16歳に銃訓練、国防が必修科目のラトビア「もう平時ではない」 露の脅威に備える小国

ラトビアの首都リガで、銃訓練を受ける高校生たち(三井美奈撮影)

バルト三国の一つラトビアが昨年、「国防」を高校の必修科目にした。隣国ロシアの脅威が高まる中、基礎的な軍事訓練や野外演習を通じて、危機対応力を高めるのが狙い。人口190万人弱の小国が、国民総ぐるみの防衛体制を目指す現場を取材した。

「撃て!」

教官の掛け声とともに、銃声が響く。学生3人が校庭の芝生に腹ばいになり、G36自動小銃を発射した。

首都リガにある工業高校の国防授業。16~19歳の生徒約20人が、射撃の手ほどきを受けていた。「弾倉はここだ。よく確認して」という教官の指示に、みな真剣な表情でうなずく。

露軍が攻めてきたら本当に撃つのか

女子生徒のクリスティアナ・ストレロバさん(17)は「雨の日は照準を定めるのが難しい。今日は順調だった。でも、ロシア軍が攻めてきたら、本当に人を撃つのか…。とても想像できない」と話した。

国防教育の必修化は昨年春、政府が閣議決定した。2年間で112時間と定められ、この工業高校では、ほぼ1カ月に1日を国防授業に充てている。この日は射撃演習のほか、野外オリエンテーリングが行われた。停電や通信障害を想定し、地図と方位磁針で目的地に到達する訓練だ。敵のプロパガンダ(政治宣伝)に対抗するため、偽情報の見分け方を学ぶ授業もある。課程の最後には3週間、森林キャンプで基礎的な軍事訓練を行う。

「次はわが国か」という危機感

教官のバルツ・アボリンス大佐(52)は、「子供に銃を持たせることには、保護者から懸念も出た。だが、もう平時ではない」と訴えた。ラトビアはウクライナと同様、1991年まで旧ソ連の一部だった。北大西洋条約機構(NATO)に加盟したとはいえ、ウクライナ侵略の長期化で「次はわが国か」という危機感は高まる。150万人規模の露軍に対し、ラトビア軍は予備役を入れても約5万人。それでもアボリンス大佐は「国境を越えて敵が押し寄せたとき、NATO軍が来るまでわが国は自力で耐える必要がある」と表情を引き締める。

学生のエドガルス・ヘイデマニスさん(18)は「銃訓練は最初は、ビデオゲームを実体験している気分で興奮した。何度か続けて、自信に変わった。万一の時、無抵抗ではいられないからね」と笑った。祖父や祖母から、自由のないソ連時代の話を聞いて育った。工業高校は露国境まで約270キロの位置にある。

国民の結束を強める

国防教育には、若者に将来の志願兵への参加を促す狙いもある。政府は昨年、17年ぶりに18歳以上27歳以下の男子を対象とする徴兵制を復活させた。招集枠の中で志願兵をできるだけ増やし、不足人員だけ強制動員する方針をとる。

さらに重視するのは、国民の結束を強めることだ。ラトビアは、約44万人のロシア語人口を抱える。国民の4分の1近くを占め、バルト三国の中で最も多い。年配者にはロシアに愛着を持つ人も多い。アボリンス大佐は「家庭でロシア語放送を聞き、毎日プロパガンダに接している子供もいる」と指摘し、教育の意義を強調する。(リガ 三井美奈)

欧州各国の徴兵制復活相次ぐ

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