春名風花さんが語る「誹謗中傷」加害者との10年戦争 “粘着”される苦しみと戦いの軌跡

「はるかぜちゃん」の愛称で知られる俳優・声優の春名風花さん(24歳)は、小学生のころから「ガラケー」でTwitter(現X)への投稿を始めた。

それはまた誹謗中傷との戦いの歴史とも重なる。

中学生のころからSNSなどに長年にわたって執拗に投稿してきた男性を相手取った訴訟で、最高裁の決定が7月になされ、およそ300万円の支払いを命じる1審判決が確定した。

差し押さえた男性の給与から、月々の支払いが10年間続けられる。

裁判でそこまで重視されなかったSNS「粘着」の苦しみ、これからのSNS空間の進む先など語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

⚫︎誹謗中傷と認定

春名さんは複数の中傷投稿者を相手に法的措置をとってきた。

特に、春名さんが中学生のころから6年にわたって「風花を合法的に葬り去りたい」「お前みたいな奴ほんと要らんからとっとと辞めろ辞めちまえ」などの投稿を1000件以上繰り返した男性との訴訟は長引いた。

2024年5月、横浜地裁は春名さんと母親に対する名誉毀損と侮辱にあたることを認めて、男性に計計377万5000円の支払いを命じる判決を言い渡した(うち春名さんに327万円5000円)。

賠償額が1件あたり3000円にすぎないことを不服として控訴したが、東京高裁は控訴を棄却。最高裁もまた上告を受理しなかった。

これにて春名さんの民事訴訟はひととおり終了した。刑事事件としての手続きはまだ残っているが、このタイミングで体験を振り返ってもらおう。

⚫︎誹謗中傷投稿者とライフステージを歩んできてしまった

——一連の民事訴訟を終えました。

だいぶ長かったです。

小学生から誹謗中傷が始まりました。最高裁まで争った男性からの中傷は中学生のころから始まりました。そして弁護士を頼って法的措置をとり始めたのが高校のとき。

中学卒業からいつの間にか多くのライフステージを彼と一緒に歩んできてしまいました。

訴訟では2015年から6年間の1000件もの投稿を問題にしましたが、10年近く粘着されてきました。

複数の投稿について3000万円以上の賠償を求めたのですが、結果として認められたのはおよそ300万円です。

裁判官が賠償額の桁を1つ増やすことは、現実的ではないと判断するだろうと思っていました。

複数の投稿について、訴訟をそれぞれ1件ずつ起こすこともできたわけですが、それは被害者にとっても経済的・時間的な負担があります。粘着され続けて、こんなことで人生をともにされているのが本当に嫌だったので、まとめて訴えたわけですが、これから先は裁判のありかたも変わっていってほしいです。

⚫︎報いをうける責任

——判決の確定により賠償は支払われましたか。

支払いは始まったと聞いています。資産や給料の差し押さえに踏み切ったことで、男性の預貯金から5万円がまず支払われたそうです。

勤務先の会社から支払われる給与の4分の1が自動的に振り込まれ続けます。代理人弁護士が突き止めて、会社と交渉してとりまとめてくれました。

彼はこの世で一番大嫌いな相手に、10年間も月々4万円の仕送りを送らなければいけない結果を迎えました。

人に10年執着したら、10年苦しい生活を送ることになる。

私としては田舎から仕送りを受けるみたいな感覚ですよ。個人的にはちょうどよい結果です。

お給料の4分の1が毎月なくなるなら、それなりに生活を変えなければいけないでしょう。私は10年粘着され続けたことで、仕事仲間や友達も誹謗中傷の影響があって嫌な思いをさせられましたから。

じわじわと追い詰められるような感覚に近い償ないをしてもらうことになる。そう思えば、結果に納得したところがあります。

勤め先は誹謗中傷を理由に解雇することもできたはずです。男性については刑事手続きも進めています。そうした重大さをうけて、会社は彼を辞めさせずに、支払いをさせる選択をしてくれたのではないでしょうか。

当初は神奈川県警が被害届を受理していましたが、現在は別の地方の警察が捜査を引き継いでいます。それからものすごいスピードで進展していきました。

⚫︎「耳元で舌打ち24時間365日」粘着されて知るつらさ

——「粘着」されるつらさはどんなものですか。

人を傷つける言葉を吐くことって、どんなに誠実に生きている人だって一度くらいやってしまうと思います。

わざとぶつかってくる「ぶつかりおじさん」っているじゃないですか。ぶつかられると、痛いし、すごく嫌な感情になりますよね。

春名風花さん

こういう仕事をしていると、ニュースで取り上げられることがあって、そういうときに「お前誰だよ」みたいな悪意あるコメントがつくことがあります。

私だってそんなことを言われたら「あんたが誰」みたいな感じの気持ちになるんです。

そういう嫌な感情にさせる私への投稿を見かけることはあります。一度きりの「ぶつかりおじさん」みたいなものです。

いまの誹謗中傷に対して厳しくなった社会でも、こういうネット上の「一度だけのぶつかりおじさん」まで追いかけて、アカウントを凍結したり削除させたりするのであれば私は反対です。表現の自由も尊重されるべきです。

