【コラム】孫正義氏がOpenAIに全賭け、過去の過ちと類似点-レン
ソフトバンクグループを率いる孫正義氏が大きな賭けに出る時、新たな時代の幕開け、もしくはテクノロジーサイクルのたそがれを告げる合図となる。
孫氏はこれまで幾度も華々しい勝利を収めてきた。中国の電子商取引大手アリババグループが成功すると早期に見抜いたことで、アリババが10年余り前に上場した際にソフトバンクGに580億ドル(現在の為替レートで約8兆5300億円)の利益をもたらした。
2016年には英半導体設計会社アーム・ホールディングスを320億ドルで買収し、23年に人工知能(AI)ブームの追い風を受けてタイミング良く上場させ、再び巨額の利益を得た。アームは現在、ソフトバンクGのポートフォリオ価値の約半分を占めている。
ソフトバンクGの投資には、ぎょっとするような敗北もあった。シェアオフィス大手、米ウィーワークの上場失敗とその後の破産申請により、孫氏は115億ドルを失った。
英金融ベンチャー、グリーンシルの崩壊では、ソフトバンクGは法廷に立たされた。インドのオヨホテルズは、孫氏がより強い収益力を確認したいとの意向から、新規株式公開(IPO)を3度延期。23年3月までの2年間で、ソフトバンクGのベンチャー投資部門ビジョン・ファンドは約700億ドルの損失を計上した。
対話型AIのChatGPTを展開している米OpenAIはどうだろうか。孫氏が今、サム・アルトマン氏率いるOpenAIに「全賭け」していることを、どう読み解けばいいのか。
ソフトバンクGは今年4月、OpenAIの資金調達ラウンドを主導した。同社の評価額を3000億ドルとし、年末までに最大300億ドルを投じると約束した。
心配し過ぎたと言われるかもしれないが、ソフトバンクG創業者の新たな熱中ぶりは、ウィーワーク出資を連想させる。孫氏の資金投入パターンやウィーワークとOpenAIのビジネスモデルに内在する収益と負債のミスマッチなど多くの類似点がある。
両社ともソフトバンクGの出資が遅れ、孫氏は大金を支払わなければ席に着けなかった。ウィーワークは11年から資金調達を続けていたが、ソフトバンクGが参入したのは17年。1000億ドル規模のビジョン・ファンド1号を創設した後だった。
同様に、今年のOpenAIの資金調達も遅い段階で行われ、ベンチャーキャピタルは利益余地が限られるのが一般的だ。
この取引はソフトバンクGにとって集中リスクも伴う。孫氏が全額投資すれば、アームに次ぐ2番目に大きな資産となる。すでに孫氏は6月末までに97億ドルを投じている。
朗報なのか
企業評価額が短期間で大きく膨らんでいるのも共通点だ。ソフトバンクGがウィーワークに初めて出資した17年8月、評価額は210億ドルだった。その約1年後には30億ドルを追加投資し、評価額は450億ドルと倍以上となった。
ソフトバンクGは新株でないOpenAI株の取得を進めているが、企業評価額は5000億ドルとされ、わずか半年前にソフトバンクGが主導した資金調達ラウンド時のほぼ倍だ。孫氏は買い過ぎではないのか。
結局のところ、OpenAIはウィーワークと同じように景気下振れサイクルを経験せずに楽観的な成長見通しを示している。
ウィーワークは、新型コロナウイルスの流行によって働き方や働く場所が変化し、オフィス需要が減退したことが一因で挫折した。電力不足やエネルギー危機といった外部要因で生成AIが妨げられないことを祈るしかない。
OpenAIの極端に高い評価額は、完璧な運営を前提としているためだ。同社の最新予測では、売上高が今年の130億ドルから30年には2000億ドルに急増するとしている。
資金の消耗もある。19年後半、ウィーワークの資金枯渇を恐れ、約3分の1を保有していたソフトバンクGは救済パッケージを提供せざるを得なかった。
25年の今、OpenAIのキャッシュフローを巡る懸念は根強い。同社は29年末までに1150億ドルを使い果たす見通しを示している。さらに、OpenAIが米オラクルと結んだ3000億ドル規模のクラウド契約は、どのように支払いがなされるのか誰にも分からない。これは27年からの5年契約だ。
ウィーワークとOpenAIはいずれも固定費を抱えながら、収入源は不確実という点でも似ている。長期のリース契約を結んでいたウィーワークだが、入居者側にコミットメントを求めなかった。
OpenAIも今後10年間で数千億ドルの支払い義務を負う一方、移ろいやすい消費者はいつでも定額サービスを解約できる。こうしたビジネスモデルでは、ベンチャーキャピタルから資金流入が続かなければ、資金繰りに窮する。
現時点で孫氏は順風満帆に見える。ソフトバンクGの株価は先週、上場来最高値を更新した。AI分野での重要な提携先であるオラクルが、将来に向けた契約が総額5000億ドル近くあると開示し、その相当部分がOpenAIとの取引によるものだったからだ。
だが、これは本当にソフトバンクGにとって朗報なのか。OpenAIはこの巨額支出の下でフリーキャッシュフローを黒字化できるのか。出遅れた孫氏は再び底のない穴をのぞき込んでいる。
(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Masayoshi Son Is Going Big on OpenAI. Time to Worry: Shuli Ren (抜粋)