Ray-Ban Metaによるプライバシーの流出が止まらない

ジョイ・フイ・リンは、パリで資料調査員として働いている。2025年の夏、観光名所のひとつであるル・マレ地区を歩いていたとき、男子大学生のふたり連れが近づいてきて、彼女の服装について尋ねてきた。

リンは特に驚かなかった。Instagramのユーザーがこの一帯の路上で写真を撮るのは珍しくないし、自分のファッションに自信もあった。その日は「いい感じのワンピースを着て、流行のかなり大きい帽子をかぶっていました」とリンは『WIRED』に語っている。

「いい雰囲気で会話が進みましたが、一段落したところで、メガネをかけていたほうの大学生にこう言われました。『それでね、いまずっとこのメガネで録画してたんだ』」。改めてそのデバイスを見ると、黒いフレームのスマートグラス「Ray-Ban Meta」だった(「Meta Ray-Ban」と呼ばれることも多い)。装着者の視点で動画を撮影する機能を備えている。

その若者が許可を得ずに動画を撮っていたことに、リンは愕然とした。あまつさえ、その動画をネットで共有していいかとまで尋ねてきた。「土足で踏み込まれたように感じました」とリンは言い、さらにこう付け加えている。

「メガネの男は、無断で人の動画を撮ることが、いかに不快な行為になりうるかを理解していないようでした」

これと同じような体験が、いまや当たり前になりつつある。スマートグラスを使って公共の場でのやり取りを録画し、広く公開しているSNSアカウントが急増していることからも、それは明らかだ。

録画されるやり取りは、個人のファッションについて尋ねるような無害なものばかりではない。InstagramのリールやTikTokには、店の従業員に悪ふざけやいたずらを仕掛ける若者が録画した映像などが溢れている。

そして、Meta Ray-Banの世界で人気を集めているインフルエンサーは、陽光の降り注ぐビーチや夜の街角でナンパする様子を自慢する男ばかりだ。例えば、サイエド・カガズィ(@itspolokid)とキャメロン・ジョン(@rizzzcam)のInstagramのフォロワー数は、ふたり合わせて300万人を超えている。

公共の場で、時にしつこく女性にまとわりつく迷惑行為のせいで、メタのデバイスには「ヘンタイグラス」という蔑称まで生まれている(コメントを求めたが、カガズィからもジョンからも返答はなかった)。

プライバシーの流出は防げない

スマートグラス「Meta Ray-Ban」(やMeta Oakley)は、299~499ドル(約48,000~80,000円)で販売されている。プライバシーに関する懸念から反発を受けている点は、先行して多難な運命をたどった「Google Glass」と同様だ。

だが、現在の状況はいくつかの理由から、さらに複雑になっている。まず、メタのAIを利用すると、スマートグラスから同社に映像が送信されることを許可することになる。その映像が海外の契約社員によって点検される場合があることを、スウェーデンの新聞数社が調査で明らかにしている

26年2月に掲載されたその記事には、プライバシーにかかわるコンテンツも含まれており、自分が録画した、裸、性行為、入浴中などの映像をアップロードしたことに本人が気づいていなかった可能性もある。これを受けて、消費者保護をめぐる訴訟がすでに起こされており、審理が進行中だ。

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