ただ、そういう「ぶつかり」よりまだマシだけども、通りすがりに必ず舌打ちのようなことをしてくる人が365日24時間隣にいたらそれは嫌だと思うんですよ。

今回裁判した相手がまさに舌打ちや肩パンレベルの攻撃を365日24時間してくる人のような感覚でしたね。

現在の社会では、そういう粘着が「嫌なもの」だと多くの人に理解してもらえると思います。

でも、私がまだ小学生のころも、高校生で裁判起こしたころも、誹謗中傷への危機感は社会になかったので、警察に相談に行っても「その程度で来ないでよ」と言われたりしたものです。

ネット上の「一度だけのぶつかりや肩パン」に困っている人がいるのはわかりますが、「24時間365日舌打ち」のほうが軽い罪になるのはおかしいと思っています。

それに、言い回しを工夫するだけで、法的な誹謗中傷の成立を回避できることもありますよね。

「メイク似合ってないですね」程度のことでも24時間ずっと書かれたらしんどいよって伝えたいと思います。

⚫︎悪意ある継続的な投稿の削除についてプラットフォーム側も検討を

表現の自由と心を守ることの両立は難しいですが、誹謗中傷投稿の「継続性」について厳しくしてほしいです。常習性の罪はどんどん重くなってほしいです。

プラットフォームの対応も同じようなものです。たとえばインフルエンサーの投稿が炎上したとき、多くの通報が各所からプラットフォームに届くことで、投稿が削除されたり、凍結されたりしやすいと感じます。

一方で、1人の相手に粘着的な投稿を繰り返すアカウントは、いくら被害者が通報をしても、なかなか対応してもらえません。

継続的に不愉快な投稿を続けるアカウントは削除してほしいです。

●ネット中傷に法的措置…切り口をこじあけた自負

——春名さんがやったような誹謗中傷を理由とした法的措置は一般的になりました。「開示請求」という言葉も広く知られたように思えます。

そうですね。本当に数年でこんなにガラっと変わるんだって思うし、やっぱ 1 人やると何人もやってくれるようになりました。

昔は「有名税」だと言われたり、芸能事務所側も「反応してもしかたない」みたいな意識がありました。

タレントイメージのために黙っておくしかなかった人たちがいっぱいいたはずです。私より大きな迷惑を被っている人たちがいたと思います。

そんなときに、私が訴訟を起こして、結果が出たことがありました(※2020年7月、Twitterの投稿者が示談金計315万4000円を支払う内容で示談が成立した)。

誰でも知っている人気芸能人でもない春名風花程度でも、誹謗中傷を訴えて、このような結果がでた。当時は「高額」と受け止められました。私より活躍している芸能のかたがたも、芸能とは関係のないかたでも、「裁判できるんだ」と思ってもらえたのかもしれません。

行動を起こしたことで、「社会が変わった!」という実感もありました。

これが5年10年の変化です。これからももっと良い方向に変わってくれるといいですね。

——どんな社会になっていくでしょうか。

SNSの中が「SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)」っていうものじゃなくて、社会になってきているっていう印象があります。

現実の1つの村の中で、朝から晩まで暴言を吐いてる人がいたら、いつかのタイミングで制裁を食らうじゃないですか。

SNSの中って誰が誰だかわかんないっていう理由で、朝から晩まで暴言を吐いている人も見過ごされてきました。

でも、SNSの中の人口がどんどん増えていってるなかで、朝から晩まで暴言吐く人たちだけの村だったら安全だったかもしれないけど、そういうことは許されなくなっていく。

ここまで来たらおそらく、現実世界でやってはダメなことはSNS でもやれなくなっていくんじゃないでしょうか。でも現実よりちょっとだけ自由みたいなイメージになってくるかもと思っていて、それは表現の自由が好きな立場としてもちょうどいいんじゃないかなと思います。

⚫︎困ったらプロに

——誹謗中傷の対応を弁護士に相談するということも一般的になりました。

法的措置をとってから10年になるので、代理人弁護士とのお付き合いも10年になります。

法律事務所のホームページにオタクの血を感じたこともあり、ネット関連のプロフェッショナルでかつ、SNSのトラブルに熱い憤りをもった弁護士だったのも決め手でした。

先生は私が事件と直視する時間を最短にしてくれたんですね。安心して任せられました。

訴訟する相手とは当初から和解する将来が見えない状態だったので、手続きを速やかに進めてくれる先生でよかったです。

誹謗中傷で心底追い詰められて、カウンセリングが必要な被害者のかたであれば、対面でじっくり話を聞いてくれるような弁護士がいいのかもしれません。

いずれにせよプロフェッショナルに出会えるかどうかは大きいです。

【プロフィール】春名風花(はるな・ふうか)。俳優・声優。2001年2月4日生まれ。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒業。幼少期から子役、モデルとして芸能活動を続ける。著書に『ネットでいじめられたら、どうすればいいの? 5人の専門家と処方箋を考えた』(河出書房新社)。

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