日鉄のUSスチール買収計画、日米の関税交渉に追い風となる可能性
トランプ米大統領が日本製鉄のUSスチール買収計画を容認する姿勢に転じたことで、関税措置を巡る日米交渉は追い風を受けそうだ。
買収提案の詳細は依然としてはっきりしないが、トランプ大統領は30日にピッツバーグで開く集会で、今回の取引を自身の関税政策と米国労働者にとっての勝利と宣伝する見通しだ。取引の一環として米国政府は「黄金株」を取得し、特定の意思決定に対して事実上の拒否権を持つことになるという。
トランプ大統領がこの進展を成果としてアピールすることで、自動車やその他輸出品の関税撤廃を求める日本の交渉に弾みがつく可能性が高まる、と一部のアナリストは指摘する。
日本総研の石川智久チーフエコノミストは、「日本製鉄の話が進めばトランプ氏の一つの功績になる。その意味では好ましい方向に進んでいる」と語った。
トランプ大統領が世界に向けて関税措置を発動して以降、日米交渉はこれまでにワシントンで3回行われた。日本側は、自動車に対する25%の関税や、7月上旬にも24%に引き上げられる10%の一律関税の見直しを求めているが、ほとんど成果は上がっていない。
日本側の交渉役を務める赤沢亮正経済再生担当相は週内に再び渡米し、関税協議を行う見込みだ。赤沢氏は27日の会見で、6月中旬にカナダで開催される主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)で日米首脳会談が実現する可能性に言及した。関税交渉で合意を発表する機会となり得る。
もっとも、合意に至る気配は乏しい。赤沢氏は関税の完全撤廃を繰り返し主張しており、双方が歩み寄る兆しは見られない。
赤沢氏は、交渉は「ゆっくり急ぐ」と指摘。「何かの期限を念頭に置いて交渉した結果、国益を毀損(きそん)するようなことのないように、その点はしっかり踏まえて協議を加速していきたい」と述べた。
日本は当初、迅速に米国と協議を始めたが、その後は強硬な姿勢で米国に報復関税を課した中国に後れを取った。米中両国は5月、双方が課した上乗せ関税を90日間停止することで合意した。
日本は買収交渉を通して相互の経済的利益の追求を主張してきた。今回のUSスチールの案件を突破口に、これまで発信してきたメッセージに重みが加わることを期待するだろう。米国にとって日本は過去3年間、最大の投資国であり、米国内の自動車工場やその他の施設で数千人の米国人労働者を雇用している。
日本政府当局者はUSスチール買収の影響に関してより詳細の情報を収集中としており、コメントを控えている。
双日総合研究所の吉崎達彦チーフエコノミストは、関税交渉に関連して浮上している日米造船協力には鉄が必要であり、USスチールの買収を認めるよう日本側として主張できるだろうと語った。造船量で日本は中国、韓国に次ぐ世界3位。
もっとも、外務省や経済産業省の元幹部らは「あんな強気でいいはずがない」と不安を口にしているという。一方、「実務に当たる現役の担当者はわりと強気」だと述べ、「根拠ない強気に見えるが何かがあるのかもしれない」との見方を示した。
原題:Trump’s Nippon Steel Bid Support Boosts Japan’s Trade Talk Hopes(抜粋)