新世代Apple Intelligenceから見える「変わらないアップル」

WWDCの会場となったアップル本社

今年も米・カリフォルニア州クパティーノにあるアップル本社で開催された「WWDC 2026」を取材してきた。

今回は例年以上にシンプルなイベントだったように思う。アップル製品にとって最大の懸念であるAIへの取り組みについて、2024年以降の懸念・遅れを取り戻す「リブート」のような発表だった。

とはいえ、ただ追いついたわけではない。むしろ、この2年に他社も進められていなかった部分をいかに先行するか、他社と違う部分を生み出すかという取り組みだったと言っていい。

では、それはどういうことなのだろうか? 改めて考えてみたい。

なお今回、Apple Intelligenceに関して、EUや中国との関係も改めて語られた。そのことはどういう意味を持つのだろうか。

9月1日にCEOを退任するティム・クック氏が登壇し、多くの開発者から歓声を浴びた

アップルが今回発表したのは「第3世代Apple Intelligence」だ。2024年のWWDCで最初のApple Intelligenceが発表されたものの、実装には時間がかかった。しかも、初期のデモで公開された機能の多くは実現されず、2025年には「改良に1年程度時間がかかる」と異例のアナウンスがなされている。

2025年向けの小幅な改良を第2世代として、今回が第3世代。しかしある意味、「リブートに伴う初代Apple Intelligence」と呼んだ方がわかりやすいかもしれない。そして、それを軸としたSiriである「Siri AI」が提供される。

SiriとApple Intelligenceの改善が中心

実際、目指すところは最初からあまり変わっていない。

アップルは「エージェンティックAI」という言葉を使っていない。だがSiri AIが目指すのは、現在で言うエージェンティックAIである「命令を与えるとAIが目的を達成してくれる」スタイルの実現が主軸だ。

エージェンティックAIに求められるのは、知識面での賢さとは少し違う。「どの機能をどう使えば命令を実現できるのか」ということに加えて、「自分のことをよく知っていて簡単に命令を理解してくれる」ことが大切になる。すなわち「システムとの連携」と「個人のコンテクストの活用」が主軸だ。

この方針自体は初期から変わっていない。今年のWWDCでも「先週末に旅行に行ったときの写真を見せて」「その中で家族が一緒のものを家族共有写真にまとめて」という命令を処理したり、チャットでSiri AIと相談しながらパーティーの用意をしたり、といったデモが行なわれたが、その片鱗は最初のApple Intelligenceから存在した。

Siri AIを使ったデモ。個人がスマホに蓄積した情報を活用して作業を行なう

別の言い方をすれば、2024年に足りなかったAIの能力を補い、目指していたものを実現したのが第3世代Apple Intelligence、と考えればいいだろうか。

機能面で言えば、画像生成などが最新のAIに合わせて高画質になっており、シンプルにここは支持されるだろう。これもまた、足りなかったAIの能力を補ったから実現できたことだ。

アップルに不足していたAIの能力を助けたのはGoogleだ。1月にアップルとGoogleは提携を発表、アップルが開発する次世代のApple Foundation Model開発にGeminiを採用する、と発表している。

このことから「iPhoneにGeminiが載る」という予測もあり、Apple Intelligence自体の構造がGeminiに近くなる、と語る人々もいたが、実際には違う。

アップルが行なったのは「Google Cloudのインフラを使う」ことと「Apple Intelligence向けのAI開発にGeminiを使うこと」だった。

以下は、第3世代Apple Intelligenceのイメージ図だ。左側がデバイス内の処理、右側がクラウドでの処理であり、グラデーションのかかっている部分がアップルとGoogleが共同で取り組んだ部分になる。

第3世代Apple Intelligenceのイメージ図。グラデーションの部分をアップルとGoogleが共同開発

Apple Intelligenceには、デバイス内で動くオンデバイスAI用のモデルと、クラウドで提供される「Private Cloud Compute」の上で動くモデルがある。

第3世代Apple IntelligenceではすべてのAIモデルが再構築されている。1つのモデルを除き、再構築では俗に「蒸留」と呼ばれる手法が使われた。優れたサイズの大きなAIモデルを教師として、そこから小さなモデルを作っていく手法だ。蒸留したモデルは教師となるAIモデルに似た特質を持つが、中身は同じものではない。

アップルがGoogleに協力を求めたのは、この蒸留の許諾だった。AIモデル構築で蒸留を行なうことは多々あることだが、教師役となるAIモデル開発元に許諾を得ない例も少なくない。アップルは大企業だけに、相手にちゃんと筋を通した形になっている。

