米国防総省、中間選挙での敗北を見越して国防予算の大幅削減を検討中
トランプ政権と共和党は今月3日の中間選挙で敗北する可能性が高まっており、国防総省も歴史的な国防支出=1兆5,000億ドルの頓挫を受け入れ、当初要求から4,000億ドル=約62兆円も少ない1兆1,000億ドルの国防予算案を静かに作成し始め、米軍の戦力増強と防衛産業界に大波乱が起きるのはほぼ確実だ。
参考:Pentagon plans for death of Trump’s record military budget
米国は10月1日から2027会計年度(FY2027)が始まり、いつも通り「予算額を決める歳出法案」と「その予算を何にどう使うかを決める権限法案」が成立していないため継続決議(つなぎ予算)による政府運営が開始され、さらにFY2027に要求している国防支出1兆5,000億ドルは「裁量予算=1兆1,500億ドル」と「義務的支出=3,500億ドル」に分かれ、これとは別にトランプ政権は議会に相談なく始めたイラン戦争の戦費補填として876億ドルを要求しているが、これらの資金の大半は解放されていない。
出典:The White House
継続決議でFY2027の資金に手をつけられるのは基本的にFY2026の国防権限法案から継続している計画に限られ、義務的支出の3,500億ドルと戦費補填の876億ドルは継続決議に含まれていないため、中間選挙後に議会が再開して歳出法案と権限法案が成立しない限り「FY2027で予定していた新しい計画」への資金供給は出来ず、11月3日の中間選挙に向けてトランプ大統領の支持率も低迷し、さらに有権者の71%が政権の物価高騰による生活費への対応を支持しておらず下院は民主党の過半数奪還が有力で、上院歳出委員会のクリス・クーンズ上院議員は9月30日「もう3,500億ドルの義務的支出は実現しないだろう」と述べた。
“国防総省、すなわち軍首脳部や国防長官府は財政調整措置(義務的支出のこと)によって3,500億ドルを獲得できると主張し続けているがそうはならない。また彼らは補正予算で1,000億ドル以上を確保できるとも主張し続けている。だが戦争が続く限りその可能性は極めて低いと見ている。したがって国防総省が計画し要求し続けている予算額と実際に歳出として割り当てられる額との間には5,000億から7,000億ドル規模の乖離が生じる公算が大きい”
出典:U.S. Central Command
クーンズ上院議員が言及した「補正予算で1,000億ドル以上」とはイラン戦争の戦費補填のことを指しており、国防長官府はイラン戦争が今後も継続することを見越して876億ドルからの上積みを要求しているため「1,000億ドル以上」と表現した可能性が高く、仮にイラン戦争の戦費補填として1,000億ドルを要求していれば義務的支出と合わせて最低でも4,500億ドル=約70兆円の資金を失うことになり、特に義務的支出の3,500億ドルに依存している無人機分野、宇宙分野、ゴールデンドーム、F-35関連資金、弾薬調達の大部分は実現しなくなる。
無人機分野のCCA開発及び調達、各種無人機プラットフォームの大量調達、対無人機システム調達、自律型システム全体の産業基盤強化といった全資金=1,025億ドル、宇宙分野の空中移動目標指示装置(SB-AMTI)や宇宙データネットワーク基幹に投資する資金の大部分=約118億ドル、ゴールデンドームに投資する資金の大部分=約175億ドル、F-35調達資金の大部分=85機中53機分、F-35 Block4開発資金、エンジンアップグレード資金、F-35のスペアパーツ購入、整備・修理支援、整備員の訓練、大規模修理工場の整備、即応性の向上に投資する資金を失い、さらに弾薬増産への影響は致命的だ。
出典:Lockheed Martin
FY2027で要求したPAC-3 MSE×3,203発の内2,936発分、THAAD×857発の内830発分、トマホーク TLAM/MST×785発の内727発分、AMRAAM×1,811発の内1,006発分、JATM調達資金のほぼ全額、JASSM-ER×821発の内330発分、SM-3 Block IIA×136発の内78発分、PrSM×1,134発の内454発分の資金を失う。
