妊娠前後で脳は変化するか? 38歳の妊婦を約3年間追跡 米国チームが24年に研究発表

 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校などに所属する研究者らが2024年にNature Neuroscienceで発表した論文「Neuroanatomical changes observed over the course of a human pregnancy」は、妊娠前後で脳がどう変化しているかを調査した研究報告だ。 【画像を見る】38歳の初産女性を妊娠前3週間から出産後2年にかけて26回のMRIスキャン【全3枚】  研究チームは、体外受精により妊娠した38歳の初産婦を対象に、受胎3週間前から出産後2年間(162週)にわたって26回のMRIスキャンを実施。妊娠の経過とともに脳がどのように変化するかを週単位で記録した。  分析の結果、妊娠が進むにつれて、脳の灰白質(神経細胞が集まっている処理を行う部分)容積は広範囲にわたって減少し、皮質の厚さも薄くなった。特に注意を向けたり(注意制御)他人の気持ちを理解したり(社会的認知)する脳の領域で顕著な変化が見られた。これらの変化は単なる一時的な現象ではなく、出産後2年たっても部分的に持続していた。  灰白質が減る一方で、白質(脳の各領域をつなぐ神経ケーブルの束)はむしろ強化された。妊娠前期から中期にかけて、脳の異なる部分をつなぐ神経線維の質が向上し、情報伝達がスムーズになっていた。つまり、脳は単に縮小しているのではなく、より効率的に働くように作り変えられていたのだ。  研究対象となった妊婦の脳では、特に視床下部とそれに続く内側視索前野と室傍核を含む腹側間脳領域で最も強い変化が観察できたが、これら領域は母性行動の誘発に重要な役割を果たすことが知られている。  研究者たちは、灰白質の減少を悪いことだとは考えていない。むしろ、赤ちゃんの世話をするために脳が最適化(微調整)される過程だと解釈している。動物実験では、妊娠中のホルモンが脳の回路を調整し、母親が赤ちゃんの泣き声やしぐさにより敏感に反応できるようになることが分かっている。人間でも同じような適応が起きている可能性が高い。  今回の研究は1人の女性だけを対象にしたため、全ての妊婦に同じことが起きるかは分からない。  Source and Image Credits: Pritschet, L., Taylor, C.M., Cossio, D. et al. Neuroanatomical changes observed over the course of a human pregnancy. Nat Neurosci 27, 2253-2260(2024). https://doi.org/10.1038/s41593-024-01741-0  ※ちょっと昔のInnovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。X: @shiropen2

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