赤ちゃんと添い寝すべき? 乳児の突然死リスクが10倍超になる状況とは 研究者が解説
かつて私(筆者のカナダ、トロント大学の進化人類学准教授デイビッド・R・サムソン氏)は、タンザニアでハッザ族の母親たちに、赤ちゃんを母親から離して寝かせることはあるか、と尋ねたことがある。すると母親たちは、その質問自体が意味不明かのような顔で私を見た。
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その反応を見て、私は母親たちに失礼ともいえる質問をしたのではないかと思った。添い寝する以外に、母親が夜通し子どもを守る方法などあるのか? 赤ちゃんを温め、身じろぎしただけで授乳し、危険を察知できるほどの距離にいる方法が、他にあるというのか? 世界の多くの地域で、そして人類学者が言うように人類の歴史の大部分で、乳児の睡眠は孤立したものではなく社会的なものだった。保護者は自分の感覚の届く範囲内に赤ちゃんを寝かせて、触れ、匂いを感じ、声を聞き、授乳し、目を覚まさせ、寝かしつけてきた。こうした一連の流れは、ベビーベッドや電灯、小児科医による育児冊子などが登場するはるか昔から続いてきた。 だからといって、添い寝が安全だとは限らない。現代の大人用ベッドには、柔らかいマットレス、枕、羽毛布団、隙間があり、床面が高い。大人の状態や乳児の月齢・健康状態によっては、危険性がさらに高まるおそれがある。近くで寝るのが、昔ながらの人類の行動様式かもしれないが、現代では添い寝する状況の中に危険が潜んでいることが多い。 これは進化のミスマッチなのかもしれない。人類が長い間行ってきたからといって、安全な慣習だと進化が保証してくれるわけではないのだ。しかし、睡眠中の死に関する現代の研究と組み合わせれば、どういう状況が一番危険なのかを突き止められるかもしれない。そして、安全な寝かせ方の指針を、子どもの安全が損なわれることなく、より現実的なものに変えられる可能性がある。
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母乳育児は、この問題をさらに複雑にしている。SIDSのリスク低下との関連が見られる一方で、添い寝の一因にもなりうるからだ。 英ダラム大学の人類学者ヘレン・ボール氏は、数十年にわたる研究で、公の議論では見落とされがちな「違い」に注目してきた。つまり、添い寝することと、添い寝の危険性を高める具体的な状況とは、別問題だというのだ。 まずは母乳育児と添い寝の複雑な関係をひもとくべく、ボール氏らは2016年の研究で、母乳育児を予定していたイングランド在住の870人の母親を対象に、出産後26週間にわたり、母乳育児と添い寝の状況を追跡調査した。そのうち、添い寝のパターンを分類できるだけの十分なデータが得られた678人では、頻繁に添い寝をすることと、生後半年の時点で母乳育児を続けていることとの間に関連が認められた。 しかし、この研究では因果関係の特定はできなかった。頻繁に添い寝をしていた母親たちは、出産前から母乳育児に強い意欲を示していたからだ。添い寝が母乳育児を続ける後押しになった母親もいるかもしれないが、もともと母乳で育てると決めていた母親ほど、赤ちゃんを自分のベッドに寝かす傾向があった可能性もある。 こうした複雑な関係を踏まえたうえで、ボール氏らはリスクを最小限に抑えるべきだと訴えている。つまり、親に最も安全な寝かせ方を勧めるだけでなく、意図的な添い寝か否かにかかわらず、どのような状況で添い寝すると危険性が高まるかについても説明すべきだというのだ。 生物人類学者のジェームズ・マッケナ氏は、母乳育児と乳児の睡眠とを併せて研究することで、この問題にアプローチした。マッケナ氏はリー・ゲットラー氏と共に「ブレストスリーピング(添い寝しながらの授乳)」という用語を作り出した。これは、危険だと分かっている要因がない状態で、授乳する母親が乳児と添い寝することを指す。 1997年に行われた小規模な実験室研究では、添い寝しながら母乳をもらう乳児は、一人で寝ている乳児に比べて、夜間の授乳回数が多く、授乳時間も長かった。この研究は授乳行動を調べたものであり、乳児の死亡リスクを調べたものではない。それでもこの研究によって、授乳、乳児の目覚め、母親の反応、そして眠る場所が、一つの生態系を作り出していることが明らかになった。 私がアリッサ・クリッテンデン氏らと行った研究からは、ハッザ族の間で寝床を共有するのが当たり前のことだと分かる。研究対象となった33人の成人のうち30人が、少なくとも1人の他者と同一の小屋、同一の寝床で寝ていると報告した。 授乳中の女性は3人しかいなかったため、母乳育児が睡眠に与える影響については確かな結論を出せなかった。しかし、全体で見ると、一緒に寝る人数が多いほど、睡眠時間は短くなり、睡眠が断片化する傾向が見られた。ある母親に、なぜ赤ちゃんと一緒に寝るのかと尋ねたとき、こんな簡潔な答えが返ってきた。「私の子どもだから、私なら守ってやれる」
この答えを手掛かりに、なぜ乳児と添い寝する習慣がさまざまな文化で続いているかを説明できるかもしれない。それでも、現代のベッドがもたらすリスクを消し去ることはできない。さらに難しい問題は、乳児、保護者、睡眠環境によって危険性が大きく異なるなか、それでも添い寝を行う親たちに対して、医療従事者が何を伝えるべきかということだ。
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各国の公衆衛生当局の間で、最も安全な寝かせ方については、親と同じ寝室に乳児専用の硬くて平らな寝床を用意するという点で、おおむね意見が一致している。違いが見られるのは、それでも添い寝が行われる可能性に対して、家族にどのような準備をさせるかという点だ。 米国のAAPとは異なり、英国の国立医療技術評価機構(NICE)と国民医療制度(NHS)の指針では「ハーム・リダクション(害の低減)」を重視したアプローチをとっている。最も安全な場所は親の部屋にある独立したベビーベッドだとしつつも、リスクを減らして添い寝をする方法や、添い寝を絶対に避けるべき状況についても、家族に助言している。
ニュージーランドは、また別の答えを用意している。同国の安全な睡眠プログラムでは、先住民マオリの伝統的なかご型ベッド「ワハクラ(wahakura)」や、その現代版である持ち運べる「ペーピ・ポッド(pēpi-pod)」を推奨している。どちらも、赤ちゃんを保護者の近くに置きつつ、独立した安全な寝床を確保できる。