マツダと日本製鉄が共同で車体開発 トランプ関税下で変わる力関係

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マツダ日本製鉄は23日、自動車の車体開発で連携すると発表した。日鉄が車両開発の初期段階から関わり、共同でコスト削減を検討する。マツダは米関税政策で業績が悪化しており、日鉄の知見を得てサプライチェーン(供給網)で抜本的なコスト削減を進める。自動車メーカーが優位に立ってきた力関係が、関税の逆風下で変わり始めた。

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「競合から共創に買い方を変えることで、スモールプレーヤーでも競合力のある商品づくりを実現していける」。マツダの鷲見和彦常務執行役員は強調した。

マツダは同日、供給網に関する構造変革の説明会を開き、日鉄と車両開発の初期段階から連携する方針を打ち出した。マツダによると、日本の自動車メーカーと素材メーカーが開発の初期段階から全面的に手を組むのは初めてという。

まず2025年末に欧州で発売する多目的スポーツ車の新型「CX-5」から導入し、対象車種を広げる。対象車種は部品ごとではなく、車1台分の鋼板を日鉄1社にまとめて発注し、開発に一体で取り組む。

マツダが踏み込んだ供給網の見直しに着手するのは、米関税政策やインフレによるコスト高への危機感が強いからだ。

トランプ米政権は4月、自動車関税を引き上げた。9月には輸入車の関税が27.5%から15%に引き下げられたが、従来の2.5%よりは高い水準にある。マツダは米国販売の8割を日本とメキシコから輸入しており、関税の影響が大きい。

マツダなど日本車大手7社が発表した26年3月期通期の関税影響額は、合計で2兆7000億円に上る。マツダは特に打撃が大きく、同期の純利益は前期比82%減の200億円、営業利益ベースで関税による押し下げは2333億円に達する見込みだ。従来のコスト削減を続けていては悪化した損益を補うことは難しい。

鋼板は車の骨格を担っており、車体の性能やコスト競争力を左右する。マツダは従来、新型車の開発のたびに自ら構造を設計し、部品ごとにどんな種類の鋼板を使うかを日鉄を含む複数の素材メーカーに競わせて決めてきた。

マツダが決めた枠組みの中でしか提案できないため、素材メーカーは選択肢が限られ技術力を十分に生かせなかった。マツダはその時々の最適な見積価格で選んできたため、供給網全体では実はむだなコストが生まれていたことを見落としていた。

日鉄と新型車の設計段階で車両全体の重量やコスト削減の目標を共有する。日鉄から最適な鋼板の製法などを提案してもらい、品質向上と軽量化を実現させる。

日鉄はCX-5では軽くて強度も高い次世代の鋼材を提案した。安全性など性能を確保しつつ鋼材重量も前モデルより1割軽くなった。

マツダの国内工場は広島県と山口県にある。この近くにある日鉄の工場から調達する。物流コストや二酸化炭素(CO2)削減にもつながる。

日鉄にもメリットがある。日鉄は開発初期から参加することにより、ノウハウを蓄積し提案力を高める。

例えば、軽量化と強度を両立したいときに要望に応じて鋼材を開発するだけでなく、新しい設計を示すこともできる。

自動車業界では歴史的に、自動車メーカーを頂点とするピラミッド型の取引関係が形成されてきた。直接商品を納める有力な1次取引先である鉄鋼メーカーに対しても、大口の発注元である自動車メーカーは価格交渉などの面で優位な立場を築いていた。

近年は中国勢の台頭など鉄鋼業界の競争激化を背景に、暗黙の上下関係に変化の兆しが出ていた。

日鉄は21年に電動車のモーター材料となる鋼板を巡り、特許権を侵害されたとして中国の鉄鋼大手と合わせトヨタ自動車を訴えた。23年にトヨタへの損害賠償請求を放棄したが、国内製造業のピラミッド構造のあり方に一石を投じた。

マツダと日鉄の取り組みは自動車メーカーと素材メーカーが従来のような上下関係ではなく、対等な関係になったことを示す。

鷲見氏は「(価格の)折衝に時間をかけてもあまり大きなメリットがとれない。共創でムリ、ムダ、ムラを取った方がよい」と語った。

日鉄は国内外の複数の自動車メーカーにも同様の提案を進めており、新たなビジネスモデルを広げる考え。米国の高関税の新常態により、自動車業界の構造改革が加速する。

(大倉悠美、茂野新太)

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