情報漏洩、斎藤知事の「指示」巡り全面対立 蜜月「牛タン倶楽部」の複数側近が〝反旗〟
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書に端を発した一連の問題は、外部有識者による調査結果が出そろい、新たな局面に突入した。目下の焦点は、元総務部長による告発者の私的情報の漏洩(ろうえい)に、斎藤氏が関与したか否か。最側近とされた当時の複数の県幹部が「知事の指示」を認める中、斎藤氏は「ない」の一点張りで、3日に開会した県議会での議論も、はや空転の様相を帯びる。
人格攻撃で弾劾狙う
昨年4月19日夕、迎山志保県議=ひょうご県民連合=の控室を井ノ本知明(ちあき)総務部長(当時)がアポなしで訪れた。迎山氏によれば、井ノ本氏は告発文書を作成した元県民局長の私的情報に関する資料を持参。ぱらぱらとめくるように示し、迎山氏に「どう思います?」と水を向けた。そのうえで告発文書について「追及したら恥をかく。議会で取り上げるようなものじゃない」と自身の印象を伝えて帰ったという。
弁護士でつくる県の第三者委員会は5月に公表した報告書で、井ノ本氏による県議3人に対する情報漏洩を認定。その動機として「元県民局長の私的情報を暴露して人格に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する点にあった」と県議3人の受け止めを記載した。
弁明書の〝爆弾発言〟
井ノ本氏は第三者委の調査に対し、当初は漏洩の事実はおろか県議3人との面会も否定した。ところが今年2月14日付で提出した「弁明書」で一転漏洩を認め、「知事と副知事の指示だった」と衝撃的な理由を挙げた。
井ノ本氏側の新主張はこうだ。昨年4月4日か5日ごろ、斎藤氏に元県民局長の私的情報について報告したところ「議員に情報共有しといたら」と言われた。片山安孝副知事(当時)も別の機会にそれに同調した-。
「知事の指示」があったとされる場には小橋浩一理事(同)も同席。小橋氏は第三者委に対し、井ノ本氏の新主張に沿った証言を行い、片山氏も「知事から指示があったと聞き、それに反対しなかった」と述べた。
一方の斎藤氏は「漏洩指示」を言下に否定。一般的な意味合いでの「議会との情報共有」にも一切言及していないとし、井ノ本氏の「独断」との認識を示したという。
崩れた蜜月関係
井ノ本、小橋、片山の3氏にもう一人を加えた当時の県幹部4人は、総務省キャリアだった斎藤氏が宮城県庁に勤務していたころから交流があった。文書問題が起きる以前の斎藤氏と4人の蜜月ぶりは、同県名物をもじって「牛タン倶楽部」と呼ばれるほどだった。
第三者委はかつての親密な関係から、小橋氏が井ノ本氏と意を通じ、斎藤氏に不利な証言をした可能性もあるとしつつ「これを裏付ける資料はない」と指摘。片山氏が同様の証言をしたことも踏まえ、最終的には情報漏洩について「知事および元副知事の指示があった可能性が高い」と結論づけた。
給与カット条例の行方
第三者委の報告書は新たな波紋を生み、県議会では再び、斎藤氏の辞職を求める動きが活発化しつつある。
一方の斎藤氏は会見で「指示はしていない」と繰り返し、かつての最側近と言い分が食い違う理由を問われても「それぞれの方がそれぞれの証言をされた」と述べるにとどめた。
第三者委の委員長を務めた工藤涼二弁護士は取材に「委員長としてではなく、一人の弁護士の意見」と断りつつ「結論を顧みていただけないのは残念。『知事の指示の可能性が高い』という調査結果には、自信を持っている」と話した。
開会中の6月議会の焦点は、斎藤氏が提出した自身の給与を3カ月間50%カットする条例改正案の行方だ。情報漏洩が起きた「組織の長」としていわば監督責任を取るというのが提案趣旨だが、議員からは「給与カットで幕引きとはいかない」と反発も少なくない。とはいえ「漏洩指示」の有無という問題の核心については議会答弁でも水掛け論に終始、議論は深まっていない。