「認知症の約45%はこれで予防できる」最新の大規模研究で判明した認知症予防に効く日常習慣と最強食材(プレジデントオンライン)

10:16 配信

「将来認知症になったら、どうしよう」と不安を抱く若い世代は多い。医師の谷本哲也さんは「最新の研究では『認知症の約45%は、生活習慣の改善で予防可能』とされ、7月に発表された、2000人以上の60〜79歳を2年間調査した大規模研究がそれを裏付けた発表した」という。その具体的な習慣の改善ポイントとは――。■「認知症の約45%は、生活習慣の改善で予防可能」 65歳以上が総人口の約3割を占めている日本。2025年には65歳以上のうち約5人に1人が認知症になると推計され、認知症高齢者数は約471万人に上る見込みです。該当世代だけでなく、現役で働く人の中にも、「将来認知症になったら」と不安に思う人は多いです。 そんな中、認知症予防について大きな希望が持てるような最新の研究結果が報告されました。「認知症の約45%は、生活習慣の改善によって予防可能」であることが分かったのです。 7月に発表されたアメリカの大規模研究「US POINTER」試験(以下、最新大規模研究)。この研究では、60〜79歳の健康な成人2000人以上を対象に、認知症予防のための生活習慣介入プログラムの効果が2年間にわたって調査されました。その結果は、私たち日本人にとっても非常に参考になると考えられますのでご紹介しましょう。■認知症は本当に予防できるのか? 長い間、認知症は老化現象として自然に生じるもので、仕方ないものだと考えられてきました。しかし、近年の研究によって、この常識は覆されてきています。 認知症の原因は主に2つに分けられます。 一つは脳内に異常なタンパク質が蓄積することで起こる神経変性疾患で、アルツハイマー病がその代表例です。もう一つは脳血管の動脈硬化により血流が障害されるもので、多くの場合、これらが複雑に組み合わさって認知症を発症します。 しかし、最近の研究成果によって、改善することが可能な認知症に関係する14の危険因子が同定されました。その因子とは……。----------・教育不足・頭部の外傷・難聴・うつ病・高血圧・糖尿病・肥満・運動不足・喫煙・過度の飲酒・高コレステロール・社会的孤立・大気汚染への曝露・視力低下---------- です。これらに対処することで、認知症の約45%が予防可能であることが明らかになったと報告されています。

 実際に、複数の先進国で、教育水準の向上と高血圧などの心血管疾患の管理を改善することで、認知症発症率が近年減少傾向にあります。

■アメリカの大規模研究による新知見 今回発表されたアメリカの最新大規模研究では、認知機能は正常であるものの、認知症発症のリスクが高いとされる60〜79歳の成人2000人以上が対象。参加者は、運動不足で食事内容が不十分という共通点があり、さらに高齢、家族歴、心血管リスクが高い、男性、などの危険因子を複数持っていました。 研究者たちは参加者を2つのグループにランダムに分けました。 一つは「構造化プログラム群」で、これは非常に集中的な介入を受けるグループでした。2年間の研究期間中に、38回の専門指導セッション、26回の食事指導電話相談、7回の健康コーチングセッション、4回のクリニック受診に加えて、週4回の高強度有酸素運動、週2回の筋力トレーニング、週2回のストレッチ・バランス運動、MIND食事法(健康によい地中海食をさらに調整したもの)の実践、そして週3回以上の認知トレーニングという、まさに生活のすべてを変えるような徹底したプログラムでした。 もう一つは「自己管理プログラム群」で、こちらは6回の介入指導、仲間との定期ミーティング、クリニック受診、健康・運動・食事に関する教育を受けるという、比較的軽度な介入でした。一般的な医療水準で考えれば、この軽度な介入でさえ、まずまず充実した内容だったと言えるでしょう。 2年間の生活改善プログラムの結果、どちらのグループも記憶力や思考力などの認知機能がはっきりと向上しました。特に、前者の専門家のサポートを受けながら取り組んだ構造化プログラム群では、認知機能が1年あたり約24%向上し、後者の「自己管理プログラム群」でも約21%向上していました。 両者の差は年間3%程度。統計的には意味のある違いとされていますが、臨床的には大きいとは言えません。むしろ、「どちらの方法でも、認知機能の改善が期待できた」という点が重要です。 しかも、年齢や性別、遺伝的なリスクの有無、高血圧や糖尿病といった体の状態に関係なく、どんな人にも一貫して効果が見られました。

