英国は明日にも国防投資計画を発表、83型駆逐艦と32型フリゲート艦は中止
The Timesは27日「スターマー首相は最大8隻の83型駆逐艦と5隻の32型フリゲート艦向け予算が含まれない国防投資計画を早ければ30日に発表すると見られる」「計画全体の資金供給は最大150億ポンドに達する見込みだが、軍近代化に必要とされる推定280億ポンドは遠く及ばない」と報じた。
参考:Drones in, destroyers out of Keir Starmer’s defence investment plan 参考:Britain left without single attack submarines at sea, again 参考:Navy to build drone-equipped warships instead of replacing ageing destroyers
Financial Timesは26日「スターマー首相は最低180億ポンド(満額は280億ポンド)の国防費増額要求に対して135億ポンドしか提示せず、これに抗議するためヒーリー国防相が辞任し、国防省は前回提示額を上回る最大25億ポンドの追加資金=160億ポンドを確保できると期待していたが、追加資金の現実的なラインは10億ポンド~15億ポンドになる」「つなぎ契約が期限切れとなる火曜日にGCAP開発作業の契約が締結される予定だ」「財務省は18ヶ月間の契約締結に必要な資金拠出に合意し、2032年までの4年間分の資金も確保したという」と報じた。
出典:Edgewing
これが事実ならつなぎ契約が期限切れを迎える6月30日にGCAP開発作業の暫定的な複数年契約が締結され「GCAP開発作業が宙ぶらりんになる」という最悪の事態を回避できるが、1年半という期間は本格的な開発フェーズ全体をカバーする「完全な複数年契約」ではなく「18ヶ月のつなぎ契約+将来の予算枠の確保」と解釈するのが妥当で、Financial Timesは国防投資計画の資金配分について「核抑止、GCAP、AUKUS級原潜だけで調達資金の50%以上を占めているため、必然的に他のプロジェクトへの資金供給に影響を与えるだろう」と指摘していたが、スターマー首相は国防投資計画を30日に発表する可能性があるらしい。
The Timesは27日「スターマー首相は英軍の未来を形作ることで自身の政治的遺産を確固たるものにしようとしており、最大8隻の83型駆逐艦と5隻の32型フリゲート艦向け予算が含まれない国防投資計画を早ければ30日に発表すると見られる」「近い将来、何らかの新型有人艦艇が就役すると見られているものの、ロシアを含む敵対国家からの脅威の高まりに直面する中、軍の近代化に向けた方針転換においては自律型無人システムが優先されることになる」「後任のジャービス国防相は最大15億ポンドの追加予算を確保し、計画全体の資金供給は最大150億ポンドに達する見込みだが、軍近代化に必要とされる推定280億ポンドは遠く及ばない」と報じた。
出典:Defence Nuclear Enterprise
“スターマー首相の後任になる可能性が高いアンディ・バーナム(次期労働党党首候補)は自身のチームが国防省との協議に参加した後、この計画を承認したと見られている。増大する海中脅威の対処において老朽化した有人艦隊よりも自律型のドローンや無人潜水艦の方がより適していると考えている。45型駆逐艦は2030年代後半に退役する予定で、これを83型駆逐艦に置き換える予定だった。これらはスコットランドのBAEシステムズで建造され、初期構想ではレーザーを使用してドローンを撃墜する指向性エネルギー兵器の搭載が示唆されていた”
“2020年に初めて発表された32型フリゲート艦は自律型の機雷掃海および対潜水艦ドローンの母艦として機能する予定だったが、構想段階から進展することはなく後継艦が利用可能になる前に旧式艦が退役していくというフリゲート・ギャップに直面している。このギャップに対処するため国防省は無人システム・タスクフォース創設を計画している。来月トルコで開催される重要なNATO首脳会議に向けて、いくつか注目を集めるコミットメントの発表も計画されている”
出典:Edgewing
“国防関係筋は次世代戦闘機のテンペスト開発計画(GCAPのこと)を推進する意向を認めた。また戦術核兵器の搭載が可能な12機のF-35A購入へのコミットメントも予定されている。特殊部隊にもドローンや高速艇への資金を含む5億ポンドの拠出が約束される見込みだ。同時に国防省は予算配分の不足分を補うため経費削減策を講じざるを得ない状況にある。2030年までに4万人の士官候補生を新たに採用するための資金=7000万ポンドも削減され、軍事施設の改修も次期総選挙後まで延期する予定だ”
自律型無人システムはで有人システムの能力を拡張したり補完する存在であり、決して「有人システムにとって代わる魔法の杖」ではないにも関わらず、英国は将来の有人艦艇に自律型無人艦艇を統合するのではなく「83型駆逐艦と32型フリゲート艦の調達を中止してギャップを自律型無人艦艇でカバーする」という決断を下したのは「それが可能だから」ではなく「資金不足で選択がないから」であり、英国のAirforce Technology(航空宇宙・防衛産業に特化したB2B向けメディア)が以前から指摘してきた問題が現実のものになる。
