「準備は100点、実力が不足」世界に歯が立たなかった箱根駅伝勢…世界陸上5000m・10000mで見えた弱点“ペース変化”「日本だとあそこまでは…」(Number Web)
卒業後、鈴木は2025年の第109回日本選手権10000mで優勝。葛西も2024年の第108回日本選手権10000mを制し、今年は2位だった。森は2024年から2年続けて日本選手権5000mで2位と、3人とも今の日本のトップランナーといえる成績を引っ提げての世界陸上挑戦だった。 しかし、結果は世界との差を感じざるをえない、厳しいものになった。 森は5000m予選1組に出走したが、13分29秒44の15位で予選敗退。葛西は10000m決勝で29分41秒84の22位、鈴木は29分33秒60の20位という結果に終わった。 レース後の3人からは、結果に対して同じような言葉が漏れた。 「準備は100点、実力だけが足りなかった」(森) 「ラスト2000mで勝負を仕掛ける空気感を感じたので、前に出て、集団を絞ろうと思ったのですが、絞り切れず、力不足だったと思います」(葛西) 「世界との差は見ての通り、本当にくやしい」(鈴木)
3人とも、世界と戦うにはまだまだ力が足りないということを実感したようだ。今回、彼らはいずれも参加標準記録(10000m:27分00秒)、(5000m:13分01秒00)を超えての出場ではなく、ワールドランキングで上位に入って出場している。森の5000mの自己ベストは13分15秒07、葛西の10000mの自己ベストは27分17秒46、鈴木は27分20秒33である。世界の強豪選手と戦う前にすでに差があったことは否めない。 それを覆すべく彼らは準備してきた。森などは「準備は100点」とまで言い切った。その状況での結果である。パリ五輪5000m金のヤコブ・インゲブリクセン(ノルウェー)は負傷明けで十分な練習ができていなくてもポテンシャルだけで走り、5000mの決勝に残った。やはり陸上は数字というべきか、地力やベースが足りないなかでの結果は、実力通りのものだったと言える。
Page 2
レースでは葛西と鈴木はともに、「ペースの激しい上下」に戸惑ったという。 「かなり遅いペースで入り、これから急激に速くなって、急激に落ちるのを繰り返すんだろうなと思いました。それだと自分がタレそうな気がしたんです。少しでも自分のペースで刻みたいと思い、前に出て、人数を絞れたらいいなと思ったんですけど、絞り切れなかった」(葛西) 「5000mまでもそれなりにペース変化があって、そこからまたけっこう上げ下げがありました。日本だと、あれだけのペース変化がある中でのレースというのがほとんどありません。正直、ぜんぜん付けないペースじゃないんですけど、ペースの変化でキツくなってしまいました」(鈴木) 世界大会のレースは、10000mに限らずマラソンでも、選手が常に細かいペース変化を波のように起こし、大勢を振るい落としていく。世界選手権オレゴン大会でマラソンに出場した西山雄介(トヨタ)は、「1km単位じゃなく、数百mでもペース変化が起きている。こんなに細かく、頻繁に起こることに面食らった」と語っていた。世界では、速いことはもちろん、強く、タフでないと勝てないと実感したという。
日本でのマラソンやトラックはともに、レース終盤まではしっかりとペースを刻み、淡々と進んでいく。日本の選手はその展開に慣れており、一定のペースだと速く走ることはできる。だが、世界のレースは、いわばアクセルとブレーキを交互にかけながら走る。その結果、想像以上に足を使い、終盤戦の勝負の前に足が「売り切れて」しまうのだ。 実際、今回の10000mでも、3000m付近で葛西が一度前に出て自分のペースを刻もうとした場面があったが、結局うしろに回収された。7600mでは葛西と鈴木がともに再度前に出たが、そこで足が重くなり、8500m手前あたりで先頭集団から離れ、勝負する前に終わってしまった。 「僕は練習のなかで変化走を取り入れているんですけど、そこまで激しくやっていないので。そういうのを、もっとやっていかないといけないのかなと思いました」 そういって鈴木は、表情に悔しさを滲ませた。