「人権よりも議席を優先した」 夫婦別姓の採決見送りに「落胆」の声
28年ぶりに法案が提出され、国会で審議された選択的夫婦別姓制度。22日に会期末を迎える今国会での採決は見送られ、継続審議となった。参院選後の今秋の臨時国会で改めて議論される見込みだ。各党に制度導入を働きかけてきた一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事は「人権の話が政争の具にされた」と憤る。
選挙前に「マウント合戦」
「参院選を前にして党派間での足の引っ張り合いや、他党より優位だとアピールする『マウント合戦』が繰り広げられた。いかに議席を守るかということが、人権問題の解決よりも優先された」
Advertisement井田さんは選択的夫婦別姓を巡る各党の動きを振り返り、落胆を隠さない。
自民党は党内で保守派の反発により議論をまとめきれず、法案提出を見送った。井田さんは「これまで国会での議論を30年近くも阻んできたのに法案すら出さず、審議の進行を妨げた」と指摘する。
2024年の衆院選で選択的夫婦別姓の実現を公約に掲げた公明党も、自民に足並みをそろえた。「(1996年の法制審議会による)答申に賛同しているのなら、国民民主党や日本維新の会に声をかけて法案を共同提出する手もあったはず。結局、選挙前に自民をおもんぱかった姿勢が強く出た」と批判する。
国民民主の独自色は「引き延ばし戦略」
野党も足並みが乱れた。とりわけ井田さんが失望したのは国民民主の「変節」だ。
4月には玉木雄一郎代表から法制審の答申と同内容の法案を「公明と一緒に出す」と聞いていた。「独自法案を遅れて出し、引き延ばし戦略で一本化を阻んだ」
党内の推進派からも「立憲民主党の法案との違いがほとんどなく、一本化できないのか」との声も上がっていた。
井田さんは「党の独自色に拘泥し、結果的に法案提出が遅れた。『立憲も嫌だけど、自民も嫌だ』という層や、(ジェンダー平等に否定的な)ネット保守層の票を取り込みたいという執行部の判断があったのでは」と分析する。
維新主張の旧姓併記、コストの問題は?
一方、維新の法案は夫婦同姓を維持しつつ、戸籍に旧姓を記載して法的拘束力を持たせ、旧姓併記に加えて旧姓のみを単独で使用できると主張する。国会審議では他党の保守系議員も同調した。
しかし、井田さんは維新案では問題の解決にならないと言う。
「実現するためにどれくらいの法律や政省令の改正、コストが必要なのかという調査もこれから。旧姓のみの記載が可能になるというエビデンスは全くない。何より改姓したくない人の氏を『旧』姓にさせる意味がない」
旧姓使用の拡大を巡っては、2019年には住民票とマイナンバーに旧姓併記をできるようになったが、国庫だけで194億円がかかったうえ、各市町村の財政にもシステム改修費が重くのしかかった。
「今でも旧姓のみでは車の運転や投票もできず、旧姓口座開設を断る金融機関も多い。多大なコストは国民にのしかかっているはずなのに、国は国民に十分な説明をしていない」
根拠なき「家族の一体感喪失」
国会審議では、選択的夫婦別姓制度に慎重派の議員から「制度導入によりファミリーネームが消滅し、家族の一体感が失われる」などとの訴えがあった。
17日にあった衆院法務委員会で参考人招致された井田さんは「全く根拠がない主張だ。(戸主の男性が家族を統率する)家制度は戦後に廃止されており、氏は法的には『個人の氏名の一部』となっている。妻と夫の先祖代々の名字どちらも大事だからこそ、選択的夫婦別姓制度の導入を求めているカップルもいる。現行法では(法律婚のときに95%が改姓する)妻側のファミリーネームはないがしろにされている」と説明する。
「選択的夫婦別姓というのはアイデンティティーの回復であり、不便だけを解決すればいいのではない。世界で唯一、フルスペックで女性にも生来の氏名を維持する権利を与えていない日本で、これを実現できるかどうかが焦点だ」と井田さんは力を込める。
「今秋の臨時国会では各党が力を合わせて、明治民法の施行以来130年間続いてきた夫婦同姓の強制を、選択制に変えていただきたい。(改姓を望まない人に)一人一つの生来の氏名を強制的に失わせることをせずにすむよう、人権問題に立ち戻って話し合いをしてほしい。法案は一本化できると信じています」【西本紗保美】