中国企業の「出産するヒューマノイドロボ」、一気通貫の人工生殖実現目指す(Forbes JAPAN)
北京で開かれた世界ロボット会議で、カイワ・テクノロジーの張奇峰(チャン・チーフォン)博士が発表したコンセプトが世界的な注目を集めた。それは、受精から出産まで妊娠を遂行できる世界初のヒューマノイドロボットである。 従来の保育器とは異なり、このロボットは腹部に人工子宮を内蔵し、人間の妊娠過程をより忠実に再現するよう設計されている。Interesting Engineeringの報道によれば、この構想はロボット工学とバイオテクノロジー双方の限界に挑むものだという。 ◾️合成羊水に満たされた人工子宮 技術の中核をなすのは人工子宮で、合成羊水に満たされ、臍帯のような栄養供給システムと接続されている。張博士によれば、実験室での人工子宮はすでに初期発育を支える有効性を示している。彼の目標は、この機能をヒューマノイドの身体に組み込み、人々がより自然で親しみやすい形で妊娠のプロセスに触れられるプラットフォームを生み出すことにある。 カイワ・テクノロジーは野心的な計画を掲げている。プロトタイプは1年以内の完成を目指しており、価格は1万3900ドル以下を目標としている。責任ある開発を進めるため、張博士はすでに広東省当局と政策協議を開始し、人工生殖をめぐる複雑な法的・倫理的課題に取り組んでいる。もし計画が実現すれば、この革新は不妊治療を一変させ、生殖の選択肢を広げ、親になることに関する従来の常識にも挑戦する可能性がある。 ◾️「バイオバッグ」で未熟子羊を救った例も 人工的な妊娠研究は今回が初めてではない。2017年にはフィラデルフィアの研究者らが、子宮内環境を再現した「バイオバッグ」で未熟児の子羊を生存させることに成功している。この実験は妊娠後期に限られていたのに対し、カイワの構想は受精から出産まで妊娠サイクル全体を対象としている。 だが、専門家の中には「生殖過程で最も生物学的に複雑な部分」と指摘する声もある初期段階の取り扱いについては今回の発表では明らかにされなかった。 技術的な課題も膨大だ。数カ月の持続的な運用期間中、一貫した安全性と信頼性を確保することが不可欠である。羊水管理、栄養バランス、老廃物の除去、継続的なモニタリングには高度な冗長システムが必要となる。また、ヒト妊娠の動的なホルモンや免疫環境を再現することも、バイオエンジニアリング上の大きな壁となる。 技術的な側面を超え、この構想がもたらす影響は非常に大きい。ロボットを介した妊娠で生まれた子どもは、社会にどのように受け止められるのか。こうした状況で母性の権利を定める法律は、どのように適応すべきか。また、自然な妊娠だけが生命を生み出す手段でなくなった場合、文化や価値観にはどのような変化が起こるのか。 カイワ・テクノロジーが構想を実現するか否かにかかわらず、このプロジェクトは、ロボット工学、医療、倫理の交差点にある根本的な問いを社会に突きつける。現時点では概念段階に留まるとしても、この研究は少なくとも、生殖の未来が過去とは大きく異なる姿を見せる可能性があることのサインだろう。 ※ ・Interesting Engineering:科学、技術、工学分野を網羅する世界的デジタルメディア企業 ・ヒューマノイドロボット:人間のような形を持ち、頭部・胴体・腕・脚を備え、人間のような動きや自律的なタスク実行を目指すロボット ※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」8月18日の記事からの翻訳転載である
Forbes JAPAN 編集部