ファースト・ブランズ破綻で注目集まるトレードファイナンス-CFOの声

関税の影響で、企業にとって資金調達手段の重要性が一段と高まっている。自動車部品メーカーのファースト・ブランズ破綻が示す教訓と、サプライチェーンファイナンスに注目が集まる。

  売掛金の回収が遅れる中で給与や仕入れ代金の支払い期日が迫った場合、最高財務責任者(CFO)たちはどう対処するのか。その答えの一つがサプライチェーンファイナンスだ。これは、企業が未回収の売掛金を第三者に売却したり、担保に借り入れたりして資金を確保する仕組みで、これは広義のトレードファイナンスに含まれる。

  こうした手法は、企業が手元資金を極力効率化しようとする中で欠かせない。特に、世界的な貿易摩擦がサプライチェーンを混乱させる状況では重要性が増している。

  通常は目立たない日常的な資金調達手段だが、問題が起きたときには一気に注目を集める。

  破産した自動車部品サプライヤー、ファースト・ブランズ・グループが典型的な例だ。同社はウォルマートやオートゾーンなど向けの売掛債権を担保に借り入れを行い、ウォール街の大手金融機関などからの債務を総額100億ドル(約1兆5000億円)超に膨らませた。詳細はまだ整理途上にあり、米連邦検察当局も破綻の経緯を調べている。

  JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、最近の信用関連の損失を「ゴキブリ」にたとえ「1匹見つかれば他にもいる」ものだと指摘した。

市場と専門家の見方

  一方、取材に応じた複数の財務担当幹部は、ファースト・ブランズ破綻を個別要因による事例とみている。ただ、銀行など資金提供者が取引先との関係を見直したり、一部の取引を縮小する可能性はあるという。それでも大方の見方は、サプライチェーンファイナンスは依然として有用で、合理的な仕組みだというものだ。

  テンサーの社長で、運転資本の最適化を助言するイゴール・ザックス氏は「正しく使われ、開示が行われている限り、この商品に本質的な問題はない」と述べた上で、「問題は、関係者が十分なデューデリジェンスを行っていないことだ」と指摘した。

  財務アドバイザリー会社ニューグループ創業者のジョセフ・ニュー氏も同調する。2021年に破綻した英国のサプライチェーン金融会社グリーンシルの例を挙げ、「不正行為を行うプレーヤーが市場全体の信用を損なう」と語った。

  ニュー氏はサプライチェーンファイナンスの一種であるリバースファクタリングについて、優良企業はこのサプライヤー向け金融プログラムを継続しており、ファースト・ブランズの件で方針を変えることはないと話した。

  銀行と仕入れ企業が連携してサプライヤーへの早期支払いを可能にするリバースファクタリングの利用は新型コロナウイルスのパンデミック以降、拡大している。データ会社BCRによると、2024年の世界取扱高は2兆5000億ドルと、19年の9710億ドルから大幅に増加していた。

  サプライチェーンファイナンスへの需要は続く見通しだ。世界最大級の提供会社の1社であるHSBCの米法人でグローバルトレードソリューション事業を統括するアジット・メノン氏は、現在の通商摩擦が需要を一段と押し上げると予想している。

  一方、格付け会社はサプライチェーンファイナンスへの過度な依存は企業の財務状況を実態より健全に見せる恐れがあると警告する。S&Pグローバル・レーティングのマネジングディレクター、シュリパド・ジョシ氏は「この種の取引は、企業の基礎的な財務健全性を誤って見せる面がある」と指摘した。

  もっとも、こうした資金調達の多くは企業活動を支えるものであり、リスクよりもむしろ実務的な利点が大きいとみられている。

  米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)はリバースファクタリングを提供している。仕入れ先への支払いを通常90日後に行うが、その間、取引先は「J&Jの信用格付けを活用し、低金利で資金を調達することができる」とジョー・ウォークCFOは説明した。

原題:First Brands’ Blowup Puts Trade Finance in Focus: CFO Briefing(抜粋)

— 取材協力 Robert Langreth and John Murphy

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