角田裕毅、”運命の2連戦”へ。マルコが下した「最終通告」―レッドブルシートを懸けた崖っぷちの戦いが始まる

F1ドライバーの将来は、時に1シーズンを待たずに決定される――レッドブルの角田裕毅は今、まさにその瀬戸際に立たされている。ヘルムート・マルコが突きつけた「最終通告」。リアム・ローソンとの熾烈なシート争いに下される審判の刻まで、残された猶予はわずか2戦しかない。キャリアの命運を懸けた、運命のアメリカ大陸ラウンドがついに始まる。

決断の時は「メキシコGP後」―マルコの最終通告

マルコが”最終通告”を発したのは、2025年F1第19戦アメリカGPを控えたタイミングだった。オーストリア紙『Kleine Zeitung』に対し、2026年のシート争いについて「メキシコGP終了後に決断を下す」と明言した。

これにより、角田裕毅とリアム・ローソンのどちらが、レッドブルあるいはレーシング・ブルズのシートを射止めるのか、その運命が次戦アメリカGPと続くメキシコGPの2戦で決まることが、改めて明確に示された。

マルコは角田について、「彼にはこれまで以上により寄り添う形を取ってきた。それは部分的に成果をもたらしたが、彼自身も今は結果が必要な時だと理解している」とも語った。

チームからの手厚いサポートと、裏腹にのしかかる「結果」という名の重圧――サポートが厚くなるほど、その期待に応えなければならないプレッシャーも増していく。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

カウボーイファッションでポートレート撮影に臨む角田裕毅(レッドブル)、2025年10月16日(木) F1アメリカGPメディアデー(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

レッドブル昇格以降、角田は新たな愛機RB21への適応に苦しんできた。「どのサーキットも新しいサーキットのように感じます」と吐露するほどに、マシンの特性が昨年までのVCARBと大きく異なり、経験豊富なコースでさえ一からのアプローチを強いられている。

サマーブレイク明け以降は復調の兆しを見せているものの、過去4戦での入賞は2回。前戦シンガポールGPでは、度重なる赤旗で十分な準備ができない不運とレース開始直後の大幅なポジションダウンが重なって12位に終わり、ポイント獲得には至らなかった。なかなか浮上のきっかけを掴みきれない、もどかしいレースが続いている。

アメリカGPの開幕前日に行われた取材で、角田は前戦シンガポールでの苦戦をこう振り返った。

「少し不運でした。FP1からFP3まで赤旗が何度も出て、セッションが中断されてしまいました。特にFP3では通常、ショートラン(予選シミュレーション)に集中するのですが、ロングラン(レースペース及びタイヤ摩耗の確認)もやらなければならなくて、準備が十分にできませんでした」

「特に今の状況では、RB21に対する自信を築いていきたいところですが、たとえ経験豊富なコースであっても、どのサーキットも新しいサーキットのように感じます」

予選での速さが決勝で鳴りを潜めた序盤戦とは対照的に、最近はレースペースが向上している一方で、予選での一発の速さが影を潜めており、思うように歯車が噛み合わない状況が続く。

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F45トレーニングセッションで記念撮影に応じるジェレミー・リンチ、角田裕毅(レッドブル)、ジョシュ・デンゼル、マイケル・ティムズ、2025年10月15日(水) F1アメリカGP(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

ただし、悲観的な材料ばかりではない。アメリカGPの舞台となるサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)は、角田にとって追い風が期待される場だ。2021年にはキャリアで唯一となるファステストラップを記録するなど、コースとの相性は良い。

「このサーキットはお気に入りの一つです。スプリント週末なので、フリー走行の時間が限られるなど、様々な制約はありますが、コースに対して自信を持てているのは前向きだと思います」と角田も認める。

今週末、角田には新たな武器が与えられる可能性がある。レッドブルが前戦シンガポールで投入した新型フロントウイングだ。シンガポールではマックス・フェルスタッペンが新型を試した一方、角田は旧型を使用していた。

もちろん、最終的な速さを決定づけるのはラップ全体を通じたバランスとセットアップであり、ウイング1枚の変更で明確な改善が見込めるわけではない。それでも、COTAの第3セクターは低速コーナーが連続するテクニカルな区間であり、回頭性の向上が見込まれる新仕様の恩恵を最大限に受けられる可能性がある。

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最新型のフロントウイングが搭載されたマックス・フェルスタッペン1号車レッドブルRB21、2025年10月4日(土) F1シンガポールGP FP3(マリーナベイ市街地コース)

試してみたいか? 君の分も用意されているのか?と問われると、角田は次のように答えた。

「もちろんです。特に、よりローテーションが求められるサーキットでは改善があるようですし、それはシンガポールでの予選で僕に欠けていたものでした。新しい仕様のフロントウイングはきっと助けになると思います」

「数字的な違いがどれほどかは分かりませんが、大きな差ではないと思います。ただ、それでもマシンの回頭性を少しでも上げるために、ぜひ試してみたいですね。(前戦では)現状のツールをほぼ使い切ってしまい、他に打てる手がなかったので。とはいえ、手持ちの要素でベストを尽くすだけです」

運命のカウントダウンが迫る中でも、角田の姿勢は揺るがない。前戦シンガポールでの課題を「特にショートランに向けたアウトラップでの準備という点では、もっと上手くやれたはず」と冷静に振り返り、失敗を糧に変える姿勢を貫く。

「これは今後に向けてもっと良くなるための過程の一部だと捉えています。そのために懸命に取り組んでいます。少なくとも直近2戦では、まともなロングペースを出せるようになってきていますし、それは精神的な支えになっています」

「今も自分の成長を楽しんでいますし、改善できる余地はまだたくさんあります。それを追求することが僕にとっての優先事項です」

レッドブル残留か、レーシング・ブルズでの降格参戦か、それとも――いずれにせよ、2026年のF1グリッドに自身の名を刻むためには、この2戦で結果を示すしかない。

マシンとの格闘を続けながらも、確実に前進の兆しを見せている角田。相性の良いCOTAと新型フロントウイングの組み合わせは、彼に突破口をもたらすだろうか。

角田裕毅にとってF1キャリア最大の正念場が、今まさに始まろうとしている。

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ガレージで米国人俳優・コメディアンのアンドリュー・シュルツと並ぶ角田裕毅(レッドブル)、2025年10月16日(木) F1アメリカGPメディアデー(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

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