米軍が「宇宙兵器」の配備を初公表、核の均衡を揺るがす恐れも
「米国は統合部隊を敵対勢力の行動から防衛できる軌道上宇宙統制兵器を保有している」。つまり、米国は地球を周回する軌道上に兵器あるいは兵器システムを配備している──。2026年9月14日、米国メリーランド州で開催された「2026年航空宇宙サイバー会議」で、第27代米空軍長官のトロイ・メインク氏は、軍がどのように国土防衛を強化しているのかを話す演説で、宇宙における人類の未来を左右し得るこの情報をさりげなく明かした。
このような措置を講じたと米国が公に表明したのは今回が初めてだ。とはいえ、米国、中国、ロシアが数十年にわたって宇宙兵器の開発を進めてきたことは広く認められている。「米国が宇宙兵器を配備したこと自体は、驚くことではありません」と英キングス・カレッジ・ロンドンでロシアの防衛、安全保障を研究するロッド・ソーントン氏は述べている。
誰も予想していなかったのは、米軍がそれを突然公表したことだ。「軌道上に兵器を保有していることを明言するとは、全くの予想外でした」と米国の非営利団体「セキュア・ワールド財団」で宇宙安全保障安定担当チーフディレクターを務めるビクトリア・サムソン氏は語る。
メインク氏は詳細をほとんど明かさなかったが、歴史を振り返れば、この兵器がどのようなもので、どのように機能する可能性があるかを理解する手がかりが得られる。
人類の宇宙兵器への関心は、冷戦時代の好奇心や威嚇行為にまでさかのぼる。
1962年、米国は何が起こるかを確認するため、太平洋の400キロ上空で核爆弾を爆発させた。「スターフィッシュ・プライム」として知られるこの実験により、地球の軌道上に大量の放射線が放出され、米国ハワイ州の広い範囲でオーロラが見えたり、街灯が消えたりした。また、爆発は意図せずして、軌道上に24基あった衛星の少なくとも3分の1を損傷させたり、機能を失わせたりした。
こうした核実験の影響への懸念が高まるなか、いくつかの国際的な基本ルールが整備された。1963年の部分的核実験禁止条約では、大気圏内、宇宙空間、水中における核実験が、1967年の宇宙条約第4条では、核兵器などの大量破壊兵器の宇宙空間への配備が禁止された。
私たちの知る限り、現在、地球の軌道上に核兵器は存在しない。だが、2024年初め、懸念すべき新たな事態が浮上した。米国政府がヨーロッパの同盟国に対し、ロシアが軌道上への核兵器の配置を検討していると伝えた。実現すれば、冷戦時代の宇宙条約に違反する。
その直後、ロシアの人工衛星「コスモス2553」が、この計画に役立つ可能性のある技術を試しているのではないかと指摘された。このような兵器の標的は、おそらく地球にはない。現代の宇宙戦争で主な標的となる人工衛星だ。
人工衛星の打ち上げや宇宙ごみを追跡している天体物理学者ジョナサン・マクダウェル氏がまとめたデータベースによれば、現在、約1万7000基の衛星が地球の周りで稼働している。
その大半はインターネットを提供している。気象や気候を監視するものもあれば、軍事目的で利用されているものもあり、部隊の移動を指揮したり、秘密通信を行ったり、ミサイルを誘導したり、地政学的なライバルを監視することなどに役立てられている。
米国、中国、ロシア、インドは、主に軌道上の敵の資産に対してどのような攻撃が可能かを実証するため、ミサイルで自国の衛星を意図的に破壊したことがある。また、米国は極めて高度な攻撃型電子戦システムを保有している。
例えば、新たに運用が開始された「メドウランズ」技術は、移動式の地上局を用いて衛星に電波を照射し、通信を妨害する。
では今回、米軍が配備を明らかにしたのは、一体どのような兵器なのだろう?
