コラム:世界の自動車メーカー、貿易戦争激化で市場争奪戦
[香港 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争の影響により、米国と中国という世界の2大市場以外の地域で自動車メーカー間の競争が激化する流れになろうとしている。
こうした状況は中国の前途にとって暗雲が漂う。コメルツ銀行のシニアエコノミスト、トミー・ウー氏によると、中国の自動車産業は経済成長のエンジンであり、昨年の国内総生産(GDP)の10%、総輸出の6.5%を占めていた。さらに自動車産業は、中国国内の工場稼働率を高水準に保ち、海外で技術面における優越的地位を築くことを可能にする「中国株式会社」の象徴的存在でもある。
そして米政府が足元で中国に対し、通商面で幅広い強硬措置を講じているため、中国国内の需要は一段と減る可能性がある。先週の上海国際モーターショー開幕時には、中国のメーカーやサプライヤー、ソフトウエア事業者らはBreakingviewsに、今年は別の市場での販売拡大に力を注ぐと述べた。
Chart shows that exports account for a growing percentage of China's sales of internal combustion engine passenger vehicles, whereas exports are less significant as a proprtion of electric-car sales.<広がる障壁>
だが、その戦略には問題が増え続けているように見える。中国メーカーにとって最大の海外市場となっているロシアでも、外国メーカーへの対応が厳しい方向に変わりつつあるのだ。
しかしロシア政府は今年、国内で販売される車に対して関税に相当するリサイクル料を導入し、国内ブランドは払い戻しを受けられるが、外国メーカーにはその権利が与えられない措置が講じられた。
国際貿易センターのデータによると、今年1─2月のロシア向け中国自動車輸出台数はおよそ6万台で、第1・四半期全体でも前年同期の約17万台に届かない状況がうかがえる。
もちろん米国とロシアだけでなく、トルコ、ブラジル、欧州連合(EU)も中国車に障壁を設けようとしており、EUは昨年10月に域内に輸入される中国製自動車に適用する関税率を最大45.3%に引き上げた。
中国車に市場を開放しているのはオーストラリアやノルウェー、サウジアラビアなどごく一握りの国しかない。ロジウムによると、中国メーカーに歓迎姿勢の国・地域の合計市場規模は年間1000万台前後だろうという。
<小さなパイの争奪戦>
このような小規模で細分化された市場への販売は苦労を伴うが、これまで成功を収めている中国メーカーが1社存在する。それが地方政府保有の奇瑞汽車で、2001年に海外輸出を開始して以来、輸出先を100カ国余りに拡大し、中国最大の自動車輸出企業になっている。昨年1─9月の海外売上高は前年比35%増の800億元で、税引き前のグループ粗利益率は7%超とGMに匹敵する。
ただ奇瑞汽車は米国には進出できておらず、多くの輸出先は市場規模が非常に小さい。オートフォーサイト創業者ユー・チャン氏はこの戦略について、鶏の骨についているわずかばかりの肉を取り出そうとする作業に似ていると説明する。実際、奇瑞汽車の総売上高は、昨年全体で1800億ドル弱を稼ぎ出したGMに比べれば霞んでしまう。
Chart shows that China's auto exports are well diversified, and major markets include Russia, Central and South America, Middle East, Africa and the European Union, among others.フォードとステランティスにとって、欧州は米国を上回る最大の市場。ステランティスの場合、南米市場がその次に大きい。GMの南米事業も相当な規模だ。メキシコのように、今もエンジン車人気が高い市場は重要な市場争奪戦の舞台になるだろう。中国が昨年輸出した自動車の約75%はエンジン車だった。
とはいえ市場の成熟化を示唆する材料も多い。ビジブル・アルファによるアナリスト調査では、昨年31%だったフォードの南米市場の増収率は今年、4%未満に鈍化する見込み。GMとステランティスの南米部門の増収率も1けた台前半に減速すると予想されている。
一方、中国乗用車協会(CPCA)は、今年の中国自動車輸出が過去5年で初めて前年割れになるかもしれないと警告する。日本メーカーと米国メーカーの中国における売上高は昨年、それぞれ18%減と23%減だった。
もっとも、中国における自動車産業の重要性を踏まえると、海外勢ほど急速に各メーカーが生産設備を縮小する公算は小さい。国有企業は、民間企業ほど利益に目くじらを立てない傾向もある。トランプ氏の仕掛けた貿易戦争は世界中の自動車メーカーに痛手を与え、中国メーカーももちろん犠牲者の中に入るだろう。ただ、「中国株式会社」は痛みの受容力が相対的に大きいかもしれない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Katrina Hamlin is global production editor, based in Hong Kong. She is also a columnist, writing on topics including autos and electric vehicles, as well as the gambling industry in Macau and Asia. Before joining Reuters in 2012, Katrina was deputy managing editor of Shanghai Business Review magazine. She graduated from the University of Oxford with an MA in Classics, and earned a Masters of Journalism with distinction from the University of Hong Kong.