エイズパンデミック:エイズウイルスはどのようにして世界中に広がったのか?(後編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】(週プレNEWS)
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第152話 新型コロナやSARSとは違い、エイズは「物語」として語り継がれている。では、そのエイズを最初に発見したのは誰なのか? また日本人との意外な関係とは!? ※前編はこちらから * * * 【原因ウイルスの同定】 アメリカ大陸にたどり着いた後、エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス/HIV)は全世界に拡散された。 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によると、2023年までに約8500万人がHIVに感染し、4000万人がエイズで死亡したと推定されている。推定されるHIV感染症による総死者数は、新型コロナによるそれの5倍以上である。そして現在も、約3900万人がHIVに感染したままで生きている。 55話で詳しく紹介しているが、HIV感染症はいまだに「根治」することができない。つまり、一度HIVに感染してしまうと、一生HIVと一緒に生きていかなければならないことを意味する。感染しても基本的に「根治」するCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)やインフルエンザとの決定的な違いはここにある。 ――1981年の夏、サンフランシスコと同じく、アメリカ・カリフォルニア州にある大都市ロサンゼルスで、5人のゲイが同時に「カリニ肺炎」という非常にレアな病気を発症し、それが論文で発表された。感染症が疑われ、その原因探しが世界中で、特にアメリカとフランスで進められた。 そして1983年、フランス・パリにあるパスツール研究所のふたりの研究者、リュック・モンタニエとフランソワーズ・バレシヌシが、エイズの原因ウイルスを発見・同定した。 しかし同時に、アメリカ・メリーランド州にあるアメリカ国立がん研究所に在籍するロバート・ギャロも、それを発見したと報告した。 ――どちらが先なのか? どちらが本物なのか? これはフランスとアメリカの政府レベルでの論争となったが、最終的には、「ギャロが発見したと報告したウイルスは、フランスのグループから提供されたサンプルが混入(コンタミネーション)したものである」と結論づけられた。 これにより、フランスのモンタニエ、バレシヌシ両氏が、エイズの原因ウイルスの発見者として認定されており、このふたりには2008年にノーベル生理学・医学賞が授与されている。