米宇宙軍の広報担当者は、配備された兵器に関する詳細を明らかにしなかった。「宇宙統制」という言葉は、資産を「攻撃的および防御的な目的」に使用することを意味し得ると述べるにとどめた。
米国の兵器をめぐる謎はあるものの、それが地上の何かを攻撃できると示唆するものは何もない。「宇宙統制兵器」という言葉は、それが何であれ、宇宙環境そのものに影響を与えるよう設計されていることを強く示唆している。
この兵器は、ほかの衛星を物理的に機能停止させたり、損傷を与えたり、破壊したりするように設計されている可能性がある。このような「運動エネルギー兵器」としては、敵の衛星などを追跡し、体当たりするように設計された小型衛星、軌道上の別の標的に向けて弾丸を発射できる衛星などが考えられる。
「運動エネルギー兵器は、制御不能で危険な破片を発生させるため、極めて厄介です」とカナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学教授で、宇宙研究の専門家ネットワークの共同所長を務めるアーロン・ボリー氏は述べている。
その破片は、ほとんどの衛星が位置する高度2000キロ以下の空間で、すでに深刻な問題となっている宇宙ごみをさらに増大させることになる。この「ごみ」には、使用済みロケットブースター、機能停止した宇宙機、過去の衝突や衛星破壊ミサイル実験による破片が含まれる。
「2021年11月にロシアが破壊的な直接上昇型対衛星ミサイル試験を行った際、追跡可能な破片が1800個以上も発生しました」とサムソン氏は言う。標的を物理的に損傷させる軌道上の対衛星兵器も、同様の影響をもたらす可能性がある。
宇宙ごみの大きさは、大岩ほどのものから、米粒よりも小さく、事実上見えないものまでさまざまだ。これらの破片は、地球の周りをライフル弾の何倍もの速さで移動し続ける。低軌道では、大気圏に再突入するまで数カ月、数年、さらには数世紀かかることもある。
これまで危機一髪の事態が何度か起きている。多くの衛星、さらには国際宇宙ステーション(ISS)でさえ、制御不能な衛星の破片との衝突を避けるため、スラスターを噴射せざるを得なかった。
今のところ大惨事は免れている。しかし、もし宇宙に運動エネルギー兵器が存在し、それらが軌道上の衛星などを攻撃し始めた場合、連鎖反応を引き起こす恐れがある。その結果、宇宙ごみの雲が拡大し、多くの衛星がランダムに破壊されることになるだろう。
「衛星を物理的に破壊するのは得策とは言えません」とソーントン氏は述べている。その点を踏まえると、「米国の兵器は運動エネルギー型の破壊兵器ではないと思います」
では、ほかに何があり得るだろう? 専門家の多くは、衛星通信を遮断したり妨害したりする装置ではないかと考えている。米国には宇宙ごみの発生を避けるという方針があることから、「破壊的なものではないと推測されます」とサムソン氏は言う。「おそらく宇宙ベースの妨害器でしょう」
マクダウェル氏はその位置まで推測している。最も有力なのは、地球の赤道上空約3万6000キロ地点にある静止軌道(GEO)だ。
「私の推測では、宇宙軍がここ数年GEOドリフト軌道に展開してきた小型衛星の群れではないでしょうか」。静止軌道にある衛星の多くは、軍事や国家安全保障の用途を持つものだ。この高度では最近、ロシアと中国の存在感が増している。
軌道上の妨害システムは、ほかの衛星を壊滅できる兵器ほど好戦的に感じられないかもしれない。しかし、それでもなお、「冷戦終結以来、核による平和を維持してきた勢力均衡を根本から損なう」可能性があるとソーントン氏は述べている。
仮に、妨害器が標的としている衛星が、大量破壊兵器を搭載したものを含む中国やロシアのミサイルの誘導を担っているとしよう。「もし米国がこれらの誘導衛星の一部またはすべてを妨害できれば、中国もロシアも自国の核兵器を正確に誘導できる保証がなくなります」とソーントン氏は説明する。
これらはすべて推測や合理的な推論にすぎない。新たな驚きの発表がない限り、米国の軌道上兵器システムの正体や能力は当面、不明なままだろう。現段階で一つだけ確かなのは、宇宙は今や、紛れもなく戦闘の領域になっているということだ。
そもそも米国がなぜ宇宙兵器の存在を明らかにしたかもわからない。「今回の発表は、抑止のためのメッセージと見なすことができます」とソーントン氏は言う。つまり、「私たちに手を出せば、そちらの衛星はただでは済まない」ということだ。
「これが、宇宙への兵器配備を当たり前のことにしてしまうのではないかと懸念しています」とサムソン氏は言う。報告書によれば、中国とロシアにためらう様子はない。しかし、「米国が自国を守るため宇宙に兵器を配備する必要があるのなら、自分たちもそうすべきだと米国の同盟国やパートナー国が判断する可能性は十分にあります」
文=Robin George Andrews/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年10月8日公開)