まだ中間選挙の投票は始まっていないが、もう民主党による下院の過半数奪還はほぼ確実視され、上院でも過半数奪還の可能性が高まっており、市場予測でも「民主党による両院制覇」が最も確率(約70%)の高いシナリオと予想され、ついに国防総省もトランプ政権が要求した歴史的な国防支出の頓挫を受け入れ、1兆5,000億ドルではなく1兆1,000億ドルの国防予算案を作成しているらしい。
出典:pixabay
Politicoの取材に応じた関係者らは「もう誰も1兆5,000億ドルに近い額を期待していない」「国防総省と議会の歳出委員会は間違いなく1兆5,000億ドル以下の額を想定して計画を立てている」「両者は政権当局者が公に言及している内容とは矛盾する1兆1,000億ドルで国防予算案を作成しており、これは中間選挙後に共和党が直面する政治的な逆風を明確に示している」と述べており、これは義務的支出による3,500億ドルの確保を断念しただけでなく、裁量予算で要求した1兆1,500億ドルからの減額も意味する。
もし1兆5,000億ドルから1兆1,000億ドルに要求額が減額されれば4,000億ドル=約62兆円もの資金を失い、義務的支出に依存していた計画を裁量予算に組み込み直さなければならず、エミル・マイケル国防次官は2026年6月に行われたハドソン研究所のイベントで「もし議会が義務的支出=3,500億ドルを可決しない場合、裁量予算=1兆1,500億ドルに含まれる高額な従来型兵器を削減してでも無人機分野の資金を守るだろう」と警告したため、国防総省は大胆なトレードオフを強いられる可能性が高い。
出典:DoW photo by U.S. Navy Petty Officer 2nd Class Carson Croom
そもそも共和党内部でも対イラン・対ロシア対応、巨額の国防費増額、不遜なヘグセス国防長官に不満をもつ議員が一定数存在し「こんな予算案の投票を強行するなら投票を棄権する」と脅しており、特に上院は「無限の討論=フィリバスター」が認められているため、過半数を占める共和党(53議席)でも民主党によるフィリバスターが続く限り「単純過半数による法案の最終採決」に持ち込めず、これを阻止する「討論打ち切り手続き=クローチャー」の発動に必要な60票にも7票足りないため、仮に中間選挙で敗北して新しい会期が始まるまでのレイムダック会期でも何かを動かせる力=支持は共和党に残っていない。
つまり共和党が中間選挙で勝利する以外に歴史的な国防支出を守る手段はなく、トランプ政権は現金のバラマキや各産業団体に対する支援の約束を連発しているものの効果は全く見えず、もう2027会計年度がスタートしている中で当該年度の国防予算案を大幅減額して再編成という地獄絵図は避けられないだろう。
出典:Department of War Fiscal Year (FY) 2027 Budget Estimates Navy
ちなみに現在の危機は最近浮上したものではなく、トランプ政権が義務的支出に大きく依存した1兆5,000億ドルを要求していた時点である程度分かっていたことで、韓国の忠南級フリゲート、日本の新型FFM(もがみ型改)、トルコのイスタンブール級フリゲートなどが検討候補に挙げられた同盟国設計と造船能力を米国に持ち込むための資金=18.5億ドルも義務的支出の3,500億ドルに含まれているため、共和党が中間選挙で負けて4,000億ドルもの資金を失えば真っ先に切り捨てられる可能性が高い。
関連記事:米軍の2027年予算が危機的状況、最低でも約70兆円の資金を失う可能性 関連記事:民主党、中間選挙で勝利すればヘグセス国防長官を徹底的に追及 関連記事:ヘグセス国防長官との対立で米軍は内部崩壊、今度は国防副長官の後任探し 関連記事:米陸軍長官が辞任、ヘグセス国防長官は自ら命じた陸軍改革を台無しにする 関連記事:トランプ大統領が深刻な弾薬不足について説明を要求、高まる国防長官への不満 関連記事:米軍は対イラン作戦の戦費負担で資金が枯渇、即応性維持への影響が現実化 関連記事:米国の2027年度国防予算、中間選挙の結果次第で地獄絵図になる可能性 関連記事:対イラン作戦の戦費負担、米海軍の活動資金は夏までに枯渇する見込み
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo courtesy of UFC