権威主義国家の指導者は背筋の凍る思いに…AI技術が中核担ったイラン戦争…国家指導者たちを確実に暗殺、やがて他国にも広まる可能性も(Wedge(ウェッジ))
ウクライナ戦争が、ドローンが戦闘の中核的役割を果たすようになった初の例であるとするならば、今般のイラン戦争は、AIが中核的役割を果たした初の戦争と言って良いであろう(イスラエルでは2021年5月のイスラエル・ハマス戦争が「世界初のAI戦争」と見做されているようだが)。 イラン戦争で最も衝撃的であった事例の一つは、イスラエルがハメネイ師ほかイラン指導部の行動をほぼ正確に把握し、主だった国家指導者が集まるという最も効果的なタイミングで攻撃を実行し暗殺を成功させたことだ。 このような攻撃は、高性能AIの活用なくしてはあり得なかっただろう。国際戦略研究所(IISS)による4月2日付けの報告‘The proliferation of AI-enabled military technology in the Middle East’によれば、イスラエルは23年10月以降、AIの利用を飛躍的に伸ばし、特に、AIによる意思決定支援システム(AI DSS)の開発を進めてきた。 具体的には、武装集団との関連が疑われる人物の標的選定のための「Lavender」、標的リスト作成のための「Gospel (Habsora )」、個人の位置を追跡する「Where’s Daddy?」等により、大量かつ高速のデータ処理を可能にし、その結果、意思決定サイクルを大幅に短縮することが可能になった。
また、米中央軍はほぼ連日、戦況についてブリーフしているが、2月28日に攻撃を開始して、それから24時間のうちにイランの指揮命令センター、革命防衛隊司令部、防空システム、弾道ミサイルサイト、潜水艦、軍事通信能力などを含む、1000を超えるターゲットを攻撃したとしている。
このような短期間における大量かつ正確な攻撃は、米国によるAI DSSの活用があって可能となっている。今次戦争で米軍は、パランティア社の「Maven Smart」(これにはAnthropic社のClaude AIも統合されている)を用いて監視データを分析し、標的リストを作成してその優先順位付けを行っている。 今般のハメネイ師ほかの暗殺は、いわゆる権威主義国家の指導者たちにとっては背筋の凍る思いであったのではないだろうか。ただし、米国やイスラエルがもつこのような力は、いずれは時間を経て他の国にも拡散していくだろう。あるいは中国などはすでにこれらに近い能力をもっているかもしれない。 ワシントン・ポスト紙のグレッグ・ミラー調査報道特派員による3月30日付け解説記事は「侵入可能なものはすべて侵入を試みた」というイスラエル軍高官の発言を紹介している。ある人物を攻撃目標として設定した場合には、その行動を日常的に監視し、当該人物の生活、モノの考え方、人的関係、趣味、強みと弱み等々、あらゆる情報を収集した上でデータ処理し、攻撃側が行動を起こす上で最も適切な場所とタイミングをAIが教えてくれることになる。 日本は、以上のような情報が最も手に入りやすい国の一つであろう。世界広しといえども、一国の最高指導者の日程を一般の報道などで知ることのできる、非常に珍しい国だ。 わが国としても、今日の戦争においてAIがどれほど中核的な役割を果たしているかを十分に調査・分析した上で、作戦におけるAI導入と情報保全の強化を一層進める必要がある。
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同時にもう一つ、AI導入で留意すべきは、人間のかかわり方だ。今般のイラン戦争では、上記のように短期間で膨大かつ正確な攻撃が行われたと言われているが、攻撃が完全に軍事施設等に限定されていた訳ではない。 すでに約2000人に及ぶ非戦闘員が死亡し、学校や病院などの民間施設が被害にあっていると、複数のメディアが報じている。これら非戦闘員の被害に、上記AI DSSはどのように関わっているだろうか。 標的の選定に関するAIの判断が間違っていたのか、インプットした情報が間違っていたのか、あるいはAIに対する指示において軍事施設の攻撃に伴う民間施設に対する副次的被害(民間施設が隣接する場合など)の許容指数を大きく設定したのか、等々、様々な可能性が考えられ、実際のところは不明だ。 ただ、少なくとも言えることは、AI DSSに内在する構造的な問題を無視してはならないということだ。先に触れたワシントン・ポスト紙の記事は、「暗殺への依存と標的範囲の拡大という悪循環」を指摘する専門家の意見を紹介している。ここにはAIと人間の意思・判断との関係のあり方という、本質的な問題が関わっている。
岡崎研究所