「ゲームしすぎ=依存症」は大間違い?“ゲームにのめり込む子”が本当に求めているものとは(with online)
「またゲームばっかり!」「やりすぎると依存になるよ」――そう思い込んでいませんか? でも、それは違います。 「なぜか賢い子」はゲームをしていた!? 「ゲームは悪影響」をひっくり返す、最新脳科学で明かされた“新事実” 実は、ゲーム依存は、“やりすぎた結果”ではなく、“逃げ込んだ結果”なのだそう。 そこで今回は、適度なゲーム利用が学力やメンタルにどのように好影響を与えるのかを脳科学や心理学の視点から徹底解説。最新のエビデンスをもとに子どもとゲームとの上手な付き合い方を提案する書籍『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』(PHP研究所)を一部抜粋してご紹介。 孤独感、自己肯定感の低さ、自分で選べない日常――そうした“心の飢え”こそが、ゲーム依存を生む土壌なのです。表面的な注意や制限では届かない、本当の向き合い方とは?
ゲーム障害にならないようにするためにはどうしたら良いのか? まず、これまでの研究で明らかになってきたゲーム依存症になりやすい人の特徴の一つは、周りとの関わりが少なく、孤独を感じていること。※1 つまり、ゲームのやりすぎで、周りとの関係性がなくなったり、孤独を感じてしまうのではなく、それとは逆に、周りとの関係がなかったり、孤独を感じていたりすることで、ゲームに依存しやすくなってしまうのです。 人間関係がうまくいっていなかったり、孤独を感じている。心の3大欲求である「つながり」を感じることができない(「心の3大欲求」とは、人とのつながり「関係性」、自分が何かできるという感覚「有能感」、それから、自分が決断したことを自分の意志に則ってやっているという感覚「自律性」を指します)。 そんなときに、ゲームで気を紛らわす。しかし、たとえそれでポジティブな気分になったとしても、それは一時的な効果。現実世界での人間関係や孤独は相変わらずそこにあり、ついついゲームに逃げ込んで、ゲームの中で「つながり」を感じようとしてしまう。その結果、ゲーム障害になってしまうのです。 また、学校の成績の低さ※2や自己肯定感の低さ※3も、ゲーム障害の原因になることがわかっています。 現実世界で学校の成績が低かったり、仕事がうまくいかずに自己肯定感が低い。いわば、心の3大欲求の一つである「できる感」を感じられていない状態です。 そんなときに、ゲームの中で問題を解決したり、難関ステージをクリアすることで、達成感や有能感、つまり、現実の世界で感じられていない「できる感」を得ることができるわけです。 ですがやはり、いったんその感覚を感じても、ゲームをやめた途端、学校や仕事場の現実に戻らなくてはいけない。そこでは、やはり「できる感」を感じられない。それゆえに、満たされない「できる感」を求めて、ゲームに依存していってしまうのです。 ※1 Lemmens JS, Valkenburg PM, Peter J (2011) “Psychosocial Causes and Consequences of Pathological Gaming.” Computers in Human Behavior, 27(1):144-52. ※2 Limone, P, Ragni B, Toto GA (2023) “The Epidemiology and Effects of Video Game Addiction: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Acta Psychologica, 241. ※3 Lemmens JS, Valkenburg PM, Peter J (2011) “Psychosocial Causes and Consequences of Pathological Gaming.” Computers in Human Behavior, 27(1):144-52. 「つながり」「できる感」が満たされていない状態が著しく続いてしまっているときに、ゲーム障害になりがちなのだとしたら、もう一つの心の3大欲求である「自分から感」についても気をつけなくてはなりません。 先生が言ったから、親に怒られるから、上司の命令だから……。この世の中は、外部からのコントロールによって外発的に動機づけられることばかりです。 自分の意志に基づいて「自分から感」を感じて、自律的に行動することが少なく、常にコントロールをされながら生きていかなくてはいけない状態が続いているならば、これも、ゲーム障害につながりかねません。 リアルで親や上司の言いなりにならなければならない中で、ゲームの中では自分がやりたいようにやれる。それがゆえにゲームの中に閉じこもってしまう。そうやってゲーム依存が引き起こされてしまうこともあるでしょう。 つまり、ゲーム障害になりやすい人の特徴は、生活の中で心の3大欲求がうまく満たせていない人。孤独だったり、自己肯定感が低かったり、周りからのプレッシャーの中にいつもいなければいけない人たちです。 反対に、周りとの「つながり」があり、「できる感」や「自分から感」を感じられる場がすでにある場合には、ゲームを少しくらいやったからといって、ゲーム障害になるリスクがあるわけではないのです。 たとえば、リアルでまずまず充実した生活を送っている人が、ひとときのストレスを解消するために週末ゲームをやりすぎたからといって、それがゲーム障害につながってしまうことはないわけです。 私たちのDNAはゲームを求めています。それはゲームが心の3大欲求を満たしてくれるからです。 しかし、同様に心の3大欲求を満たしてくれることが世の中にはたくさんあります。それゆえバランスよく心の3大欲求を満たしていけるように生活していくことが、ゲーム障害にならないための最大の予防策なのです。 次回は、 なぜ今、ゲームが“やる気の再生装置”として期待されているのか?その驚くべき理由を、わかりやすく解説します。
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スタンフォード・オンラインハイスクール校長。哲学博士。 1977年、東京生まれ。2001年、東京大学文学 部思想文化学科哲学専修課程卒業。02年よ り渡米、03年、テキサスA&M大学哲学修士 修了。08年、スタンフォード大学哲学博士修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクール・スタートアッププロジェクトに参加。 16年より校長に就任。現職の傍ら、日本、米国、アジアにむけて、学校や教育スタートアップ の支援やコンサルティングにも取り組む。慶應義塾大学や横浜市立大学では経営や教育 に関する研究活動も行う。 著書に『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法』(光文社)、『脳を活かすスマホ術』(朝日新書)、『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)など。
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