「補聴器つけて、メガネかけて、マスクも…」わずらわしい耳周りの問題を解決する便利なアイテムとは【専門家が教える難聴対策Vol.23】 (1/1)

 補聴器をつけてメガネをかけて、マスクもつけて…。この3つをつける必要があるシニア世代のかたも多いのでは?「あれこれつけて耳まわりがわずらわしい…」。認定補聴器技能者の田中智子さんは、そんな補聴器とマスクやメガネの干渉は、工夫次第で解決できるという。対策を教えてもらった。

認定補聴器技能者・田中智子さん

うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/

 近ごろは感染症対策の影響や花粉症予防にと、外出時にマスクは手放せないという人は多くなりました。

 マスクの紐で耳が痛くなったり、メガネに引っかったり…。そんな耳にまつわる不便さを「しかたがない」とあきらめて日常生活を送っている人も多いのではないでしょうか。

 マスクやメガネでただでさえ耳のまわりがわずらわしいのに、「補聴器はつけられるのか」と不安に思っている人、実際に困っていらっしゃる人もいるのではないでしょうか。

 聞こえにくくなっているのに、こうした問題で補聴器をためらってしまっているとしたら大きな問題です。

 補聴器には、耳に引っかけて使う「耳掛け型」と耳穴にすっぽり収まる「耳穴型」があります。マスクやメガネをする場合は「耳穴型」がおすすめですが、耳穴の状態により誰もが耳穴型を選べるとは限りません。

「マスクやメガネと補聴器はどうしたら快適につけられるのか」。この問題について80代女性の事例をもとに、解決策をご紹介したいと思います。

 80代女性のAさんは、マンションでひとり暮らし。呼吸器に持病があり在宅酸素療法で、酸素供給装置を活用しながら車いす生活を送っています。家族が近くにいないため、身の回りのお世話は主にヘルパーさんが担ってくれています。

 ある時、Aさんのケアマネージャー(ケアマネ)さんから、「聞こえにくくなっているので補聴器を検討したい」とご連絡をいただき、早速Aさんのご自宅に伺うことになりました。

 Aさんは若い頃に中耳炎を患い、そこから聞こえづらくなったけれど、最近特に聴力の低下が進み、ヘルパーさんや訪問看護師さんとのコミュニケーションがとりづらくなっていました。

 日常生活では酸素チューブを耳にひっかけて使っていらっしゃるため、「耳穴型」だと使い勝手が良いので試してもらったのですが、「自分の声がこもって聞こえる感じが強く、補聴器をつけるのが嫌になりそう」というご感想でした。

 また、別のメーカーの耳穴型も試してもらったのですが、手先がうまく動きにくいAさんには、ご自身での装用が難しく、訪問看護師さんやヘルパーさんにもつけ外しを手伝ってもらったのですが、つけにくいとのことでした。

 次に、耳掛け型を試してもらいました。すると、自分の声の響きやこもりはそれほど気にならないご様子。また、耳穴型よりも耳掛け型の方が本体は大きいため、ご自身で手にもって付けることもできそうです。

 こちらも訪問看護師さんとヘルパーさんにつけ外しをお手伝いいただいたところ、問題なく装着をお手伝いできる」とのこと。

 耳鼻咽喉科にも受診し、「補聴器を装用した方がいい」という医師の診断も出たので、Aさんには耳掛け型の補聴器をお使いいただくことになりました。

 聞こえの調整や装着の練習もして、晴れて耳掛け型の補聴器を購入されました。しかしその後、困った問題に直面することに――。

「酸素チューブとマスクの紐が引っかかってしまって、補聴器が外れてしまうので何とかならないでしょうか」

 購入してまもなくケアマネさんからご相談の連絡をいただきました。

 チューブとマスクの紐、そして耳掛け型の補聴器と3つのものが耳にかかった状態となり、マスクを外そうとすると補聴器が取れてしまうので困っていらっしゃいました。

 お試しいただいたときには、周囲のスタッフと一緒に練習し、ゆっくり丁寧につけていたので、問題にはならなかったのですが、いざ日常生活が始まるとそうはいかなかったようです。

 食事をするときにマスクを外したりつけたり、室内を移動するときに酸素吸入のチューブを取りまわしたりと、実際に生活の中で長時間使ってみると、扱いが大変になってしまったということでした。

 この問題に対処するには、マスクの装着の仕方を工夫する必要があります。

 そんなときに便利なのが、マスクの紐を首の後ろで固定するクリップのようなアイテムです。紐で耳が痛くなることも防げます。

 そのアイテムは、当社の補聴器ユーザーである女性のお客様に教えてもらったもので、便利なので店頭でもご紹介するようになりました。

 ちなみにこのお客様は、70代の女性。友人とカフェに行っておしゃべりするのが大好きなアクティブシニア。耳掛け型補聴器を活用し、マスクが必要なときはそのアイテムを使って快適に過ごされているとのことでした。

 Aさんにも早速ご提案したところ、酸素チューブと干渉することもなくなり、マスクを外しても補聴器が外れないようになりました。訪問看護師さんも「これは良いですね」と感心されていました。

 Aさんに使っていただいたアイテムは『マクピタ』(ニッセイ)。マスクの紐を首の後ろで止められるもの。

 また、メガネをかけている人でマスクの紐で耳が痛いという人には、眼鏡に引っかけられる『マスクラック』もおすすめです。

マクピタelastomer/ニッセイhttps://www.nissey-sabae.co.jp/machine/makupita-elastomer

マスクラック/GOSHhttps://gosheyewear.com/products/mask

マスクの紐をメガネのつるにひっかけられるようにするマスク補助器具。紐やゴムで耳が痛いという人に。

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 年齢を重ねるとメガネ、感染症予防にマスク、聞こえづらくなったら補聴器と、耳周りにつけるものが色々増えていきますよね。選択肢が多いのでお困りの場合は、補聴器専門店に気軽にご相談ください。便利なアイテムと使って聞こえる生活をより快適にできたらいいですよね。

補聴器にプラスして聞こえる生活を快適にするアイテムはいろいろあります!

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取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな

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