「まさに現代ボクシングの標本」アフマダリエフを“完封”した井上尚弥に識者も感服「仮に階級を上げても…」(CoCoKARAnext)
9月14日、名古屋のIGアリーナで行われたスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ12回戦で、統一王者の井上尚弥(大橋)は、WBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に3-0で判定勝ち。徹底したアウトボクシングで相手をコントロールし、盤石の防衛を果たした。この試合を識者はどう見たのか。ロンドン五輪ボクシング・フライ級日本代表であり、井上が「第二の師匠」として慕う、須佐勝明氏がアフマダリエフ戦を分析した。 【動画】アフマダリエフの顔面をヒット! 井上尚弥の渾身フックをチェック ◆ ◆ ◆ 人間AIかと思わせるような内容だった。序盤でしっかりと相手を探り、中盤で主導権を握り、後半ではボクシングを楽しむ余裕すら見せていた。情報収集能力と集中力が際立ち、場面ごとの引き出しの多さ、コントロール力、位置取りのすべてが相手を上回っていた。まさに現代ボクシングの標本のような試合だった。 井上選手自身も「判定でもいいから勝つ」と語っていたように、これまでの中で最も自分の距離を保って戦っていた試合だったと思う。相手からの撃ち合いの誘いに乗らず、徹底して距離をキープし、スピードを生かして戦った。これまではパワーを押し出し、5発、6発と連打を浴びせることも多かったが、今回はワンツーフックやジャブワンツーといった3発程度で抑え、そこからバックステップを入れた。相手のパンチをリスペクトしつつ、冷静にアウトボクシングを貫いていた。 アフマダリエフはパンチ力があり、引き出しも多い選手だ。その危険性を十分に警戒し、井上選手は遠距離の巧さを生かして相手の間合いに踏み込まず、大きなパンチを狙わなかった。 後半には、あえて打たせる場面もあったが、それも相手のパンチの威力を見極めたうえでのことだ。後半にアッパーが効いた場面でも仕留めに行かずに距離を保ち、隙を与えなかった。ネリ戦やカルナデス戦でダウンを喫した経験を踏まえ、深追いせず集中を切らさず戦い抜いたのだ。まさに作戦を遂行した試合だった。世界タイトルマッチという最高レベルの舞台で、これほどの力量差を見せつけたことは、井上選手の成熟を、改めて強く印象づけたと言えるだろう。 次戦は年末のサウジアラビア、その後には来年、東京ドームで中谷潤人選手との対戦が控えている。井上選手はいま、まさに自身が描いたキャリアのロードマップ通りに進んでいる。 さらに言えば、今回のアウトボクシングは、仮に階級を上げた場合にも十分通用することを示したとも感じる。階級を上げれば相手のパワーや体格も増すため、アウトボクシングを駆使する時間も増えるはずだ。井上選手自身も“最強の敵”と位置づけていたアフマダリエフとの戦いは、まさに次の階級を見据えたモデルともなった。 どんな相手でも自分のボクシングで勝ち切る――それが井上尚弥というボクサーだ。これからもファンを魅了する試合を続けてくれるだろう。 [文/構成:ココカラネクスト編集部] 【解説】須佐勝明(すさ・かつあき) 1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。日本オリンピック委員会ハイパフォーマンスディレクター。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。