられる骨組みや接着剤でつなぎ合わせる」という方法を採用したもので、大きな培養肉はあまり作られてきませんでした。これは、ある一定以上の大きさにしようとするには継続的に栄養素と酸素を供給する必要があるためです。

動物の場合、栄養素と酸素を運ぶ役割は血管が担います。東京大学の竹内昌治氏らは、血管のように働くチューブ状の組織を使って栄養を届ける「バイオリアクター」を開発し、動物の循環系を模倣しようとしました。 竹内氏らは家庭用水道フィルターや腎臓透析機器にも使用される半透膜の空洞の繊維を使い、均等に並べ、その繊維の周囲で細胞を培養しました。これにより、比較的大きな培養肉を成長させることが可能になり、最終的に7cm×4cm×2.25cm、重さ11gの鶏肉を培養することに成功しました。

今回の研究で培養された組織は食品グレードではなかったため、消費者の食卓に並ぶには至っておらず、研究チームも試食していません。また、チューブ状の繊維も食用ではなく、工程の最後に手作業で肉から引き抜く必要がありました。研究チームは、この繊維の除去を自動化するか、食物繊維であるセルロースなどの素材で代用することに取り組んでいるそうです。 小さな肉片をくっつけるのではなく、大きな塊を培養することは、従来の肉の自然な構造と食感をよりよく模倣できるため望ましいとされています。今回の手法でさらに自然に近い食感が実現できる可能性がありますが、やはり本物の肉の味を再現するのは依然として難しいといいます。

今回の研究は、培養肉の開発に加えて人工組織の作成にも役立つ可能性があり、食品だけでなく再生医療やバイオロボット工学などの分野で応用できるかもしれないとのことです。竹内氏は「厚い組織に栄養と酸素を供給する能力は、どの分野においても根本的な課題です」と語りました。

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