 さらに詳しく見てみると、「実行機能(計画的に考えて行動する力)」の改善が特に目立ちました。この力は、脳の前の部分(前頭葉)と関係しており、年齢とともに低下しやすいとされています。両グループともこの力は最初に伸び、一度横ばいになったあと、2年目にまた改善していました。時間をかけて効果がじわじわ出てくる様子がうかがえます。

■日本人の生活に研究成果を落とし込むと… 今回の研究の最も重要な発見の一つは、軽度の介入でも十分な効果が得られるということです。前者の構造化プログラムは確かに効果的でしたが、後者の自己管理プログラムでもほぼ同じレベルの認知機能改善が見られました。これは私たちにとって非常に希望となるメッセージです。 運動習慣について考えてみましょう。研究で効果が証明された集中的な運動プログラムは、確かに念入りなものでしたが、日本人の生活習慣に合わせて工夫すれば十分実践可能です。 例えば、日本人に馴染み深い朝のラジオ体操は、実はバランス・柔軟性運動として優秀な運動です。また、通勤時に一駅歩く、エレベーターではなく階段を使う、休日には家族でハイキングに出かけるといった習慣は、立派な有酸素運動になります。週末の庭仕事や家事も、意外と良い筋力トレーニングになるものです。 特に、最近海外でも日本式ウオーキングとして注目されている日本発のインターバル速歩法も有望です。信州大学の研究者らが提唱しているもので、3分間の速歩と3分間のゆっくり歩きを交互に繰り返し、計30分を週3回以上行うやり方です。 同じく立教大学から提唱された、20秒間全力で走って、10秒休むなど、高強度の運動と短い休憩を交互に行う効率的なトレーニング法の高強度インターバルトレーニング(HIIT)も世界的な医学論文で取り上げられ、広く勧められている運動法です。 食事については、MIND食事法という地中海食とDASH食(高血圧を防ぐために考案された、減塩かつ野菜中心の健康食)を組み合わせた食事法が推奨されました。これを日本でも身近な食材で考えてみると……。----------緑黄色野菜:ほうれん草や小松菜、ニンジンなどを積極的に摂るナッツ類:くるみやアーモンドなどを間食に取り入れるベリー類:イチゴなどを加える豆類:大豆製品や小豆などを活用する全粒穀物:玄米などを取り入れる調理:オリーブオイルなどを使用する魚類:サバやサンマ、サケなどを定期的に食べる---------- といった工夫が可能です。これらは、日本の食卓でも無理なく実践できる方法でしょう。 また、野菜や果物、低脂肪の乳製品、全粒穀物などの体に良い食品を積極的にとるだけでなく、控えるべき食品も明確に示されています。具体的には……。----------【控えるべき食品】・赤身肉(特に脂肪分の多いもの)・ベーコン・ソーセージなどの加工肉・揚げ物・スナック菓子・ケーキ・清涼飲料水などの砂糖を多く含む甘い飲み物---------- といった、いわゆる超加工食品の摂取は控えめにするよう推奨されています。 これらの食品は、塩分、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、砂糖などが多く含まれており、血圧を上げたり、心血管疾患や肥満、糖尿病のリスクを高めたりする原因となるためです。 とはいえ、「完璧」を目指す必要はありません。週に数回でも意識して取り入れることから始めれば良いのです。認知トレーニングについても、必ずしも研究で使用されたようなコンピューターを使う必要はありません。読書は有益な認知トレーニングですし、パズルやクロスワード、将棋や囲碁、麻雀といった日本人に馴染み深いゲームも効果的です。 俳句や短歌、楽器演奏やスマートフォンやパソコンの使い方を学ぶ、茶道や華道、書道といった伝統的な習い事、絵や写真、編み物など手先を使う新しい趣味や技能の習得、外国語学習なども脳を活性化させる素晴らしい活動です。 社会参加の維持も認知症予防には欠かせません。一日中、誰とも話をしないような社会的孤立は認知症の危険因子の一つです。地域のサークル活動への参加、ボランティア活動、同窓会や同好会、家族・友人との定期的な交流、地域の祭りや行事への参加など、日本には豊富な社会参加の機会があります。 研究結果から、認知症予防効果の多くは脳血管の健康維持によるものと考えられています。実行機能の改善が主に見られたことは、この仮説を支持しています。実行機能は脳血管疾患の影響を受けやすい機能だからです。

