ふるさと納税は裕福自治体不利か 芦屋市12億円流出の悲鳴「カタログショッピングに」

国がふるさと納税制度の厳格化を進めている。納税額(寄付額)が年間1兆円を超えるまでに浸透した一方で、寄付受け入れの多い自治体と税収が減る自治体との差が広がるなど、制度のゆがみが顕著になったためだ。国は自治体間で寄付獲得競争が過熱し、返礼品や仲介サイトの業者に税金が流出している現状を問題視。矢継ぎ早に対策を講じ、是正を図りたい考えだ。

ふるさと納税は地方の活性化などを目指し、平成20年にスタート。納税者が全国から選んだ自治体に寄付すると、2千円を超える分が居住自治体に納める翌年の住民税などから控除される。

実質2千円の負担で寄付先から返礼品がもらえる形で、お得感から利用が拡大。20年度に約81億円4千万円(約5万4千件)だった寄付総額は右肩上がりで増え、令和6年度は約1兆2728億円(約5878万7千件)となった。

だが、この制度では、寄付した分だけ居住地の税収が減ることになる。多額の寄付を受けて財政が潤う自治体との二極化が進んでいる。

寄付受け入れ額の上位には、人気の返礼品をそろえる地方の自治体が多い。上位常連のある自治体の担当者は「返礼品で地域の特産品もPRでき、寄付金で人口減少対策などもできる」とし、「地方創生につながる制度だ」と歓迎する。

一方、税収が流出する自治体は人口の多い都市部が目立つ。財政規模が大きく、影響が限定的なケースもあるが、自治体にとって税収減は大きな痛手だ。

全国でも有数の高級住宅地を抱える兵庫県芦屋市は令和6年度、約1億4千万円の寄付を受けたのに対し、流出額は約12億円に上り、10億円あまりの赤字。住民1人あたりでは約1万2千円のマイナスとなっている。担当者は「10億円あれば、いろいろな事業ができる」と漏らす。

格差の背景には返礼品を使った寄付獲得競争があり、税金が業者に流れる結果にもなっている。

総務省の調査では、6年度の寄付総額のうち自治体の財源となったのは半分ほど。残りは返礼品の調達や広報といった経費などで消え、仲介サイトの事業者には約1650億円が支払われた。

同省はこうした経費が自治体の負担になっていると指摘。「お世話になった地域に貢献する」という制度の趣旨とも異なるとして、今年10月から仲介サイトでの寄付に特典ポイントを付与することを事実上禁じた。

また、これまで控除額に上限がなく、高所得者ほど恩恵が大きい仕組みとなっていたが、令和8年度の与党税制改正大綱に上限設定が盛り込まれた。これにより、給与収入のみの単身者では年収1億円から控除額が増えなくなり、高所得者の多い自治体からの流出額に一定の歯止めがかかると期待される。

さらに、寄付募集にかかる経費について、現在は寄付額の50%となっている上限を段階的に引き下げ、11年度から40%未満とする。返礼品調達費や広告費を下げることで、寄付獲得の過当競争を抑える狙いがある。

芦屋市の担当者は「返礼品のカタログショッピングのようになっている。制度の本来の趣旨に戻るような制度の見直しをしてもらいたい」と話している。(高田和彦)

平田英明法政大教授(日本経済論)の話

平田英明教授

ふるさと納税制度が始まって20年近く経過したが、地方創生の効果は一定程度あったといえる。一方で寄付総額が1兆円を超え、巨大な市場となったことで返礼品のビジネス化など問題があらわになってきた。

問題の一つが自治体間の差の拡大だ。受け入れ額が多いところは基金に積み増していき、高所得者の多い都市圏では流出額が年々増加するという構図になっている。寄付に伴う控除額に上限が設けられることで、こうした流れは少し止まるだろう。上限の基準となる年収1億円というのはごく限られた層なので今後段階的に下げ、2千万円あたりを目指していくのがよいのではないか。

高所得者による多額の寄付が総額を押し上げている面もあり、上限設定によって寄付額は減少する可能性もあるが、裾野が広がっており影響は限定的だと思う。

経費率の引き下げやポイント付与の禁止で、過当な寄付獲得競争も抑えられていくと考える。ただ、「ふるさと納税は返礼品がもらえるお得な制度」という考えは国民に浸透しており、その流れを作ったのは国だ。制度を根幹から考え直す必要もあるだろう。

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