アマゾン、メタ、グーグル、2050年までに原子力発電能力3倍に 支持声明発表
米アマゾン・ドット・コム、米メタ、米グーグルといったIT(情報技術)大手が、「2050年までに世界の原子力発電能力を3倍に増やす」という目標を支持する声明を発表した。これは、地球温暖化対策と、増大するエネルギー需要に対応するため、原子力発電の再評価と拡大を求める動きを後押しするものとみられる。 ■ 各国で政策転換の動き、イタリアが原子力発電を再導入へ 英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、声明には、これらのIT大手にとどまらず、米石油大手オキシデンタル・ペトロリアムや米化学大手ダウといった企業も名を連ねている。声明は、英国ロンドンに拠点を置く世界原子力協会(WNA)が取りまとめた。 背景には、世界的なエネルギー需要の増加、地球温暖化対策としての脱炭素化の推進、そしてロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー安全保障への懸念がある。これらの要因が複合的に絡み合い、各国はエネルギー政策の見直しを迫られている。 実際、日本は今後、原子力発電を最大限に活用する方針を明らかにした。先ごろ政府は、原子力の割合を2023年時点の8.5%から、2040年までに2割程度に引き上げるとする、新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定した。イタリアでは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の翌年、国民投票で原発を廃止したが、2025年2月、原発再導入の草案を国会に提出した。こうして各国で政策転換の動きが活発化している。
■ 原発復活へ、アマゾンやメタなどが巨額投資 今回、アマゾン、メタ、グーグルなどが出した声明の狙いは、原子力発電所の建設を加速し、エネルギー安全保障を強化し、かつ地球温暖化対策を進めることにあるようだ。政府に対しては原子力発電拡大のための規制緩和を求め、電力会社に対しては電力の大規模需要家が増え続けることを強調する意図があったとみられる。 アマゾンは、過去1年に原子力産業に10億米ドル(約1500億円)以上を投資しており、「新しい発電所の建設を加速することは、米国の安全保障、増大するエネルギー需要への対応、気候変動対策に不可欠」と強調した。メタも2030年代に稼働する1〜4ギガワットの新規原子力発電プロジェクトの入札に参加するなど、具体的な動きが始まっている。 FTによれば、2024年11月に開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)以降、世界では8基の新しい原子炉が送電網に接続され、12基の建設が始まった。原子力発電復活に向けた動きが加速しているようだ。 ■ 技術、規制、資金調達のリスク しかし、課題も少なくない。小型モジュール炉(Small Modular Reactor、SMR)のような次世代原子力発電の開発には、技術、規制、資金調達のリスクが伴い、実用化には時間がかかると指摘されている。大手電力会社は、新しい原子力発電が稼働するのは2035年以降になると予測しており、今後の技術開発や政策動向が注目されている。 それでも、原子力発電は再生可能エネルギーと並ぶ脱炭素化の重要な選択肢として位置付けられる可能性があり、技術革新によるコスト削減や安全性向上、SMRの実用化に向けた動きが広がるとみられる。今回のIT大手の支持表明は、こうした動きを大きく後押しするものになるのかもしれない。
小久保 重信