専門家が読み解く「フェルスタッペン憂鬱の真相」― メキーズと見解が分かれた背景と、メキシコでの“逆襲のシナリオ”

2025年F1第20戦メキシコGP予選で5番手に沈んだマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、レースに向けて「前の連中がリタイアしない限り順位は上げられない」と、絶望的な言葉を並べた。一方でチーム代表のローラン・メキーズは、必ずしも悲観的に見ていない。

フェルスタッペンがチームの見解に共感する様子を見せず、「憂鬱」な気分に沈んでいる背景には、「そこへと至るプロセス」がある――フェラーリやザウバーの元レース・ストラテジストで『F1 TV』の戦略解説者を務めるルース・バスコムは、そう分析する。

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取材に応じるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年10月25日(土) F1メキシコGP予選(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

予選後、フェルスタッペンは久々に、かつて見慣れた不機嫌な表情を浮かべていた。メキーズ体制になってからは初めてのことかもしれない。タイトルを争うランド・ノリス(マクラーレン)に0.484秒もの大差をつけられた結果に、「今週末は1周たりとも満足できるラップを走れていない」「明日突然良くなることはない」と不満をあらわにした。

一方で、チームを率いるメキーズの見解はやや異なる。セットアップを最適化できなかった点は認めつつも、「決勝重視のアプローチ」を取ったことを示唆し、その選択が正しかったかどうかは「レース後に答えが出るだろう」と語った。

「妥協せざるを得なかったプロセス」

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フェラーリの元レースストラテジストで、ザウバーの元レース戦略責任者でもあるルース・バスコムと元インディカードライバーのジェームズ・ヒンチクリフ、2024年F1マイアミGP

バスコムは、フェルスタッペンの不満の根源は、単なる予選結果や現在のマシンの状態ではなく、そこに至るプロセスにあると指摘する。

レッドブルは金曜、トップタイムを刻みながらもレースペースに苦しんだ。フェルスタッペンは「一発の速さよりレースペース」の改善を求め、チームはFP3でセットアップを大幅に変更した。

「レッドブルはFP3で異なる2種類のセットアップを試していました」とバスコムは解説する。

「ユーキ(角田)は金曜の高ダウンフォース仕様を維持し、マックスは低ダウンフォース仕様を試した。でもその後、予選に向けて再びセットアップを戻した――これは本来、ドライバーに一貫したフィーリングを与えたいなら、あまりやりたくない変更ですよね」

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最終フリー走行でレッドブルRB21をドライブするマックス・フェルスタッペン、2025年10月25日(土) F1メキシコGP FP3(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

足回りを固め、車高を限界まで下げすぎたためか、フェルスタッペンは文字通り全てのラップで、ターン9出口のバンプを乗り越える際にバランスを乱していた。バスコムは「毎回、約0.13秒を失っていた」と指摘する。

ターン9のロスがなければ3番グリッド、さらに他のセクターでも改善できていればフロントローも視野に入っていた計算だ。

一方でバスコムは、これは「チームが文字通り、ありとあらゆることを試した」ことの表れだとも指摘。そして核心に触れる。

「彼が憂鬱な理由は、多分、金曜のミディアムタイヤでのロングランで苦しんだセットアップの一部に戻さざるを得なかったからだと思います」

つまり、改善を目指して様々な変更を試みたものの、最終的には、たとえそれが部分的であったとしても、自身が嫌っていたセットアップに戻らざるを得なかった――この試行錯誤の末の妥協が、フェルスタッペンの「憂鬱」を生んでいるというわけだ。

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ガレージ内でチーム代表ローラン・メキーズと話をするマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)と、その様子を見守るヘルムート・マルコ、2025年10月25日(土) F1メキシコGP FP3(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

予選を”犠牲”にしたトレードオフの成否

メキーズとバスコムの見解は「このセットアップが決勝でどう機能するかは別問題だ」という点で一致する。

「燃料を積んだ状態のペースを良くするために、予選ペースを少し犠牲にした形です。そこにはトレードオフがあるわけです」とバスコムは語る。

「明日のレースに関して言えば、路面のグリップが向上するにつれて、マックスはバランスを調整してレースペースを引き出していくはずです。これまで私達が何度も見てきたようにね」

逆襲のシナリオ:「830m」と「クリーンサイド」

さらに、専門家たちが決勝での巻き返しを予想するのには、根拠がある。

第一に、メキシコ特有のレイアウトだ。「ここはスタートラインからターン1まで830メートルもあります」とバスコムは指摘する。

「彼は以前、3番手スタートからターン1でトップに立ったこともある。5番手から一気に3番手まで挽回できれば、仕事の半分は終わったようなものよね」

第二に、スタートポジションの優位性だ。F1公式解説者のジェームズ・ヒンチクリフは、「表彰台は十分に可能」と断言する。

「彼はスタートが極めて狡猾だし、クリーンサイド(グリップの良い側)からのスタートだ。ターン1を抜けた先で2番手にいても不思議じゃない」

「このチームはレースマネジメントが秀でているし、マックス自身もすべてを最大化する術を熟知している。表彰台は間違いなく可能だと思う」

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角田裕毅のレッドブルRB21をガレージへ押し戻すメカニックたち、2025年10月25日(土) F1メキシコGP FP3(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

タイトル争いの行方を左右する71周

ただし、ヒンチクリフが指摘するように、今週末のノリスのペースは「桁外れ」だ。フェルスタッペンでさえ、彼を打ち負かすのは容易ではないだろう。つまりヒンチクリフの言葉を借りれば「普段なら”マックスが勝つ”と言うところだけど、今回は簡単じゃない」ということになる。

現在、フェルスタッペンはノリスを26ポイント差で追う立場にある。ノリスが逃げ切り、フェルスタッペンが5位に留まれば、その差は41ポイントに広がる。一方でフェルスタッペンが表彰台を確保し、選手権リーダーのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)がスタートポジションの7位にとどまれば、たとえノリスとの差が拡大したとしても、三つ巴のタイトル争いは一気に緊張感を増す展開になるだろう。

「決勝重視のトレードオフ」が的中し、「憂鬱」なフェルスタッペンが逆襲を見せるのか。それとも「桁外れ」のノリスが圧勝し、フェルスタッペンは懸念どおりに前進を阻まれるのか。タイトル争いの命運を握るメキシコGPの決勝から目が離せない。

2025年F1メキシコGP予選では、ランド・ノリス(マクラーレン)がポールポジションを獲得。2番手はシャルル・ルクレール、3番手はルイス・ハミルトンとフェラーリ勢が続く結果となった。

決勝レースは日本時間10月27日(日)29時にフォーメーションラップが開始され、1周4304mのエルマノス・ロドリゲス・サーキットを71周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNフジテレビNEXTで生配信・生中継される。

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