【動画】幻の南極海の深海イカ、生きた姿を人類が初めて目撃
南極周辺の極寒の海で、遠隔操作無人潜水艇(ROV)がナンキョクテカギイカを発見した。生きた姿を人類が目にしたのはこれが初めてだ。(VIDEO BY ROV SUBASTIAN / SCHMIDT OCEAN INSTITUTE)
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ボルスタッド氏はある特徴を頼りにナンキョクテカギイカを同定した。「2本の長い触腕の先端に大きなフックがあるかどうかです」
この特徴は映像で確認できた。「ずっと見えるわけではありませんが、確かにそこにあります」とボルスタッド氏は言う。
ついにナンキョクテカギイカが生息地で発見された。おかげで、科学者たちはその特徴を調べ、その習性について理論を立てられるようになった。
「印象的な触腕のフックはおそらく、獲物を待ち伏せて捕まえ、押さえ付けるために使われているのでしょう」と英エクセター大学の上級講師アレックス・ヘイワード氏はメールで述べている。ヘイワード氏は今回の探査に参加していない。(参考記事:「映画『リトル・マーメイド』の魔女はタコ? イカ? 真剣に考えた」)
しかし、ナンキョクテカギイカについてわかっていることはまだ多くない。
「おそらく貪欲な捕食者を避けながら、魚を捕まえる活発な捕食者としての生活を送っているのでしょう」とヘイワード氏は推測している。
深海に暮らすイカは視力が良く、通常、調査船のライトを避けるため、この遭遇は本当に驚くべきことだ。
「私たちは彼らに会いたいと思っていますが、おそらくほとんどの場合、彼らは私たちに会いたくないのだと思います」とヘイワード氏は語る。
壮絶な戦いの跡まで
このナンキョクテカギイカは腕に傷があり、胴体には新しい吸盤の跡があった。
「獲物を捕まえようとして、反撃を受けたのかもしれません」とボルスタッド氏は述べている。ただし、壮絶な戦いの相手は不明だ。(参考記事:「【動画】ダイオウイカの狩り、撮影に成功」)
ヘイワード氏は、生息域と生息深度が重なるダイオウホウズキイカの子どもが相手だったのではないかと考えている。(参考記事:「ダイオウホウズキイカの低消費生活」)
研究者たちは映像からこのイカの性別を確認できなかったが、もしメスであれば、「寿命を全うしたほかのメスの2倍近い大きさです」とボルスタッド氏は述べている。
テカギイカは、寿命が近づくと白くなり、組織が崩壊する。「体が膨らみ、ボロボロになります」とボルスタッド氏は説明する。
しかし、映像のイカは「かなり良い状態」に見えるとボルスタッド氏は述べている。「色もまだ鮮やかです」
つまり、このイカはオスで、高齢のオスはメスほど状態が悪化しないということだろうか? それとも、私たちがナンキョクテカギイカと呼んでいる動物は、実は複数の種で構成されているのだろうか? 専門家たちはまだその答えを知らない。
この刺激的な発見は、特にあまり探査されていない極地では、海について学ぶべきことがまだたくさんあるという事実を浮き彫りにしている。
「深海では、まだ誰も見たことがないものを見ている可能性が常にあります」とボルスタッド氏は語る。「発見と探査の可能性はほぼ無限大です」
ギャラリー:南極で巨大氷山が分離、海底に驚くべき生物の宝庫が広がっていた 写真4点(写真クリックでギャラリーページへ)
ダイオウクラゲ(Photograph by ROV SuBastian / Schmidt Ocean Institute)
この記事は、ナショナル ジオグラフィック協会とロレックスによる「パーペチュアル プラネット オーシャン エクスペディション」の活動報告です。
文=Melissa Hobson/訳=米井香織