スマホ初購入で「3万円補助」 杉並区が高齢者支援
デジタル化が進む現代社会において、スマートフォンを持たない高齢者が一定数存在している。東京都杉並区は、そうした人々の“最初の一歩”を後押しすべく、65歳以上の「スマホ未所有者」を対象に、購入費を最大3万円まで補助する制度を始める計画だ。
9月9日から開かれる区議会に提出する一般会計補正予算案の中に、約1900万円の経費を盛り込んだ。健康づくりアプリとの連携や常設の相談窓口の設置など、デジタル格差の解消に向けた施策を進める。
高齢者の半数が「スマホを使っていない」
岸本聡子区長は9月2日の記者会見で、高齢者のスマホ利用のメリットについて次のように述べた。
「家族や友達と気軽に連絡を取り合ったり、買い物や手続きが自宅からできて生活が便利になったり、健康管理や見守りサービスを利用したりすることで、高齢者のQOL(生活の質)が向上する」
しかし、スマホ操作の難しさや心理的なハードルから、高齢者が利用を躊躇するケースも多い。
総務省の通信利用動向調査(2024年)によると、スマホの所有率は年齢上昇とともに下がり、80歳以上では30.7%にとどまっている。
また、杉並区が実施した高齢者実態調査(2022年)では、65歳以上の区民のスマホ利用率は56.8%。高齢者の半数近くはスマホを利用していないという実態がある。
「環境やスキルのために『わからないから使えない』と感じる人との間に格差が生まれることもある。誰もが安心して使える場を作り、地域で支え合いながら、デジタルの便利さをみんなで享受していくことが必要だ」(岸本区長)
こうした問題意識のもと、杉並区は、東京都による高齢者のスマホ購入支援と連動し、さらに独自財源を上乗せする形で助成制度を展開する。
対象人数は「2年間で1200人」の予定
高齢者のスマホ利用を支援する(出典・杉並区の記者会見配布資料より)対象となるのは、杉並区在住の65歳以上で、これまでにスマホを購入したことがない人(ガラケーからの移行も含む)。補助額は1人あたり最大3万円で、今年度は600人分を想定している。
来年度も同じ規模で実施する計画とのことで、合計1200人となる。
区の担当者は「杉並区の高齢者は約12万人で、そのうちスマホもガラケーも持っていない人が1割ほどいるという調査結果がある。今回の対象人数はその1割にあたるので、一定の効果があるのではないか」と話している。
今秋の議会で補正予算案が可決されれば、11月10日から申請を受け付ける予定だ。
助成の希望者は、杉並区独自の健康支援アプリ「なみチャレ」に登録する必要がある。歩数が記録されたり、健康イベントやボランティア活動への参加に応じてポイントがつく。
「身体的な健康だけでなく、心理的、社会的な健康を含むウェルビーイングの実現を目指している」と、岸本区長はアプリの狙いを説明した。
デジタルデバイドの相談窓口も設置
高齢者のスマホ購入支援は、他の自治体でも導入が進んでいる。
東京都文京区が2022年10月に開始したほか、青森県むつ市や山形県村山市、茨城県下妻市などで実施されている。東京都では、新宿区や北区が今年9月からスタート。さらに、今年中に実施を計画している区が複数あるという。
だが、課題もある。スマホは便利な道具だが、詐欺被害や個人情報流出などのリスクがある。対策は考慮しているのだろうか。岸本区長にたずねると、次のような答えが返ってきた。
「スマホ購入助成と連携する形で、4カ所の地域区民センターにデジタルデバイドの相談窓口を設ける。高齢者が不安に思っているトラブルやリスクについては、そこでの重点事項として位置づけていく予定だ」
大卒後、朝日新聞記者や法律事務所リサーチャーなどを経て、ネットメディアへ。J-CASTニュース副編集長、ニコニコニュース編集長(ドワンゴ/ニコニコ動画)、弁護士ドットコムニュース編集長を歴任。朝日新聞運営のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、メディアを引き取ってオーナー編集長となる。2014年〜19年、早稲田大学非常勤講師。2019年〜23年、関西大学特任教授(ネットジャーナリズム論)。現在はフリーランスの記者/編集者として活動。在住する東京都杉並区や科学技術の領域を取材しつつ、「あしたメディア研究会」を運営。2025年5月より日本科学技術ジャーナリスト会議の理事を務める。