世界初 窒化炭素をガラス基板上に固定化してCO2からエネルギー物質を生成

 近年、国内ではカーボンニュートラル社会の実現に向けた有効な手段として、太陽光のエネルギーを化学物質に蓄積する人工光合成が注目されている。人工光合成研究の主流は、太陽光を光触媒に照射し、水を水素と酸素に分解する反応を利用して発電する技術だ。しかし、この方法では主に紫外域の光を使用しているケースが多く、太陽光の全てをエネルギーに活用できていない。  そこで、三菱電機と東京科学大学の研究グループは、「太陽光の中に含まれる可視光域の光もエネルギーに変えたい」や「(使用する触媒は)貯蔵、運搬が容易な化学物質にしたい」という思いから、今回の研究を開始した。  今回の研究では、ホウケイ酸ガラス基板上に、窒化炭素、ルテニウム錯体、酸化チタンを組み合わせた複合光触媒を固定化する技術を開発した。同技術は、ホウケイ酸ガラス基板上に酸化チタンを塗布した後、オーブンで加熱し酸化チタン層を形成する。次に、酸化チタン層の上にポリマー状の窒化炭素(PCN)を塗布し、オーブンで加熱して、窒化炭素層を作る。これにより、ホウケイ酸ガラス基板と複合光触媒から成る2層構造の光触媒パネルとする。  三菱電機 先端技術総合研究所 環境システム技術部 水質制御グループの澤中智彦氏は「ガラス基板上に直接窒化炭素を固定化することが難しかったため、酸化チタンの層を介した2層構造を採用した。窒化炭素を平面上に固定化して、可視光やCO2などからギ酸を生成した事例は世界初であると考えている」と語った。

 今回の光触媒パネルは、アセトニトリルとジメチルアセトアミドの混合物や水素供給源のトリエタノールアミン、CO2などから成る反応液内に配置され、波長が380~450nmの可視光が複合光触媒に照射されるとギ酸を生成する。  具体的には、複合光触媒に形成された高分子状の窒化炭素層が可視光を吸収した後、電子を生じる。発生した電子は酸化チタン層に渡る。続いて、酸化チタン層に結合しているルテニウム錯体へと電子が移動する。ルテニウム錯体は、電子と、反応液中に溶解しているCO2やトリエタノールアミンから供給される水素と反応する。これにより、ルテニウム錯体上で、CO2が還元され、ギ酸が生成される。生成当初のギ酸は、ルテニウム錯体近傍に存在するものの、その後反応液中に溶け出し、混じっていく。  東京科学大学 理学院 化学系 教授の前田和彦氏は「反応液中に溶け出したギ酸の分離では蒸留を活用する予定だ。将来は、ギ酸を分解して水素を発生させる触媒との組み合わせも視野に入れている」と話す。  また、従来の方法では、マグネチックスターラー(磁気撹拌子)などを用いて反応液を撹拌することで、反応液中に混ぜたPCNやルテニウム錯体などの触媒を均一に分散させるとともに、反応物(CO2や水素源)と接触させた上で、触媒に可視光を照射し、反応液中にギ酸を生成していた。そのため、ギ酸の分離では、ろ過装置でPCNやルテニウム錯体などを除去するプロセスが必要だった。  澤中氏は「今回の手法では、ホウケイ酸ガラス基板上に複合光触媒に固定化することで、反応液を撹拌するマグネチックスターラーを不要とした他、ろ過工程も不必要とし、回収コストの削減を実現した」と述べた。  光触媒パネルは反応液中で、400nmの可視光が照射された場合に、触媒に当たった光がギ酸生成に使われた割合(AQY)が2.0%で、触媒反応で得られた生成物のうちギ酸が占める割合である選択率は85%だった。「従来の方法で製造された微粒子分散触媒は反応液中で、400nmの可視光が照射された際に、AQYは2~6%で、選択率は80%以下だ。そのため、選択率に関しては光触媒パネルのほうが優れている」とコメントした。  両者の役割に関して、三菱電機は、光触媒パネルの多層化や固定化の達成に向けた各実験における条件検討や固定化した人工光触媒の構造、活性の評価を担った。東京科学大学は、光触媒パネルの多層化、固定化の順序、使用材料などの設計/選定や、触媒などの各材料の調製を担当した。  今後両者は、窒化炭素系材料の改良により、さらに長波長の可視光を吸収できる光触媒の開発を目指すとともに、反応速度向上のための研究を進める予定だ。

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