ESA、世界初の人工皆既日食を起こして「太陽コロナ」を撮影(ギズモード・ジャパン)

2025年6月16日の月曜日、ESAはProba-3ミッションが世界初の人工皆既日食を起こしたと発表しました。このミッションの2つの衛星「オカルター」と「コロナグラフ」が、宇宙で自律的に一直線に並んで太陽の光を遮り、コロナを撮影。Proba-3の成功は太陽に関するデータへのアクセスを広げるだけでなく、全く新しいレベルでの人工衛星の編隊飛行をも実証するものです。 「特に最初の試みで取得できたというのもあって、画像を見た時にとても感激しました」 と、ベルギー王立天文台ASPIICS(the Association of Spacecraft for Polarimetry and Imaging Investigation of the Corona of the Sun)の主任研究員Andrei Zhukov氏は、ESAのリリースにコメントしています。

ESAは2024年12月5日にProba-3ミッションを打ち上げ、オカルターとコロナグラフを楕円軌道に送りました。この衛星2基は5月になると、宇宙機にとって史上初となる偉業を達成。地上からの干渉抜きで、ミリメートルの精度でもって宇宙空間で自律的に一直線に並び、数時間も相対位置を維持したのです。 人工的に日食を作るには、衛星2基がおよそ150mの間を開けて一直線に並び、オカルターの1.4mの円盤がコロナグラフの光学機器に約8cmの影を落とす必要があります。これによりコロナグラフ衛星の視野から太陽が隠され、かすかなコロナを撮影できるようになるのです。 Zhukov氏は、 「私たちの『人工的な日食』の画像は、自然の日食時に撮影されたものに引けを取りません。違う点は、私たちの日食は19.6時間の軌道周期ごとに作り出せるのに対し、皆既日食が自然に発生するのは年に1度、極まれに2度ということ。そのうえ、自然の皆既日食は数分しか継続しませんが、Proba-3は人工日食を最大6時間保てます」 とコメントしています。


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ESAによれば、太陽コロナを捉えた画像第一陣は、このミッションで得られる貴重なデータを垣間見せてくれるようです。コロナの研究は、いくつかの理由から科学的に価値があります。ひとつに、コロナからは太陽風(太陽から宇宙へ絶え間ない荷電粒子の流れ)が噴出し、コロナ質量放出(突発的に放出される磁化プラズマの塊)が発生します。こういった現象を観測するのは地球の衛星や通信システム、電力網に影響を及ぼし得る宇宙天気を理解するうえで不可欠になります。 Proba-3と後継のコロナ撮影ミッションからの知見は、科学者たちが激しい太陽嵐の脅威にしっかりと備える際に役立つ可能性も。米国のいくつかの機関からの参加者が5月に史上初の太陽嵐の防災訓練を実施したところ、宇宙天気を予測して極めて重要なインフラを守るという科学者たちの能力に重大な欠点があると判明していました。

また太陽コロナは、ある科学上の謎に対する答えを持っているかもしれません。コロナは宇宙空間に数百万マイル広がっていますが、どういうわけかその温度は太陽の表面よりも約200倍の高さに達します。専門家たちはこの不可解な現象について記述する中で、コロナ加熱問題を「現代の太陽物理学における最も厄介な疑問の1つ」と称しました。 ESAいわく、Proba-3ミッションはコロナグラフの光学機器を使って光球の縁にかなり近いコロナを研究することで、この謎の解明を目指すそう。この最先端の機器は検出器に届く迷光の量を減らすので、従来のコロナグラフよりも多くのディテールを捉えてかすかな特徴を見つけられるようになるんだとか。 「現在のコロナグラフは、太陽表面の縁近くまで観測することになるProba-3にはかないません。これまでは自然に起こる日食時のみ可能だったことです」 と、ESAの宇宙天気モデリングコーディネーターのJorge Amaya氏はリリースにて説明しています。

有益な太陽科学の実施に加えて、Proba-3はESAのレーザー干渉計宇宙アンテナ (LISA)のような複数の衛星を用いる将来のミッションに欠かせない、自律的な精密編隊飛行の可能性を拓くものです。 Proba-3は約2年にわたって太陽コロナを観測し、かつては滅多にない天体の並びでのみ起こり得た姿を捉えていきます。大量の新たな観測成果によって、太陽についての科学者たちの理解は劇的に深まることでしょう。 Source: ESA(1, 2), AIP Publishing,

たもり

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