「氷河」の定義を知っていますか?温暖化でとけた氷河から温室効果ガス「メタン」が放出されている不都合な真実

さらに、最近ではメタンの研究をしています。

2019年頃、グリーンランド周辺の氷河から出る水を調べた研究者が、そこに含まれているメタンが大気に放出されているという論文を『Nature』で発表しました。グリーンランドや南極の大きな氷床の下には堆積物があるので、メタンがつくられているのではないかという話は以前からあったようですが、それが実際に氷河で確認されたんです。

──二酸化炭素と同様、メタンも大気中に放出されると温室効果ガスとして温暖化の原因になるんですよね? 

メタンの温室効果は、二酸化炭素の28倍もあります。いまは温暖化の影響で氷河が解けて縮小し、氷河の縮小によってメタンが放出されることで温暖化がさらに進み、そのせいでさらに氷河の融解・縮小が進む…という悪循環になっているのかもしれません。

以前は、氷河が温暖化の影響を受けることしかわかっていませんでした。しかし現在はそれに加えて、氷河の変動が気候変動に影響を与えるという逆向きの効果も考えられるようになってきたわけです。

もっとも、氷河から放出されるメタンの量はまだ不明なので、気候変動への影響がどの程度なのかもわかりません。もっと広範に氷河を調べる必要があります。

私はこれまで、グリーンランドの氷河よりも小さいタイプの氷河を研究してきました。そういう小さい氷河でもメタンが放出されているのかどうか? 放出されているとしたらどれくらいの量なのか? それを知るための測定を5年ほど前からアラスカの氷河で行っています。

──ということは当然、しばしばアラスカまで行かれるんですよね? それだけでも、かなり大変だと思いますが……。 

氷河の減少などは衛星画像でもだいたいわかりますし、飛行機やドローンで観測することもできますが、いまのところ、メタンの測定は自ら現場に行って水を採取するしかありませんね。もっと手間のかからない方法を考え中ですが、まだ思いつきません。

アラスカにあるキャスナー氷河での観測の様子。氷河が解けて流れ出た水を採取し分析する。キャスナー氷河は岩屑で覆われているため、氷河表面は白く見えない(写真撮影・影響:岩花剛氏/アラスカ大学)

日本からは、米国のシアトル経由でアラスカの真ん中あたりにあるフェアバンクスという町に行きます。アラスカ大学フェアバンクス校の研究者に協力してもらっているので、そこを拠点にしているんです。氷河のあるアラスカ山脈までは、そこから車で4時間ほどかかりますね。

橋のかかっていない川を渡るには!?

──観測地点の近くでキャンプを張るんですか? 

そのほうが移動は楽ですけど危険もあるので、近くのホテルに滞在します。アラスカ山脈にはいくつも氷河がありますが、いまメインで調べている氷河は、道路から徒歩30分ぐらいですね。

いちばん最初に行ったのはその隣にある氷河で、徒歩1時間ぐらい。それでも楽なほうだと考えて選びました。計測用の機材を持ち運ぶので、対象を決めるときはアクセスしやすいことが大事になります。

ただ近ければいいというわけでもなくて、ある氷河では私有地を通らないとたどり着けないので、許可を得るためにややこしい手続きがありました。さらに、そのときは途中で渡る川に橋がなかったので大変でしたね。地元のガイドに頼んでボートを出してもらったので、お金もかかりました。

アラスカ南部のMatanuska氷河の末端できた湖での調査。氷河には積雪のさいに取り込まれた塵などが黒い縞模様となっていることがわかる。この写真は2025年のJAMSTECのカレンダーにも採用されている(写真撮影・提供:紺屋恵子/JAMSTEC)

それと、アラスカは野生動物がかなりいるので危ない面もあります。氷河の川の手前までは観光客もいるような状態ですが、川を渡ると基本的に人が入らない場所なので、オオカミの足跡があったり。クマやムース(ヘラジカ)を見かけたこともありました。研究の仕事は安全第一なので、そういう場所はなるべく避けるようにしています。

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