米国憲法学者「建国の父たちはトランプを予見していた」──彼らが恐れたことが現実になりつつある(クーリエ・ジャポン)

米国憲法の専門家ジェフリー・ローゼンは、仏「ル・モンド」紙のインタビューで、米国建国の父たちがいかにカエサルのような独裁者やデマゴーグ(扇動政治家)の出現を恐れ、それを阻止しようとしたかを語る。だが、その抑制メカニズムはここ1世紀の間に弱体化してきたという。 【画像】アメリカ合衆国「建国の父」たち 米ペンシルベニア州フィラデルフィアに、米合衆国憲法についての教育と研究に取り組む超党派機関「全米憲法センター」がある。そこの所長を務めるのが、ジョージ・ワシントン大学の法学者でもあるジェフリー・ローゼンだ。 ローゼンの著書は多数あり、2024年には『幸福の追求──徳について書いた古代ギリシャ・ローマの作家たちがいかに米国の建国の父たちに影響を与え、米国を形作ったのか』(未邦訳)を上梓、今秋刊行予定の新著に『自由の追求──ハミルトン対ジェファソンで始まった米国における権力をめぐる長い戦い』がある。 米国の連邦最高裁は6月末、連邦地裁による大統領令の差し止めを制限した。これまで米国の司法は、トランプ政権の権力濫用を防ぐため、連邦地裁による差し止め命令を多用する戦法を使ってきた。だが、最高裁が6月27日に示したのは、こうした一部の連邦地裁が下した大統領令の差し止め命令は、全米一律には適用されないという判断だった。 この判断と米国の現状について、米制度史に詳しいローゼンに話を聞く。

──6月末に米国連邦最高裁が示した判断に対し、革新派の連邦最高裁判事ソニア・ソトマイヨールが反対意見を執筆しています。そのなかで彼女は、最高裁のこの判断によってできあがった「新しい司法レジーム」では、いかなる権利も安全ではなくなっていると書いています。あなたはソトマイヨール判事の意見に賛成ですか? 連邦最高裁の権限が大幅に拡張されたのは事実です。あの判断でもっとも目を引いたのは、ブレット・カバノー判事の意見でした。米国のあらゆる法的問題を最終的に判断するのは米国の連邦最高裁だと言わんばかりでしたからね。下級審に対する敬意が欠けているのです。最高裁で多数派を形成する6人の判事が、すべての事柄に関して最終的な決定権を持つのだと言っているようなものでした。 その最高裁の判断に反対したのが、ソニア・ソトマイヨールとケタンジ・ブラウン・ジャクソンの二判事で、それぞれ反対意見を執筆しています。この二人の主張は、法の支配を尊重すべきだということ、そのためには連邦判事全員の貢献が必要であり、司法の権力を連邦最高裁だけに集中させてはならないというものでした。 ──この最高裁の判断は、トランプの政治的勝利だと評する報道や論評が多く見られました。最高裁が下した判断は党派性の強いものだったのでしょうか。 そうではありません。バイデン前大統領も、連邦地裁の差し止め命令が全米一律に適用されることに反対していましたからね。バイデン政権時代の民主党も、下級審の保守派判事が大統領の政策を妨害できることに反発していました。6月27日に示された最高裁の判断に、特定の政党を優遇する要素はありません。 ただ、トランプ大統領が出した大統領令の多くは、いまも法廷で係争中です。最高裁が示した判断によって、司法府が行政府を抑制しにくくなったのであれば、それは行政府の権力拡大を意味します。 ──トランプが拠って立つ「単一執行府論」とは何か教えてください。 もっとも極端な形で言うなら、「大統領はすべての連邦公務員を思うままに解任できる絶対的権力を持ち、外交の場では議会のいかなる統制も受けずに行動できる」とする理論です。 この考え方の源流へと遡ると、米国建国の父の一人であるアレクサンダー・ハミルトン(1755~1804)の思想に行き当たります。もっとも、この考え方がしっかりとした理論の形をとるようになったのは1980年代のレーガン政権時代からのことです。 この単一執行府論の論理を極端に突き詰めていけば、FRB(連邦準備制度理事会)のような独立機関は違憲ということになります。言い換えるなら、議会が創設する機関は、必ず大統領府の監督下におかれるべきであり、トップが大統領府から独立している機関は設けられないとする立場なのです。 最高裁は今後、こういった独立機関が合憲かどうかを判断する案件を審理します。その判決次第では、単一執行府論の名のもとに、独立機関の多くがその正統性に疑義を呈されることになり、大統領の権限が大幅に拡張される可能性があります。

クーリエ・ジャポン
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