「君シカオラン」とあおる国 人手不足の活況に中小企業が熱視線
「うちの社員だけでは生産が間に合わない。人を出してほしい」
ここ数年、大手防衛企業から関係会社にこうした依頼が引きも切らない。中部地方の中小製造会社も、防衛事業を手がける取引先の大手重工メーカーから作業員を2人派遣するよう打診された。
「こちらも増産していて人手が足りないんです」。1人だけ派遣した。
2022年度当初に約5・4兆円だった国の防衛予算が、4年で約9兆円に急伸した。沸き上がる需要に、大手企業が人手をかき集めている。
Advertisement「防衛関係の取引は、安定しているけれど、もうからないという印象だったんですけれど」と冒頭の製造会社の男性社長。完成品の供給先は自衛隊が主で、輸出も少ない。そのため利益が頭打ちで、成長を見込めず撤退する企業もあった。
それが「ウクライナ侵攻が起きた22年ごろから急激に需要が高まっています」。
新型コロナ禍が明けたこともあるが、男性の会社では今年の防衛・民間航空部門の売り上げが21年の3倍に増える見込みだ。
“軍需”をテコに民需も
国はあの手この手で業界を支える。
23年に成立させた防衛生産基盤強化法がその一つ。法に基づき、国が調達する武器などの生産安定化や効率化につながる設備投資などであれば、下請け企業であっても条件付きで国が経費を払う制度を作った。防衛装備庁はこんな「合言葉」とマスコットキャラクターを付けて制度をPRしている。「君シカオラン」
スタートアップ企業と防衛関係者のマッチングのため防衛装備庁が16年から開催する「防衛産業参入促進展」も、この5年は出展社数が右肩上がりだ。
約60社が参加した今年2月の参入促進展。
初めて出展した横浜市の製造会社「MadeHere」は、16年に設立したベンチャーだ。3Dスキャナーや鋳造技術によって、廃番になった機械部品を再製造する。図面やデータが無くても部品そのものがあれば生産できるのが強みだ。
元は3Dプリンターや、3Dプリンターで作った新製品を販売していたが、縁あって在日米海兵隊の船舶部品を受注するように。陸上自衛隊の車両用部品を製造したこともある。
2日間の出展で、防衛官僚や自衛官に加え、大手防衛企業やコンサルティング会社の社員らもブースを訪ねてきた。終えると、50枚以上の名刺が担当者の手元に残された。
「かなり関心を持たれている。防衛関係の実績は、民需の契約を得る上でもとても強いパワーワード。今後は防衛関係の取引を増やしたい」。高市早苗政権による防衛産業への投資戦略や武器輸出ルールの緩和に熱視線を送る。
中国景気の低迷で求めた活路
ビジネスチャンスに、関連取引が少なかった中小企業も期待を寄せる。
京都市の三昌製作所は金属のプレス加工などを行っている。
1945年創業で従業員数約60人と規模は小さいが、中国向け産業用ロボットの部品製造を主として安定した経営を続けていた。
ところが、近年の中国景気の低迷を受けて事業規模の縮小を余儀なくされた。山田昌樹・社長室室長(36)は「特に需要があった00年代と比べると、3分の1まで売り上げが落ち込んだ」と話す。
活路を求める中で目に留まったのが防衛産業だった。「いろんな産業の元気が無い中で、唯一国が力を入れており、拡大が見込まれた」と山田さんは説明する。
経営と倫理のはざまで
東大阪市の金属加工会社ナミテイは、光海底ケーブルを保護する金属線の加工技術があり、防衛装備にも活用できるとアピールする。
村尾耕一社長(50)が活況を耳にしたのは24年の夏だ。航空系の中小企業経営者が多く集まる会合に出席したところ、「防衛費が増額して、需要が高まりそうだ」と話す人が複数いた。
その前年、ある防衛関係企業から部品製造を受注したばかりだった。防衛関連の仕事を受けたのはそれが初めてだったため、印象に残っていた。
「需要があるなら、もっとこの業界を深掘りできないか」
情報収集を始めて、確信した。「高市首相は、防衛産業を更に推し進めると言っている。これからもっと盛り上がる」
ただ23年の参入時、管理職からこんな報告も受けた。「社員の中には、武器製造に関わるのはいかがなものか、とネガティブな意見もあります」。聞いた以上のことは追及しなかった。
経営者としては複雑だ。
「防衛装備の輸出を緩和する動きはアジアの仲間を守る上で良いことだし、日本経済にとって良い方向に働くとは思う。何より、従業員を守り会社を継続させていかなければならない」
ただ、3年前の忠言はとげのように心に残っている。
輸出緩和によって日本で製造された装備が他国の紛争に使われる可能性もある。「我々の商品は防衛に使われると考えている。でも、もし用途が他国のためだと聞いた時は、それなりに悩むと思う」【揺らぐ「平和」取材班】
大国による戦争で国際情勢が緊迫する中、防衛の在り方や平和への意識が揺らいでいます。8月下旬まで連日、現場を歩いた記事や深掘りしたインタビューを公開します。次回は、「平和都市」と「防衛城下町」の二面性を持つ長崎の急変