コラム:世界の自動車メーカー、貿易戦争激化で市場争奪戦

 トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争の影響により、米国と中国という世界の2大市場以外の地域で自動車メーカー間の競争が激化する流れになろうとしている。上海で4月23日撮影(2025年 ロイター/Go Nakamura)

[香港 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争の影響により、米国と中国という世界の2大市場以外の地域で自動車メーカー間の競争が激化する流れになろうとしている。

米政府は25%の自動車関税を今月発動する前から、中国の自動車メーカーに門戸を閉ざしていた。また、ホワイトハウスは外国から輸入する自動車部品への一部関税を軽減しようとしているが、なお残る負担の大きさから、ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N), opens new tabやトヨタ自動車(7203.T), opens new tab、現代自動車(005380.KS), opens new tabなどは別の市場でシェア獲得に活路を見出さざるを得なくなるだろう。

こうした状況は中国の前途にとって暗雲が漂う。コメルツ銀行のシニアエコノミスト、トミー・ウー氏によると、中国の自動車産業は経済成長のエンジンであり、昨年の国内総生産(GDP)の10%、総輸出の6.5%を占めていた。さらに自動車産業は、中国国内の工場稼働率を高水準に保ち、海外で技術面における優越的地位を築くことを可能にする「中国株式会社」の象徴的存在でもある。

中国国内の自動車需要は既に弱まっている。そうした中で比亜迪(BYD)(002594.SZ), opens new tab, (1211.HK), opens new tabや吉利汽車(0175.HK), opens new tab、上海汽車(600104.SS), opens new tabなどの昨年の輸出台数が前年比19%増の600万台近くに達した。9000万台とされる世界自動車市場において、中国メーカーはその半分を供給する生産能力を持つ。

そして米政府が足元で中国に対し、通商面で幅広い強硬措置を講じているため、中国国内の需要は一段と減る可能性がある。先週の上海国際モーターショー開幕時には、中国のメーカーやサプライヤー、ソフトウエア事業者らはBreakingviewsに、今年は別の市場での販売拡大に力を注ぐと述べた。

Chart shows that exports account for a growing percentage of China's sales of internal combustion engine passenger vehicles, whereas exports are less significant as a proprtion of electric-car sales.

<広がる障壁>

だが、その戦略には問題が増え続けているように見える。中国メーカーにとって最大の海外市場となっているロシアでも、外国メーカーへの対応が厳しい方向に変わりつつあるのだ。

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、トヨタ自動車やフォルクスワーゲン(VOWG.DE), opens new tab、ステランティス(STLAM.MI), opens new tabなどの西側メーカーが撤退すると、その穴を埋める形で中国車がロシア市場に流入。ロジウムによると、昨年までに吉利汽車や長城汽車(601633.SS), opens new tabといった中国勢のロシア市場におけるシェアは50%を超え、中国の自動車輸出の約20%がロシア向けになった。

しかしロシア政府は今年、国内で販売される車に対して関税に相当するリサイクル料を導入し、国内ブランドは払い戻しを受けられるが、外国メーカーにはその権利が与えられない措置が講じられた。

国際貿易センターのデータによると、今年1─2月のロシア向け中国自動車輸出台数はおよそ6万台で、第1・四半期全体でも前年同期の約17万台に届かない状況がうかがえる。

もちろん米国とロシアだけでなく、トルコ、ブラジル、欧州連合(EU)も中国車に障壁を設けようとしており、EUは昨年10月に域内に輸入される中国製自動車に適用する関税率を最大45.3%に引き上げた。

中国車に市場を開放しているのはオーストラリアやノルウェー、サウジアラビアなどごく一握りの国しかない。ロジウムによると、中国メーカーに歓迎姿勢の国・地域の合計市場規模は年間1000万台前後だろうという。

<小さなパイの争奪戦>

このような小規模で細分化された市場への販売は苦労を伴うが、これまで成功を収めている中国メーカーが1社存在する。それが地方政府保有の奇瑞汽車で、2001年に海外輸出を開始して以来、輸出先を100カ国余りに拡大し、中国最大の自動車輸出企業になっている。昨年1─9月の海外売上高は前年比35%増の800億元で、税引き前のグループ粗利益率は7%超とGMに匹敵する。

ただ奇瑞汽車は米国には進出できておらず、多くの輸出先は市場規模が非常に小さい。オートフォーサイト創業者ユー・チャン氏はこの戦略について、鶏の骨についているわずかばかりの肉を取り出そうとする作業に似ていると説明する。実際、奇瑞汽車の総売上高は、昨年全体で1800億ドル弱を稼ぎ出したGMに比べれば霞んでしまう。

Chart shows that China's auto exports are well diversified, and major markets include Russia, Central and South America, Middle East, Africa and the European Union, among others.
それでもライバル勢が奇瑞汽車の戦略を模倣しようとすることで、これらの小規模市場で競争が激化するだろう。またGM、フォード・モーター、ステランティスというデトロイトの大手3社の事業基盤と、中国メーカーが狙う輸出市場も重複する。ステランティスの売上高のうち、北米の比率は40%程度に過ぎない。LSEGのデータによると、フォード(F.N), opens new tabは米国外の売上高が全体の約33%、GMは約20%だ。

フォードとステランティスにとって、欧州は米国を上回る最大の市場。ステランティスの場合、南米市場がその次に大きい。GMの南米事業も相当な規模だ。メキシコのように、今もエンジン車人気が高い市場は重要な市場争奪戦の舞台になるだろう。中国が昨年輸出した自動車の約75%はエンジン車だった。

とはいえ市場の成熟化を示唆する材料も多い。ビジブル・アルファによるアナリスト調査では、昨年31%だったフォードの南米市場の増収率は今年、4%未満に鈍化する見込み。GMとステランティスの南米部門の増収率も1けた台前半に減速すると予想されている。

一方、中国乗用車協会(CPCA)は、今年の中国自動車輸出が過去5年で初めて前年割れになるかもしれないと警告する。日本メーカーと米国メーカーの中国における売上高は昨年、それぞれ18%減と23%減だった。

ステランティス、三菱自動車、ルノー(RENA.PA), opens new tabは事実上中国から撤退。GMは昨年12月に計上した50億ドルの損失が中国の工場閉鎖絡みだったと明らかにした。日産自動車(7201.T), opens new tabも中国の生産能力を削減した。
Shows many automakers in China are using less than half of their production capacity.
中国有力メーカーの足場も揺らいでいる。ホンダ(7267.T), opens new tabと日産自動車とそれぞれ中国で合弁を手掛ける国有の東風汽車(0489.HK), opens new tabは昨年の乗用車工場稼働率が50%程度にとどまり、同じ国有の長安汽車との経営統合を協議中だ。

もっとも、中国における自動車産業の重要性を踏まえると、海外勢ほど急速に各メーカーが生産設備を縮小する公算は小さい。国有企業は、民間企業ほど利益に目くじらを立てない傾向もある。トランプ氏の仕掛けた貿易戦争は世界中の自動車メーカーに痛手を与え、中国メーカーももちろん犠牲者の中に入るだろう。ただ、「中国株式会社」は痛みの受容力が相対的に大きいかもしれない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Katrina Hamlin is global production editor, based in Hong Kong. She is also a columnist, writing on topics including autos and electric vehicles, as well as the gambling industry in Macau and Asia. Before joining Reuters in 2012, Katrina was deputy managing editor of Shanghai Business Review magazine. She graduated from the University of Oxford with an MA in Classics, and earned a Masters of Journalism with distinction from the University of Hong Kong.

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