豊田織買収、トヨタグループのガバナンス改善に寄与するか疑問も
トヨタ自動車の豊田章男会長ら創業家が豊田自動織機の非公開化を前提とした買収提案を行ったとの報道を受け、アナリストや投資家など市場関係者からはトヨタグループの企業統治(コーポレートガバナンス)改善につながるかは不透明だとの声が相次いだ。
SMBC日興証券の牧一統シニアアナリストは「トヨタグループのガバナンス問題を考察」と題した28日付のリポートで、「トヨタ会長含むトヨタ創業家が同社に対し買収提案を行ったのであれば、トヨタ創業家が同社の所有を通じてトヨタグループへの支配力を高める可能性がある」との見方を示した。
同氏はまた、トヨタと豊田織の持ち合い解消や両社の自己資本利益率(ROE)改善が進まない可能性もあるとして、実際に複数の投資家からそういった懸念の声を受けたと明かした。
国内ではガバナンスの向上や親子上場の解消、一部では買収防衛の観点などから創業家が中心となる非公開化の動きが活発になっている。トヨタグループでも歴史的に株式持ち合いが多く、解消を進める動きも出ていた一方で自動車の認証試験を巡る不正問題がグループ内で相次いだこともあり、ガバナンスの強化が焦点となっていた。
岩井コスモ証券の清水範一アナリストは、トヨタ創業家などによる買収がトヨタグループのガバナンスにとってどのような意味を持つかは不透明だと指摘する。トヨタが持ち合い株の売却を段階的に進めてグループとの切り離しを進めてきた中で今回の動きは逆行しているという見方もあり、株主から反対も出るかもしれないと述べた。
ブルームバーグは26日夜、豊田氏を含むトヨタ創業家が豊田織の非公開化を前提とした買収提案を行ったと報じ、実現のために特別目的会社(SPC)を作る計画だとした。買収資金は豊田氏個人やトヨタなどによる出資に加え、三菱UFJ銀行など3メガバンクからの融資も活用する案も浮上しているとした。
トヨタの源流にあたる豊田織はトヨタ株の9.07%を保有するほかデンソー、アイシン、トヨタ紡織など多くのグループ各社の株式も持っており、資本効率の観点から投資家から厳しい目が注がれている。
非公開化や買収が実現すればこうした市場の圧力からは逃れられる一方、ブルームバーグのデータによると、現時点ではわずか0.1%程度しかトヨタ株を持たない豊田氏は豊田織の株主としてもグループ各社に影響力を行使できるようになる。
住友生命保険の村田正行バランスファンド運用部長も今回の件が「トヨタグループ全体の持ち合い解消の契機となるのか、はたまた持ち合いを温存する契機になるのかは不透明」と指摘した上で、豊田織を非公開化するだけではガバナンス問題の解決にはつながらず、今後の動向次第だと述べた。
一方、2023年から始まったトヨタ系部品メーカーによる持ち合い解消の動きは豊田織を除き今後も続いていく可能性がある。SMBC日興の牧氏は豊田織の非公開化は事実としても「同社特有の動き」との見方を示し、トヨタによるグループ会社の過剰な持ち分の売却と、各社が保有するトヨタ株の売却が焦点と述べた。
デンソーの松井靖副社長は25日に名古屋市内で開いた決算会見で、トヨタグループの部品メーカーの持ち株は既に売却を完了したか、売却をするのが決まっている状態だと述べた。トヨタ株についても「聖域」にすることはないとして売却に向けた議論を行っていく考えを示した。
アイシンの伊藤慎太郎副社長は計画通り政策保有株は25年度中にゼロにするめどがついていると述べ、成長投資のために必要であればトヨタ株も売却対象として考えていくとした。