生物発光を利用してウイルスを検出する診断ツール、ホタルの酵素で従来の515倍明るく長持ちに
生き物が自ら光を放つ「生物発光」は、自然界の神秘のひとつだ。科学者たちはこの仕組みを人間に役立てる研究を長年続けている。
そして今回、米国マサチューセッツ総合病院ブリガム研究所の研究チームが、「ルシフェラーゼ」というホタルの発光酵素を使った感染症診断ツールを開発した。
ウイルスを効率的に検出する診断ツール「LUCAS(ルーカス)」は、従来の生物発光ベースの診断ツールの515倍も明るく長持ちするという。
この研究は『Nature Biomedical Engineering』(2025年5月30日付)に掲載された。
採血のいらない血糖の測定や尿だけでできる妊娠検査など、自宅でできてしまう手軽な検査(ポイント・オブ・ケア診断)は、患者にとって非常にありがたいものだ。
だが感染症の原因となるウイルスは非常に小さいものが多い。ただでさえ難しいウイルスの検出を、高度な機器を利用しにくいポイント・オブ・ケア診断でとなると、その難易度は大きく跳ね上がる。
ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のハディ・シャフィー博士はその難しさについて、「まるで目隠ししながら、ゼリーで満たされたオリンピック会場のプールの中から氷を探すようなもの」と、ニュースリリースで説明する。
そんな離れ技を手軽な方法でどうやれば実現できるのか? 最近注目されるのは、生物発光(バイオルミネセンス)を利用する診断法だ。
生物発光は、生物が化学反応によって光を生成する現象のことで、ホタルや夜光虫、深海魚など、様々な生物がこの現象を利用して自ら発光している。
例えば、ホタルが光る際に使う酵素「ルシフェラーゼ(発光生物に見られる発光を触媒する酵素)」を応用すれば、患者から採取した体液がウイルスに感染しているか検査することができる。
そこに対象となるウイルスがあるときだけ光り輝き、患者が感染していることを教えてくれるからだ。
この生物発光診断法の長所は、ノイズ・偽陽性・光の退色・光毒性といった他の手法にありがちな問題に強いところだ。
ただし光が弱く、すぐに消えてしまうという欠点もあった。
この画像を大きなサイズで見るこの概念図では、発光するホタルがウイルス粒子の上にとまり、やわらかな緑の光を放っている。そのそばには、光を放たない別のホタルがいる。このイメージは、生物発光を利用したポイント・オブ・ケア診断の本質を象徴的に表現しており、標的となるウイルスが存在する場合にのみ光が発せられることを示している generated using AI (ChatGPT) using DALL.E. Concept and direction by Hadi Shafiee, PhD.そこでシャフィー博士らが考案したのが、そうした欠点を克服した「「LUCAS(ルーカス:Luminescence CAscade-based Sensor/発光カスケード型センサー)」という新しい生物発光診断ツールだ。
それは「酵素カスケード反応」を利用して、発光反応をパワーアップしたものだ。
鍵を握るのは「β-ガラクトシダーゼ」というもう1つの酵素だ。これを加えると「ルシフェリン(ルシフェラーゼで酸化して光を放つようになった物質の総称)」に結びつき、発光物質が一気に使い切られないよう徐々にそれを放出してくれる。
その結果、ルシフェラーゼ反応が何度も繰り返され、光が何百倍にも強くなるのだ。
その明るさは従来の515倍。しかも非常に長持ちで、1時間後でも96%の明るさが保たれる。
LUCASの有効性を確かめるため、研究チームは喉・鼻・血液から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)・ヒト免疫不全ウイルス(HIV)・B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスを採取。
これに感染したサンプルを対象にLUCASで検査を行ったところ、94%以上の正確さで平均23分以内に病気を診断できたという。
こうした携帯性に優れ、簡単に使える診断ツールは、ただ手軽というだけでなく、病気の早期発見にもつながる。
それは治療効果をも左右するので、すぐに使えるツールは今後ますます重要になるだろう。
References: New Diagnostic Tool Uses Bioluminescence to Detect Viruses May 30, 2025
本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。