1年間でイギリスの年間消費量の半分の水が「消える」...AIがもたらす深刻な水不足に備えよ(ニューズウィーク日本版)

データセンターは現代のデジタル社会を支える「見えないエンジン」だ。グーグル検索、クラウドに保存した写真、チャットGPTの回答──。あらゆる情報が、世界中に点在する巨大なデータセンターの高性能コンピューターで処理されている。 【クイズ】「最強のパスポート」ランキング...日本と並び2位になった「意外な国」はどこ? これらの施設は膨大な電力を、そして水を消費する。しかも家庭用水と違い、その水は再利用されない。 この循環しない「静かな水の損失」に、環境科学者らは懸念を示している。2023年発表のある論文(未査読)では、2027年時点で世界中のAIが1年間に消費する水の量が、イギリス全土の年間使用量の半分以上に達すると予測されている。 データセンターには通常、何千台ものサーバーが設置され、24時間体制で稼働している。これらの機器は莫大な熱を発生させるため、適切に冷却しなければオーバーヒートで故障してしまう。 2022年、イギリスが摂氏40度の記録的熱波に襲われた際には、ロンドンにあるグーグルとオラクルのデータセンターが一時的にダウンしてしまった。こうしたトラブルを防ぐため、データセンターは冷却用に大量の水を必要としている。 1メガワット(一般家庭1000世帯分の電力消費量に相当)級のデータセンターでは、年間最大2550万リットルの水を使う。ちなみに、世界中のデータセンターを合わせると約59ギガワットだ。 冷却方法として一般的なのが、チラーと呼ばれる巨大冷蔵庫のような装置だ。この冷却過程では大量の水が蒸発して失われ、再利用されない。この点が、下水処理を経て再利用される家庭用水とは根本的に異なる。 つまり、データセンターが使用する水は実質的にその地域の水収支から失われてしまう。干ばつや水不足が発生しやすい地域では深刻な問題だ。しかも、2022年以降に建設されたデータセンターの3分の2は水資源に乏しい地域にある。

代替策として、「直接蒸発冷却」という方法もある。水を含ませたパッドにデータセンターから出た熱い空気を通すと、水が蒸発する。その際、気化熱によって周囲の熱が奪われて空気が冷やされ、その冷気を再びサーバールームに戻す仕組みだ。 ただし、この方法だと室内の湿度が上がり、サーバーのような精密機器を損傷する恐れがある。そのため湿度管理の追加設備が必要となる。 そこで筆者の研究チームは、湿った空気と乾いた空気をキッチン用アルミホイルのような薄いアルミ箔で分離する新たな冷却法を開発した。乾燥した熱い空気を湿った空気の近くに通すことで、アルミ箔を介して熱だけを伝え、精密機器の嫌う湿気を発生させずにサーバールームを冷却する。 英ノーサンブリア大学のデータセンターで行われた実証試験では、従来のチラーよりもエネルギー効率に優れ、水の消費量も少ないことが確認された。この施設の電力は全て太陽光発電に由来しており、コンプレッサーや化学的な冷媒も一切使用していない。 AIの利用が拡大し続けるなか、データセンターの需要は激増し、それに伴って水の消費量も格段に増えるはずだ。そうなる前に、デジタルインフラの設計・規制・エネルギー供給の在り方を世界中で見直す必要がある。 The Conversation Muhammad Wakil Shahzad, Associate Professor and Head of Subject, Mechanical and Construction Engineering, Northumbria University, Newcastle This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ムハンマド・ワキル・シャザド(英ノーサンブリア大学准教授)

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