 これは日本人にとって特に重要な意味を持ちます。血圧の管理、血糖値のコントロール、コレステロール値の改善、禁煙、飲酒を控える、定期的な健康診断といった、すでに生活習慣病予防として推奨されている取り組みが、そのまま認知症予防にもつながるということです。日本の医療制度には特定健診・特定保健指導制度があり、これらを積極的に活用することも、効果的な認知症予防の一つとなるでしょう。

■無理しすぎず段階的な取り組みを 今回の研究が教えてくれる最も重要なことは、完璧である必要はないということです。研究参加者の多くは、最初から完璧にプログラムを実行できたわけではありません。それでも確実な効果が得られました。最初のステップとして、毎日30分の散歩を始める、野菜を意識的に多く摂る、禁煙・節酒に取り組む、十分な睡眠を確保するといった基本的な生活習慣の見直しから始めれば良いのです。 慣れてきたら、運動の種類と頻度を増やし、新しい趣味や学習を始め、社会活動への参加を増やし、定期的な健康チェックを受けるといった、より活動的な生活への移行を図るとよいでしょう。さらに余裕があれば、専門家の指導を受けた運動プログラム、栄養士による食事指導、認知トレーニングプログラムの活用、ストレス管理法の習得といった、より綿密な方法を試してもよいと考えられます。 個人の努力だけではなく、地域ぐるみの取り組みも重要です。地域包括支援センターでの相談、介護予防教室への参加、自治体の健康づくり事業、かかりつけ医での定期的な相談など、これらの制度を積極的に活用することで、個人の努力を社会全体でサポートすることができます。■今日から始める認知症予防 今回のアメリカ発の研究は、認知症予防のための生活習慣介入が、高額な認知症薬を使うなどのお金をかけた方法でなくとも、確実に効果を持つことを科学的に証明しました。 特に重要なのは、比較的軽度な介入でも十分な効果が得られるということです。研究はまだまだ改善の余地がありますが、「生活習慣の改善により認知機能を向上させることができる」という事実は非常に有益です。今後、より長期的な追跡調査や、日本も含めた異なる文化背景での検証が行われることで、さらに確実な証拠が積み重なっていくことでしょう。 運動を始めること、食事を改善すること、新しいことを学ぶこと、人とのつながりを大切にすること。これらの当たり前のようなことが、実は最も確実な認知症予防法なのです。 年を重ねることは避けられませんが、健康的に、生き生きと年を重ねることは十分に可能です。完璧を求める必要はありません。今日という日から、できることを一つずつ始めていけば良いのです。その小さな一歩の積み重ねが、将来のあなたの認知機能を守り、今日から始めた小さな変化が、未来の私たちと日本社会を支えてくれるはずです。----------谷本 哲也(たにもと・てつや)内科医鳥取県米子市出身。1997年九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会理事長・ナビタスクリニック川崎院長。日本内科学会認定内科専門医・日本血液学会認定血液専門医・指導医。2012年より医学論文などの勉強会を開催中、その成果を医学専門誌『ランセット』『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』等で発表している。

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最終更新:8/7(木) 13:01

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