福岡・大宰府市長がコンビ「市長課長」でM-1参戦 2回戦進出、自虐ネタで市民反応上々

「M―1グランプリ」1回戦で漫才を披露する福岡県太宰府市の楠田大蔵市長(左)とタレントの高田課長=9月6日、福岡市中央区(太宰府市提供)

コンビ名は「市長課長」-。漫才日本一を決める「M―1グランプリ」への出場を決めた現役市長が話題を集めている。誰もが知る人気番組「M―1」で市をPRするプロモーション活動の一環で、1戦でも多く勝ち進むことで市の知名度アップを狙う。市民から賛否両論出そうだが、真面目な市長が渾身(こんしん)のボケに挑む姿に反応は意外にも良いようだ。

掛け合いテンポよく

「太宰府市長と高田課長で『市長課長』です。お願いしまーす」。今月6日、福岡市内で行われた「M-1」の1回戦。手をたたきながら舞台に登場したのは福岡県太宰府市の楠田大蔵市長(50)とタレントの高田課長のコンビだ。

「有権者のみなさま!」と突然大声を出す楠田市長に「選挙じゃないんだから」と高田課長が突っ込む。楠田市長はその後も「髪の毛が猛暑で抜けた」など自虐ネタで会場を沸かせ、「市長と結婚していいことあるの?」と問われると「朝昼晩『梅ヶ枝餅』」と得意顔。「胃もたれしそうだな」と返す高田課長とテンポよく掛け合いながら市の特産や名所をアピールした。結果はプロでも落ちるといわれる1回戦を通過。2回戦は10月中旬ごろに予定されている。

不出馬決意で挑戦へ

楠田市長は東大卒で、衆院議員を経て平成30年に市長に就任した。もともと大のお笑い好きで、好きな芸人は「爆笑問題」や「ナイツ」。就任当初から部長らとコンビを組んだ活動を思案していたが、お笑いには批判も想定され、思いを胸に秘めていた。

そんな中、市の応援大使に就任した地元育ちの高田課長と意気投合。現在2期目だが、任期満了に伴う12月の市長選に出馬しないと決めた今がラストチャンスと、「M-1」挑戦に踏み切った。

「M―1グランプリ」への思いを語る福岡県太宰府市の楠田大蔵市長=福岡県太宰府市(一居真由子撮影)

市民の反応は想定していたより悪くなく、自分をさらけ出して挑む姿に「勇気をもらった」と声をかけられ、中高生から激励も受けたという。

「M-1」には公務として出場しており、「市長として真面目さが足りない」などの声も上がるものの、楠田市長は「思った以上に挑戦への反響が大きくびっくりしている。とにかく一戦一戦、いけるところまで本気で頑張る」と意気込む。

稽古では高田課長から「恥ずかしさを捨てて」とダメ出しを受け、芸人の難しさを痛感。市民に許されるぎりぎりのラインを探る苦労もあり、「やってみると本当に大変で、出場者はなかなかの個性派。お笑いは好きだが、この世界には踏み込みすぎないほうがいい気がする」と笑う。

ライバルは百田氏?

今回の「M-1」には日本保守党代表で参院議員の百田尚樹氏(69)も「代表と秘書」のコンビ名で出場し、1回戦を通過。ネット上では「太宰府市長に負けるな」と盛り上がりをみせる。

「代表と秘書」のコンビ名で「M―1グランプリ」に出場した日本保守党の百田尚樹代表

現役首長では令和4年に大阪府柏原市の冨宅正浩市長(49)や、福井県若狭町の渡辺英朗町長(45)が出場。今年は三重県四日市市の森智広市長(47)もお笑い芸人のザブングル加藤さんと組んで出場すると発表していたが、12日の記録的な大雨で浸水などの被害が発生し、対応に専念するため出場を辞退した。市によると、有志が「応援しよう会」を結成するなど活気付いたといい、市の担当者は「出場を発表した時点で記事がネットニュースにあがり、市のアピールになった」と話す。

出場だけで宣伝効果

「M-1」は朝日放送テレビと吉本興業が主催し、平成13年にスタートした。結成15年以内のコンビであれば出場が可能で、審査基準は「とにかくおもしろい漫才」。挑戦者は年々増え、昨年のエントリー数は1万330組に上った。8月から予選が始まり、5回勝ち抜けると生放送される12月の決勝に進出する。

お笑い評論家でもある江戸川大の西条昇教授によると、コンビを組んだばかりでも参加できる間口の広さや、プロ・アマ問わず持ちネタで勝負する審査基準、優勝すると人生が一変するドラマ性などが人気番組につながったという。SNSが普及する時期にも重なり、年末になるとSNSでは優勝者の予想や漫才の評論で盛り上がるとして、「賞レースで『M―1』ほど注目される番組はなく、国民的イベントといえる」と西条教授。アイドルなど芸人以外の挑戦が話題になるケースも多く、西条教授は「市長とお笑いというギャップも注目される要素で、出場するだけで宣伝効果がある」と話している。(一居真由子)

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