コラム:スペイン大停電が浮き彫りにした電力網の脆弱性、エネ移行に追い風も
[ロンドン 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - スペインとポルトガルは今週初めに空前の規模の停電に見舞われ、麻痺状態に陥った。当局はまだ決定的な原因を特定しておらず、イベリア半島における低炭素エネルギーへの過度の依存や、他国への電力輸出、さらにはサイバー攻撃までもが「容疑者」に浮上している。今回の大規模停電は低炭素エネルギーへの移行の流れには逆風だが、電力網の脆弱性が浮き彫りになったことで移行促進に向けた設備投資拡大のきっかけにもなり得るだろう。
スペインの電力会社レッド・エレクトリカによれば、4月28日の正午ごろに電力フローに「強い変動」が発生し、それが発電量の急激な減少を引き起こした。この電力喪失が電力ネットワーク全体に影響を及ぼし、広域欧州電力システムとの接続が切られたことで大規模な停電が発生した。スペインから電力を輸入している隣国ポルトガルも、この連鎖的な障害に巻き込まれた。
今回はスペインの電力網の60%が影響を受けたが、送電網に支障が生じること自体は珍しいことではない。2019年には英国で落雷をきっかけに100万人程度の顧客が停電に見舞われた。スペインは風力発電と太陽光発電が電力供給全体の60%余りを占めている。これ自体はすばらしいことだが、再生可能エネルギーへの依存が比較的高い国は送電網が予期せぬ障害に対して脆弱となる恐れがある。これは原発や化石燃料発電所で使われている巨大な回転式発電機の場合は、電力供給が急減した場合でも「慣性力」と呼ばれる仕組みで稼働し続け、電力を供給し続けるのに対し、太陽光や風力発電の発電機では事情が異なるためだ。
当面の懸念は、脱炭素化反対派が太陽光や風力発電についてスピニングマシン(電力系統の安定性させるための装置)を備えない限り慣性力がほとんどないと主張し、今回の停電の原因を再生可能エネルギーに押し付ける展開だ。
専門家はこの問題を以前から理解していた。また、スペインには電力安定供給のための「同期コンデンサ」と呼ばれる装置が十分に設置されていなかった可能性がある。したがって再生エネルギーが犯人だと決めつけるのは語弊があるだろう。しかし、トランプ米大統領が「ネットゼロ(実質排出ゼロ)」政策に敵対的な姿勢を取っていることで「脱炭素懐疑派」は勢いづいている。
とはいえ、グリーンエネルギーが主な原因であることを示す正式な調査結果が出ない限り、今回の送電網崩壊には希望の光も見えるかもしれない。たとえば、ガソリン車を電気自動車(EV)に置き換えるといった取り組みのためには電力が最終エネルギー需要に占める割合を2050年までに、現在の20%程度から最大70%に高める必要がある。英シンクタンクのエネルギー移行委員会によると、こうした動きに伴って大量のゼロカーボン電力が送電網に影響を与えたり、送電網への接続を拒否されたりすることを避けるため、現在は年間約3000億ドルの送電網投資を2050年までに8000億ドルへと増やす必要がある。
こうした投資によって老朽化した送電線の更新や新たな送電網の建設、さらに送電網全体の機能強化が可能になるはずだ。もちろん、軍備増強のように一見してより緊急性の高い要件により、こうした電力投資の優先順位が下がる流れは容易に想像できる。それでも少なくとも、今回のスペインの大規模停電によって欧州の議会議員の間で老朽化するエネルギー網の問題が意識の先頭に上るようになるかもしれない。
Bar graphs showing Spain's energy mix, with solar power growing most rapidly.●背景となるニュース
*スペインとポルトガルは4月28日、送電網の連鎖的な障害により史上最悪の停電に見舞われた。スペインのサンチェス首相によると、同国はわずか5秒間で15ギガワットの電力を喪失。航空便で欠航が発生し、地下鉄は運行を停止。病院の業務にも支障が生じた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。