AIモデルの提供を受けてそのまま使うのでなく蒸留したモデルを使うのも、結局のところ、AIモデルの使い方が、Googleとアップルでは異なるからだろう。システムに密着した機能としてAIを搭載するなら、その方が望ましいからでもある。

Apple Intelligenceの構造。中核にアップルのハードがあり、その上にAIモデルがあり、さらに各機能が重なる

以前のApple Intelligenceとの大きな違いは、クラウドインフラとして「Google Cloudを使う」ことを明言した点にある。

アップルには「Private Cloud Compute(PCC)」という仕組みがある。これはクラウドでAIを動かす仕組みではあるものの、一般的なAIサービスとは異なる。個人の指示に従ってAIを処理するものの、そこで使ったデータを蓄積する仕組みがない。そのため、結果をユーザーに返すと、処理に使ったデータは消去される。また、PCC自体にも、アップルが作ったデバイス以外からのアクセスはできない。

個人のデバイス内にあるプライベートな情報をAIが活用するため、プライバシー確保には最大の配慮が求められる。他社はクラウド上に保存したデータを契約と暗号化で縛る形でプライバシーを確保しているが、アップルは仕組み自体でカバーする。

「Apple Intelligenceは最初から変わっていない」というのは、このポリシーが変わっていないためだ。

ただ、PCCとして使うインフラは変わった。

最初はアップルがiPhone用のプロセッサーを応用して開発したオリジナルのハードウェアを使っていた。だがおそらくは、これ自体が性能が不足していたのだろう。

第3世代ではPCC上でより大きく賢いAIモデルを動かすため、NVIDIAとGoogle、アップルが協力して開発した「NVIDIAのGPUを使うPCC」を使う。そして、この新しいPCCは、前述のようにGoogle Cloudで運用される。

アップルとGoogleの提携は、こちらも含んだものだったわけだ。

他方で、Google CloudでPCCを動かすことは新しい課題をもたらす。

それはコストだ。

NVIDIAのGPUを搭載したサーバーの運用には、電力などのコストがかなりかかる。サーバーをアップルのために用意するにも、同様にコストがかかる。

これは私見も含むが、第3世代Apple Intelligenceはクラウドへの依存度が高くなっているように思う。画像やジェン文字の生成などは、オンデバイスAIではなくPCCですべて処理するようになった。

その処理負荷のためか、画像生成などは1日に行なえる量に制限がかけられる。どのくらいの量か、詳細はまだ公開されていない。また、アップルの有料サービスである「iCloud+」の加入者は、1日の生成量制限が緩和される予定だ。

第3世代Apple Intelligenceでは画像生成能力が向上
新機能「リフレーム」。画角を変えた写真を生成する

Apple Intelligenceは、これまで「アップルのハードウェアに付随するもの」という扱いだった。だから基本的には無料だった。だが今回から、必ずしもそうは言えなくなっていく。

エージェンティックAIの時代において、「コスト」は非常に大きな課題になっている。

エージェンティックAIはすでにある。OpenAIやAnthropic、ManusやPerplexityのサービスを使えばいい。OpenClawのようなソフトを使い、クラウドと連携して利用してもいい。

ただ、使ってみるとわかるがかなりのコストがかかる。クラウドでAIエージェント処理をすると、それだけクラウド側の負担が大きいためだ。

コストがかかるといっても、毎月20ドルのプランでも使える。ただ、それでは本格的な用途には不足も出てきて、月額200ドルのプランに加入したくなってくる。

無料でAIサービスを使っている場合、検索やチャットはそこそこ満足できるだけの利用が可能だ。だが、「がっつりAIと暮らす」ような使い方は、毎月費用を負担しないと難しい。

エージェンティックAIはすでに目の前にあるが、無料ではできることが限られている。

筆者は、多くの人のAIに関する認識が、積極的に有料で使う人とそこに至っていない人の間でズレてきている印象を感じている。その原因は、AIの持つ「コスト」ではないかと考えている。

そんな中でアップルは、かなり重要な存在になりそうだ。

画像処理などで1日の量に制限があるとはいえ、ほとんどの機能は、アップル製品の利用者であれば無料で使える。第3世代Apple Intelligenceでは「AIと対話しつつアップル製品を使う」のが基本になるので、自然とエージェンティックAI的な使い方が軸になっていくわけだ。

Googleもスマホ上でのAI利用を提供する。多くが無料となるが、もともとGoogleはAIサービスに有料プランを設けているので、そことの連携も視野にある。

OpenAIは、日本でも無料プランに広告導入を始めると発表した。

各社がコストを下げ、幅広い利用者へのリーチを考えている。ただ、コスト自体の課題は上がるばかりだ。アップルはハードを売る会社であり、ハードのコストの中でAIコストも吸収するのが理想ではある。しかし、今回はそれが難しいのも見えてきた。

