「阿部巨人」はなぜここまで弱かったのか? 優勝候補筆頭にあった″致命的弱点″
勝てる戦力を揃えたはずだった。 阿部慎之助監督(46)就任1年目の昨シーズン、巨人は4年ぶりのセ・リーグ優勝を果たすも、DeNAの逆襲を許し、まさかのクライマックスシリーズ敗退という結末を迎えた。 【写真】岡本、甲斐、山﨑、岸田…大敗を喫した「阿部巨人」キーマンたちの素顔写真 雪辱に燃えた阿部監督は中日から抑えのライデル・マルティネス(28)を4年総額50億円、ソフトバンクから甲斐拓也(32)を5年総額15億円(いずれも推定)で獲得するなど、球団史上最高額となる70億円規模の大補強を敢行し、救援陣の強化、そして念願だった正捕手の固定を目論(もくろ)んだ。 チームに貯金12をもたらしていたエース・菅野智之(35)のメジャー挑戦は痛手だったが、戸郷翔征(25)、山﨑伊織(26)、井上温大(はると)(24)ら若手投手の目覚ましい成長が、ファンに希望を抱かせた。 ところが――。フタを開けてみれば、藤川球児監督(45)率いる阪神に約15ゲーム差をつけられ、巨人はリーグ3位に甘んじた(数字は9月29日時点)。 巨人で一軍打撃コーチや守備走塁コーチなどを歴任した篠塚和典氏が話す。 「今季の低迷の理由を、4番を担う岡本和真(29)の長期離脱に見出す意見が散見されますが、仮に彼がシーズン全試合に出場していたとしても、阪神には勝てなかっただろうと考えざるを得ません」 たしかに、約3ヵ月間にわたって主砲を欠いた巨人のチーム打率は.249でリーグトップ、本塁打数は96でDeNAに次ぐリーグ2位。数値上では、佐藤輝明(26)、森下翔太(25)、近本光司(30)らスター野手を多数抱える阪神打線を上回っている。 しかし、チーム得点数に目を向けると、巨人は454、阪神は490と、大きく逆転を許しているのだ。この差はいったい何なのか。キーワードは、″役割意識″と″凡事徹底″。巨人OBで、阿部監督の母校でもある中央大学野球部監督も務めた高橋善正氏が話す。 「今季、阪神が136個のバントを成功させているのに対し、巨人の犠打数は85。慎之助はバントばかりしていると叩かれがちですが、藤川監督のほうが圧倒的にバントを指示している。それでも巨人にバントのイメージが強いのは、失敗が多いからでしょう。 昨年まで一軍コーチを務めていたバントの神様・川相昌弘二軍野手総合コーチ(61)の教えも受けていたでしょうから、選手たちのバント技術が劣っているとは思えない。だとすれば、失敗の原因はメンタル面。自身の役割を理解できていない選手が多いからなのでしょう。慎之助はスタメンや打順をコロコロ変える。これでは役割がハッキリせず、試合前の練習や心の準備ができません。これが巨人の大きな弱点です」 ◆″凡事徹底″を妨げる複雑な起用法 FRIDAYの調べでは、今季の巨人の打順は約100通り。一方の阪神は約60通りだ。 「阪神は1〜5番が固定されており、近本か中野拓夢(29)が出塁し、森下、佐藤、大山悠輔(30)の誰かがランナーを返すという仕事が決まっている。他の選手は、彼らが塁にいるケースではチームバッティングに徹することができます。 ところが巨人の場合は、前日に2番だった選手が翌日には6番に座っていたりする。ましてや、慎之助は一軍で結果が出ないとすぐに交代させたりファーム行きを命じる。バント失敗で懲罰交代を命じられた泉口友汰(ゆうた)(26)のように発奮する選手もいるでしょうが、多くは萎縮して満足なプレーができなくなります」(同前) この複雑な起用法が、2つ目のキーワードである″凡事徹底″を妨げる。阿部監督が目指すのは、守備からリズムを作り、場面に応じてバントなどの小技を使って1点をもぎ取る野球。これを成功させるには、チーム全体でその意識を共有する必要があるのだが……。 「『得点圏にランナーがいる場面ではなるべく三振を避ける』といった当たり前のことができていない。東京ドームは狭い球場なので、巨人の野手は引っ張りの意識が強い一発頼みの打撃をしてしまいがちです。 今季は多くの選手が、チャンスの打席で追い込まれた際に外へ逃げる変化球やボール球をことごとく空振りしていました。だから安打数のわりに得点が増えない。これは慎之助の理想とする野球からかけ離れています。スタメンや打順がバラバラだと、自分の成績ばかりを意識し、チームバッティングにまで気が回らなくなるんですよ」(前出・篠塚氏) 事実、阪神の四死球が479個だったのに対し、巨人は約40個少ない440個。出塁への意識の差は歴然だ。 そして、巨人が最も固定に苦しんだのは扇の要。開幕当初は巨人で長らく正捕手を務めた阿部監督が獲得を熱望した甲斐がスタメンマスクを被っていた。 「シーズン序盤こそ打ちまくりましたが、結局68試合に出場して.260、4本止まり。自慢の″甲斐キャノン″も年々衰えていて、盗塁阻止率も低い。甲斐に代わって87試合に出場した岸田行倫(28)は盗塁阻止率が4割を超え、打率も3割近く長打も狙える。 たしかにリードは甲斐のほうが上かもしれませんが、ウチなら30歳を超えた2番手捕手に15億円も払いません。配球やリードは試合に出てこそ上達するもの。結果論かもしれませんが、岸田をスタメンに据えつつ、山瀬慎之助(24)など若手有望株を併用して鍛えれば、阪神のように勝ちながら育成ができたかもしれない。 これは背広組の責任でもありますよ。阿部さんが甲斐獲得を望んだとき、フロントは甲斐の衰えや盗塁阻止率の低さに難色を示しつつも止めなかったと聞いていますから」(セ・リーグ球団フロント) ただ、篠塚氏は阿部監督に同情的だ。 「巨人は常に強くあらねばならないというファンの期待が大きいチーム。それゆえ経験の浅い監督は、育成より目先の勝利を優先してしまうんですよ。だからこそ、慎之助の就任前には『最初の3年は結果が出なくても我慢して土台作りをしろよ』って直接伝えたんですが……」 『FRIDAY』2025年10月17日号より
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