出典:BAE Systems AUKUS
“国防投資計画がいつ発表されるにせよ、財務省が全ての調達計画を現在のペースで維持する資金を提供できないことは明らかだ。これを踏まえると追加の資金調達は核抑止力の確保、GCAPの保護、弾薬やドローンへの支出増加を目的したものになり、従来の計画は延期、数量削減、引き延ばされた引き渡しスケジュールによってカバーされることになる。これは歴代の政権が国防費不足に直面したときの基本的な対処方法だ。予測される280億ポンドという不足額は巨額であるものの、主要な戦略的プログラムのキャンセルを余儀なくされるまでには至らない可能性が高い”
“そして英国は二層構造の部隊編成を採用することになる。各ドメインに少数のハイエンドな有人プラットフォームや能力を配備し、それを未検証で未成熟な無人システムで補完する形だ。人員数は縮小し続け、訓練されたオペレーターの不足によるプラットフォームの削減と自律性の利用増加という「破滅のループ」に軍は追い込まれることになるだろう”
出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Jennifer Nesbitt
今後10年間の資金供給は核抑止、GCAP、AUKUS級原潜、象徴的な少数のハイエンドプラットフォームに偏ることがほぼ確定的で、現在の組織規模を維持もしくは拡張するための投資、運用中の戦力を維持していくための投資、ロジスティクスへの投資はジャムをトーストに薄く伸ばすような対応になるため、現在でも致命的なほど酷い英軍の即応性は改善しないだろう。
スターマー首相は国防投資計画の本質的な問題を覆い隠すため「自律型無人システムの積極的な採用」「自律型無人システムによる作戦効率の向上」を前面に押し出したインフォメーション・キャンペーンを展開してくると思うが、本質的には現在必要とされている有事の際の作戦能力や即応性の向上から目を背け、ウクライナ侵攻以前の表面的な抑止力に終始したものになり、この問題は2029年7月までに実施される総選挙後まで見なかったことにするしかない。
The difficulty in keeping Britain’s hunter-killer submarines available for operations has once more left the Royal Navy without a single attack boat at sea, according to open-source tracking. Click image for more.https://t.co/tsYrQDruR7
— UK Defence Journal (@UKDefJournal) June 27, 2026
ちなみに、6隻ある45型駆逐艦のうち4隻は港を離れることが出来ない状況で、5隻あるアステュート級原潜は1隻も港を離れることが出来ない状況(2025年9月に引き渡された6番艦アガメムノンの完全稼働も約18ヶ月かかると予想さている)だ。この全ての問題は乾ドックのスペースとスペアパーツの慢性的な不足に起因し、艦艇運用に不可欠なインフラに対する大規模投資が見込めないので、どれだけ自律型無人システムを導入したところで補完関係にある有人システムの即応性が低いままでは意味がない。
日本人的にはGCAPへの資金供給さえ確保できれば他の問題は関係ないと思うが、英軍にとっては考えうる中で最高に最悪の国防投資計画になるだろう。
出典:Royal Navy
追記:BBCは29日「国防投資計画では45型駆逐艦の後継艦=83型駆逐艦構想が白紙撤回され、代わりにドローン運用能力を備えた6隻の共通戦闘艦=Common Combat Vesselsを導入する見通しだ。このCCVについて国防省は『空中、水上、海中の無人システムを連携させ、より強靭な防空能力を提供することが可能になる』『このアプローチの変更により乗員数やコストを大幅に増やすことなく海軍の展開能力、強靭性、そして火力を拡張できる』と説明している」「ただし、CCV開発のため国防投資計画の中でどれだけの資金を割り当てているのかは明かさなかった」と報じた。
自律型無人システムとの協調能力だけなら83型駆逐艦構想に組み込めばいいだけの話で、83型駆逐艦構想を白紙撤回して共通戦闘艦という新しい概念を持ってきたのは「45型駆逐艦や83型駆逐艦のベースとなる防空能力のコンセプト自体が変更される」と示唆しており、正式なCCVのコンセプトや計画を見てみないと何とも言えないが、現時点では中途半端な妥協に産物という印象が拭えない。
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※アイキャッチ画像の出典:Royal Navy