Apple Intelligenceが他社と異なる構造を選択するのは、エージェンティックAIのための演算コストを下げるためでもありそうだ。AIの動作を調停する「オーケストレーション」をデバイス内で行なうことで、クラウドへの依存度を減らす仕組みになっている。

第3世代Apple Intelligenceでは、iPhone内でオーケストレーションを分担し、クラウドコストを減らす

そうやって「便利さを低コストで提供する」ことを差別化していくのも、アップルの作戦だと考えられる。

もう一つ、Apple Intelligenceについては気になる点もある。

今回はわざわざリリースを出し、EUと中国ではSiri AIが当面使えないことをアピールした。

年内に提供開始されるiOS 27とiPadOS 27では、デジタル市場法(DMA)への対応を理由として、現時点でEU域内のiOSとiPadOS向け提供のめどは立っていない。

この点について、筆者はアップル本社で、同社のワールドワイドマーケティング上級副社長であるグレッグ・ジョズウィアック氏に話を聞くことができた。昨年秋に続く動きだ。

EUでの動きに対し、ジョズウィアック氏は「強い懸念を感じる」と話す。アップルの主張によれば、DMAの極端な解釈により、EU圏のユーザーへの機能提供が難しくなっているという。Apple IntelligenceとSiri AIは今後の機能拡張の基盤でもあるため、これが導入できないことで、EU圏のユーザーは、将来的にさらに多くの新しい機能を失うことになる懸念もある。

ジョズウィアック氏によれば、アップルは他社のバーチャルアシスタントがSiri AIと同じ機能や性能に安全にアクセスできるようにする「Trusted System Agent」を設計し、18カ月かけて展開する計画を示したという。だが、欧州委員会はこの案を拒否した。結果として、EU圏で機能の提供が難しくなったわけだ。

ただ、欧州委員会側は「アップルがEUのプライバシーとセキュリティ基準を満たす相互運用性の解決策を示せなかった」として、主張が対立している。

どちらの主張が正しいかをここで断じることはできない。ただ、アップルがEU圏で機能提供が難しいことは事実だ。

もう一つ、中国でも機能提供ができていない。

EUと中国の状況がどう違うのか? そう尋ねたとき、ジョズウィアック氏は「全く異なる」と答えた。

中国にはAIサービスの提供に対し、独自の規制が存在する。ただその内容はアップルにとっても予定されていたもので、その規制をどうクリアーするかを「プロセスに沿って進めていく段階であり、最終的には解決の見通しがある」(ジョズウィアック氏)という。

一方、EUは対話の糸口が見えない状況だという。今回強い口調で非難しているのもそのためではあるのだ。

筆者の視点で言えば、個人のデータへのアクセスも求める中国当局の規制方針が、どうアップルの方針と整合性を取るのか、気になる部分がある。

同時に、EUとのズレが合意し得ないものなのか、疑問も残る。

ジョズウィアック氏は「日本は規制アプローチのバランスが良い」と高く評価する。だからこそ日本でのサービス提供の予定があるわけだが。

第3世代Apple Intelligenceを使ったSiri AIは、日本でも提供予定がある

最後に、AI以外の話もしておきたい。

今回の基調講演ではAI以外にも、主に2つの点が語られた。「プラットフォーム改善」に加え「子どもにとっての安全性」だ。

実のところ、Apple Intelligenceを含めた3つの要素には共通したテーマがある。

それは「利用者にとってより安心して使えるプラットフォーム」という考え方だ。安定していて動作が速いことは、もちろん信頼性につながる。

アップルは「信頼性が高く安全である」ことを重視

そして、「子どもに安心して渡せる」ことも「安心してAIを使える」ことも、同様にプラットフォームの信頼性に紐づく。基本的なことではあるが、大事な話だ。

例えば今回、子ども用アカウントを作って管理する機能が盛り込まれた。そこでは単に禁止するだけでなく、子どもの側が「このサイトを見たい」「このアプリを使いたい」ということを親側に依頼し、親が許可を与えるという機能が軸になっている。

今回から子ども向けアカウント機能を新設

この点に「親とのコミュニケーション」という軸が存在することを評価したい。

子どもは、すべてを判断する能力を持ち合わせていない。しかし、それを学ぶ機会も重要だ。親から学ぶ・親と話す機会をシステムが担保する仕組みは望ましいものであり、プラットフォームとしての信頼性を担保するために重要なもの、と言えるのではないだろうか。

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