全身黒い布の女性 「まるで別の国」 現地で見たシリア政権崩壊1年
その街に近づくにつれ、幹線道路沿いに破壊された建物が目立ち始めた。
「解放まではこの道は危なくて通れなかった」。かつて「前線」だった場所を横目に見ながら、運転手がつぶやく。
2011年に始まったシリア内戦で、反体制派の「最後の拠点」となった北西部イドリブ。アサド政権を崩壊させた昨年の大規模攻勢もこの街から始まった。
Advertisement11月下旬に訪ねると、他の都市とは違う異質な光景が広がっていた。
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「2024・12・8 AM6:18」。街の入り口に大きな看板が設置されていた。アサド政権が崩壊したとされる日時とともに、こう書かれている。
「すべてのシリア人のためのシリア」
頭上にはイスラム教の信仰告白が書かれた白地の旗がはためいている。アサド政権を打倒した反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)の旗だ。
街を歩く女性の多くは「ブルカ」や「ニカブ」と呼ばれる黒い布で顔や全身を覆っている。
シリア国内にもかかわらず、住民が使う通貨はシリア・ポンドではなくトルコ・リラ。首都ダマスカスとかけ離れた光景に、取材に同行した運転手は「ここはシリアじゃない。別の国のようだ」と笑った。
イドリブは内戦中、激戦地の一つとなった。イスラム教スンニ派の過激派を含む複数の反体制派グループが入り乱れたが、15年にHTSの前身であるヌスラ戦線が制圧。トルコとの国境も支配し、反体制派最大の拠点となった。
女性の服装が変わり始めたのはこのころからだ。かつては顔を出していた女性たちが黒い布を身につけるようになった。
取材に応じた住民は「反体制派が来てから、顔を覆う女性が増えたのは間違いない」と口をそろえる。
政権崩壊に先立ち、HTSの統治が始まっていたイドリブ。この地を訪ねたのは、HTSの幹部が中枢を担う暫定政権が、どんな国を目指しているか分かるかもしれない、と考えたからだ。
HTSの支配下にあったイドリブで、いったい何があったのか――。【イドリブ(シリア北西部)で金子淳】