不況すぎて「後払い決済」急増、「借金地獄」の懸念も…トランプ氏「経済政策失敗」を埋め合わせる中南米攻撃も深刻な火種に(デイリー新潮)
中低所得者ばかりか、株高などの恩恵を受けている富裕層の支出にも陰りが出ているという指摘もある。 クリスマスも盛り上がらない可能性が高い。AP通信とシカゴ大学が実施した世論調査によれば、約半数(48%)の米国人が「今年は例年より非必需品の買い物を控えている」と回答しているからだ。 国民の懐事情の厳しさが後顧の憂いとなるリスクも生まれている。年末商戦に入り、小売各社は消費者の購買意欲を支えるBNPL(後払い決済サービス)への依存を強めているからだ。ただし、BNPLの手数料はカード決済のそれよりも高い。このため、利用者の多くが今後、借金地獄に陥るのではないかとの懸念が広がっている。 国民の苦難はまだ続く。米連邦議会上院が12月11日、医療保険制度改革法(いわゆるオバマケア)の補助金が年末で期限切れとなる問題について、共和党と民主党の異なる法案をそれぞれが否決したため、来年1月から約2400万人の保険料負担が大幅に増える恐れがある。
国民の多くが日々の生活に苦労している中、ロイターが発表した最新の世論調査で、トランプ氏の支持率は11月の調査から3ポイント上昇し、41%となった。 トランプ氏が、関税収入を財源にして国民に1人当たり2000ドルを支給することや手頃な小型車の生産開始、50年住宅ローンの導入などの提案を相次いで打ち出したことに、共和党支持者が一定の評価を下した。 だが、トランプ氏への逆風は強いままだ。トランプ氏は9日、東部ペンシルベニア州で集会を開き、来年11月の中間選挙に向け、運動を本格化したが、「物価を下げろ」「給料を上げろ」と書かれたプラカードを掲げた参加者が散見される事態となっている。 トランプ氏が旗振り役を担っている人工知能(AI)についてもMAGA支持者の間で不満が高まっている。AIの運用に欠かせないデータセンターの莫大な電力需要のせいで電気料金がさらに上昇し、雇用の多くが失われるとの危機感がその理由だ。 MAGA運動の代表的存在であるスティーブ・バノン氏は、「AIを抑制せよ」と声高に主張し始めている。
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トランプ氏の行政行為に関する私物化も問題になっている。米建国250周年に当たる来年、自らの肖像を刻んだ記念通貨の発行を計画しているのに対し、民主党は現職または生存している元大統領の顔を貨幣に使用することを禁ずる法案を議会に提出する事態となった。 トランプ氏はさらに批判的なメデイア関係者に対して侮辱発言を繰り返しており、好感度の低下は避けられない状況だ。 トランプ氏はこれまで「民主党が政治的利益のために生活コスト危機を作りだしている」と強弁し、「生活費高騰の原因を作ったのはバイデンであり、史上最悪のインフレを引き継いだに過ぎない」「(前任者である)バイデンが悪い」と責任転嫁を繰り返してきた。 だが、大統領就任から1年近くが経ち、この言い訳も通用しなくなり、不都合な現実に向き合わざるを得なくなっている。 ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、同紙のインタビューに応じたトランプ氏が「自身の経済政策の一部がまだ完全に効果を発揮していないため、来年の中間選挙で共和党が下院で過半数を維持できるかどうか不透明だと表明」と報じた。 トランプ氏は今後、反転攻勢に出るだろうが、打つ手は乏しいと言わざるを得ない。バイデン氏という格好の標的を失った今、海外に新たなスケープゴートを求めることしか残された手段はないのではないかと筆者は考えている。
その証左は4日に発表された米国の新たな国家安全保障戦略(NSS)にある。その柱は南北アメリカ大陸における米国の排他的支配権の強化であり、1823年に出された米国の外交基準「モンロー宣言」(米国は欧州政治に干渉せず、欧州も米新大陸に干渉しない)のトランプ版修正案と位置づけられている。 歴史を振り返れば、米国は「裏庭」である中南米地域で、解放者と称しながら帝国的な支配を行ってきた経緯がある。 折しも、トランプ氏は麻薬密輸の撲滅を名目にベネズエラのマドゥロ政権への軍事的圧力を強めている。これに対し、キューバやコロンビアなど中南米の反米政権は猛反発しており、中南米を巡る地政学的緊張が急速に高まりつつある。 だが、中南米の反米政権を新たな標的にしても、トランプ氏の支持率が回復する保証はない。ロイター/イプソスが発表した世論調査によると、ベネズエラ近海で「米軍は麻薬密輸の疑いのある船舶を裁判所の許可なしに攻撃するべきか」という設問に対して「ノー」は48%、「イエス」は34%だった。 このように、トランプ氏が国内外で混乱の火種となる危険性が高まっている。悩める超大国の今後の動向について、引き続き最大の関心を持って注視すべきだ。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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