トヨタ今期営業減益見通し、米関税で先行き不透明-円高も逆風に
トヨタ自動車は国内の生産基盤を守ることができるのか-。円安傾向が続き、近年は聞かれることが少なくなっていたこの問いかけが、同社が米国の関税政策への対応を迫られる中で再び浮上している。
トヨタの佐藤恒治社長は8日の決算会見で、トランプ関税の国内生産への影響について問われ、国内生産を守ることは製造業において「非常に重要なポイント」だと回答。「国内生産に対する思い、意志はぶれずに取り組んでいくつもりだ」と述べた。
トランプ関税への対応として短期的には輸出の仕向け地変更を考えていくとした上で、「中長期的には現地のお客に適した商品を現地で開発して、現地で生産していくという形をしっかり取っていく」とも話した。
トヨタは積極的に海外市場への展開を進めてきた中でも、一定規模の国内生産を残すことにこだわってきた。2011年の東日本大震災で国内の部品供給網(サプライチェーン)が甚大な被害を受け、その後1ドル=70円台まで円高が進んだときも国内300万台体制を死守する姿勢を示していた。日銀の異次元緩和政策などで円安が定着したこともあり、近年は国内生産の維持が経営課題として取り上げられる機会は減っていた。
トランプ大統領が4月から導入した25%の輸入車への関税を受け、自動車各社は中長期的には生産移転や値上げといった難しい判断を迫られている。関税が恒久化すればトヨタも生産体制の見直しを余儀なくされる可能性もある。
会見に同席した宮崎洋一最高財務責任者(CFO)は、トヨタは米国では受注残を多く抱えており、「すぐさま国内体制を見直すとか、そういうことは今のところない」と述べた。今は状況を見守りながらこれまで築いてきた体制の中で「じたばたせずにしのいでいく」と同氏は続けた。
投資は積み増し
トヨタの同日の発表によると、今期(26年3月期)営業利益は前期比21%減の3兆8000億円を見込む。ブルームバーグが集計したアナリスト21人による予想平均値4兆6945億円を下回った。為替変動の影響で7450億円の減益要因となるほか、米関税に関しては4-5月分の影響見込みとして1800億円を減益要因として織り込んだ。原価改善や販売台数増などの増益要因で補い切れず、2期連続の減益を見込んでいる。
通期の想定為替レートは1ドル=145円、1ユーロ=160円に設定。前期実績と比べてそれぞれ8円と4円の円高となる。今期のグループ世界販売台数は前期比1.7%増の1120万台を見込んでいる。
今期は人材や成長領域への投資を積み増すことも利益面ではマイナス要因となるが、トヨタは「これをスタート地点に、さらなる改善を積み上げていく」とした。発表を受けてトヨタの株価は売りと買いが交錯してもみ合う展開となった後、前日比1.3%安で取引を終えた。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の吉田達生アナリストは、事業環境に不透明性がある中で通期の利益見通しは「保守的な前提でできている印象」と指摘。米国の関税政策の動向が不透明かつ流動的な状況では、見えている部分だけを反映するというのは妥当との見方を示した。
トヨタはここ数年、通期の決算発表のタイミングで⾃⼰株取得を公表していたが今年は取得枠を設定しなかった。配当については減益となった前期も15円の増配を実現。今期も事業環境が不透明な中で年間配当を5円増配し1株あたり95円とする計画を掲げている。
新ビジネス
トヨタは資本効率改善を念頭に株主資本利益率(ROE)20%を目安としているが、実現に向けて従来の新車販売中心のビジネスモデルからバリューチェーン事業など新領域のビジネスを拡大し、収益の安定化を進めて必要な資本を少なくできる事業構造を実現させるとした。BIの吉田氏はこれまで報道が先行していたが、今回は概念的な内容ながらトヨタが自ら具体的な道筋を提示したとし、「トヨタの本気度を改めて再確認した」と評価した。
米調査機関のセンター・フォー・オートモーティブリサーチの4月10日付のリポートによると、自動車関税導入で業界全体として計1077億ドル(約15兆円)ものコスト増が見込まれている。トランプ氏はその後、自動車業界の関税負担を軽減する措置を導入したものの、その他のコスト上昇分について価格転嫁をしなければ自動車メーカーの業績を大きく押し下げる恐れがある。
また、トヨタ会長の豊田章男会長を含めたトヨタ創業家やトヨタなどが豊田自動織機の非公開化を前提とした買収提案を行ったとの4月の報道を受け、今回の決算会見で注目されていた佐藤社長からの関連の発言は限定的だった。佐藤氏は今後はトヨタのグループ企業はそれぞれが強みやけん引する分野を持つことが大事だとした上で、豊田織はフォークリフトやエンジン事業も含めグループの一翼を担う「重要な企業であることについては変わりはない」と述べた。
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(更新前の記事の8段落でバリューチェーン事業に訂正済み)