静かだった都議選 切り抜きユーチューバーも「バズり要素なく興味なし」 参院選は暗雲

東京都議選の候補者の演説を聞く有権者ら。スマートフォンで撮影する様子などもみられた=13日、新宿区(梶山裕生撮影)

最近の選挙戦で偽情報の拡散など交流サイト(SNS)上のトラブルが相次いだ中、今回の東京都議選では目立った混乱はなかった。国政選挙ではないうえ、明確な対立軸もないなど、関心を引く要素が少なかったことが要因の1つとみられる。SNS対策に関する法整備は行き届いておらず、全国規模になる来月の参院選には不安が残る。

「SNSは拡声器」

 「首都とはいえ、いち地方選挙。SNSは拡声器なので、もともとの関心が限定的だと大きな渦にはならない」。ユーチューブ上に政党会見などの「切り抜き動画」を投稿している男性(36)は、今回の都議選をそう評す。

男性のようなユーチューバーによる政治系動画は増加傾向にあり、全体的な再生回数は伸びているとみられる。一方で男性は、「何十万回も再生される、いわゆるバズった状態に至るには、明確な善悪の構図や候補者のスキャンダルといった『前段』の要素が大事。今回はそれがなかった」。

男性は、視聴者に広く政治に関心を持ってもらうために活動しているという。だが、都議選が行われている期間、自身のチャンネル「世間を賑わすニュースあれこれ」にアップした都議選の関連動画は、日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)が東京都内で応援演説に立った際のものだけだった。

賛否両論も「浸透してきた証し」

ただ、政党側がSNSに力を入れるトレンドは変わらない。知名度や組織力に劣る新興政党にはより重要で、今回も積極的に発信した。

ユーチューブの公式チャンネルの登録者数(6月22日午後3時半現在)は、国政政党ではれいわ新選組が37万6000人でトップ。参政党が30万1000人で続く。地域政党(都議会)では、今回が初陣の再生の道が11万人に達した。

一部の支持者が自発的に切り抜き動画やショート動画を作成していることも後押ししているとみられる。

主な政党のユーチューブ公式チャンネルの登録者数

結成から日の浅いある党は昨年、SNS運用の専門部門を立ち上げた。関係者は「賛同も批判もたくさん頂いている。誰からの反応もなかった結党当初から比べれば、認知度は段違いだ」と手応えを語る。

アテンション・エコノミー、政治にも

SNSの存在感が高まる中、急務なのが誤・偽情報対策だ。昨年11月の兵庫県知事選では、ある候補者が「外国人参政権を推進している」などとする虚偽の内容が拡散した。関係者によると、今回の都議選では一部の党で、候補者を装った偽アカウントによる投稿が確認され、党側がSNS事業者へ通報したという。

政治的な意図に加え、SNSでは、再生回数などに応じて投稿者に報酬が支払われる仕組みがあり、これが選挙結果に影響を及ぼしかねない過激な表現や真偽不明の情報の蔓延につながっているとの見方がある。現状、与野党で選挙期間中の支払い停止などを含めた対策が協議されているが、今国会での法整備は見送られた。

7月の参院選も、法規制が及ばないまま臨むことになる。同じく問題視されてきた選挙ポスターの掲示についても、品位保持規定を新設した改正公職選挙法の施行により都議選は特段のトラブルなく乗り切ったが、懸念は残る。

慶応大メディア・コミュニケーション研究所の水谷瑛嗣郎准教授

慶応大メディア・コミュニケーション研究所の水谷瑛嗣郎(えいじろう)准教授は、刺激的な情報を流して再生回数などを増やし、収益拡大を図る「アテンション・エコノミー」(関心経済)が、「政治の領域に浸透してきた」と指摘。「この流れを上手く操る人物や組織によるトラブルが、今後増えてくる可能性がある。信頼性の低いソースからの投稿は、たとえ人気があっても検索上位に浮上しないようにするといった諸対策を、関係事業者が導入していくことが求められる」としている。

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