井上尚弥ら「ビッグ3」君臨、エキサイティングな最強王者争い
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〝モンスター〟が自ら「過去最強の難敵」と呼んだ相手との戦いでのパフォーマンスは見事だった。9月14日、名古屋のIGアリーナで行われたボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一戦で、4冠王者の井上尚弥(大橋)が世界ボクシング協会(WBA)暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に大差で判定勝ち。直近の4戦中2戦でダウンを喫した井上だったが、この試合でのディフェンスに気を配った流麗なアウトボクシングは圧巻であり、総合力の高さを印象づけた。
「誰が衰えているって?!」。32歳になった井上は試合後にそう叫んだが、実際にこの勝利で「さすがのモンスターも年齢的に下り坂なのではないか」という声は吹き飛ぶだろう。ここでの完封勝利は欧米のメディアからも好評であり、世界戦26連勝を続ける井上の評価はさらに上がったはずだ。
もっとも、世界で最も権威があるとされる米専門誌「ザ・リング」の最新パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでは井上は前週の2位から3位にランクダウンする結果となった。それはなぜなのか。
井上対アフマダリエフのゴングが鳴る直前、米ラスベガスでは「2025年最大」と称されるビッグファイトが行われていた。世界スーパーミドル級の4団体統一王座がかけられたタイトル戦で、挑戦者のテレンス・クロフォード(米国)が4冠王者サウル・〝カネロ〟・アルバレス(メキシコ)に判定勝ち。カネロを明白にアウトボックスしたクロフォードはこれで5階級制覇王者となり、しかもスーパーライト、ウエルター級に続き3階級で4団体統一も果たした史上初のボクサーとなった。
「2階級上げて、(興行的な意味での)Bサイドとして、この階級では無敗だった統一王者に勝ったんだ。もちろんこの勝利は大きな意味を持つよ」
試合後の記者会見でそう語っていた通り、ここでの王座奪取はクロフォードの〝レガシー(歴史的評価)〟に大きな影響を及ぼすに違いない。
デビューからの戦績を42戦全勝(31KO)としただけではなく、2階級上の選手であり、パワーと馬力では上回ると見られていたカネロを終盤ラウンドには力強さでも凌駕(りょうが)してみせた。この圧巻の勝ち方のあとでは、クロフォードが何を言っても大げさとは思われない。
「今が自分の時代だ。こうなったことを本当にうれしく思っている。今、君たちの目の前にいるのは世界の統一王者なんだ」
米国内の屋内興行では史上2位の7万482人という大観衆を集めた興行で強さを見せ、実際に「フロイド・メイウェザー以降では最高の米国人ボクサー」という称号は確固たるものとなった。それと同時に、PFPランキングでもそれまでの3位から1位に浮上したのも当然だったのだろう。それゆえに、前週まで1位だったヘビー級のオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)に次ぐ2位につけていた井上は押し出されるように3位に下がったのだった。
ただ、繰り返しになるが、現代最高級のボクサーとして井上の力量はすでに欧米でも十分にリスペクトされている。1位クロフォード、2位ウシク、3位井上という最新の順位は、筆者もメンバーに入っているランキング選考委員の中でもほぼ満場一致だったが、ザ・リングのダグラス・フィッシャー編集長が敢然と「井上が2位にとどまるべきだ」と主張したことは付け加えておきたい。
「スーパーバンタム級の元王者であり、今でも有力なコンテンダー(挑戦者)だった選手に対し、モンスターはあれだけ規律の取れたパフォーマンスをみせたのだから、私はトップ3がクロフォード、井上、ウシクの順番になるべきだと思う」
近年、この3人は多くのビッグファイトの主役になり、それぞれ卓越した技量を誇示し続けている。クロフォードはエロール・スペンス(米国)、カネロというその時点でPFPトップ10に入っていた選手との直接対決に圧勝し、「中量級の覇者」の称号をほしいままにするようになった。
ウシクはクルーザー級、ヘビー級のトップ選手を軒並み下し、しかもほぼ常に敵地で戦い続けるロードウォリアーとして「重量級の雄」の立場を確立した。そして、敵なしの快進撃を続ける井上が「軽量級の怪物」として世界的に認められるようになったことはもう説明の必要もあるまい。
軽量級、中量級、重量級にそれぞれ無敗の最強王者が君臨する現代。そんな時代が展開され、主役の一人が日本人であることを私たちは喜ぶべきなのだろう。井上が、来春の開催がうわさされる中谷潤人(M・T)とのスーパーファイトに臨み、現在PFP7位にランクされる後輩王者に印象的な形で勝てば、PFP1位への返り咲きが考慮されるに違いない。
このように「ビッグ3」が順番に重要な戦いに臨み、超越的なパフォーマンスを続ける2020年代はエキサイティングな最強王者争いが繰り広げられた時代として後に振り返られることになるはずである。
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